6 近代魔法空間
スィンザは、建造物の入り口らしき扉に認識票をかざした。
その扉は魔法によって自動で開いた。
その扉を通ると、目を開けられないほど強い風が、四方八方からスィンザを襲った。
これは「清掃魔法」と呼ばれるものの一種である。魔法の風によって、体や服などに付着した汚れをほぼ完璧に除去することができる。
風が止み、スィンザは乱れた髪を直しながら扉の向こう側のロビーに出た。
建物の外見からは想像できないほど広いロビーには、十七カ所の無人の受付があった。また横方向に広がるロビー内には、数百人が待機できそうな、無数のソファーや、テーブルセットがある。
今の時間は、ほぼ無人に近いが、午前中の出撃準備時間には、このロビーに人が溢れかえる。
スィンザは、一番近い受付に真っ直ぐ向かうと、カウンターの上の魔方陣に認識票をかざした。
魔方陣が発光すると、そこに慣れた様子で数字を指で書き込んだ。
(一、九、二、九……)
ロビーから建物内部につながる扉が、緑色に発光した。
スィンザは、その扉に向かって進む。
扉の前に立つと、認識票をかざして、指で扉に数字を書き込んだ。
(一、九、二、九……三、六……)
今度は扉が青色に発光して、「ポーン」という合図音が聞こえた。
「ぽーん……」
合図音が可愛くて、一人の時はいつも真似をしている。
スィンザは、発光の合図を確認すると、その扉を開けた。
その扉の向こう側には、とても広い食堂の入り口につながっていた。
その食堂は、ボーダーガーディアンチーム「トライホーン」に所属する者なら支払い無しで利用できる。食堂の運営費は、チームの活動費などから支出されている。
スィンザはいつも、人のいないこの時間帯に食事を済ませて、早々に自室に帰る。
自室に帰る時は、食堂に入った時と同じように、魔法の扉を使う。
これらのシステムは、すべて魔法で稼働しており、認識票、パスワード、生体認証が登録してあれば、建物内を等級制限の範囲内で自由に移動できる。
またこの建造物は「空間魔法」で作られており、建物の外見の数十倍の内部面積がある。
このような建物のことを近代魔法空間と呼んだ。
スィンザは、食堂で提供されているものの中で、最も安いとされている栄養濃縮パンと、牛乳のような飲み物を受け取り、短時間で食事を終えた。
栄養濃縮パンは、魔法で人間に必要な栄養素を濃縮させた食品である。
本来は非常食用として作られたが、緊急出撃など食事の時間が取れない者たちのために、食堂に用意されている。
味はとにかく不味い。
薬草を煮詰めたかのような、強烈な渋みと苦みで頭痛が起こるほど不味い。
スィンザは、このサツ人激マズパンを表情一つ変えずに完食した。
そして、わずか数分の夕食を終えたスィンザは、足早に食堂を後にした。




