12 命を預かる者たち
死闘訓練を終えた三人が、闘技場から出てきた。
まだ若いスィンザはいいが、ダバロとバルターカは鍛え続けているとはいえ、四捨五入すれば六十代後半。寄る年波には勝てない。
「スィンザは、戦えば戦うほど強くなるな」
「まったくだ。今日の死亡回数はわずか十一回。対しておれたちは、二人合わせて九回だ。次の訓練で逆転するぞ。これでは後進に示しがつかん」
バルターカとダバロは、ぐったりとした様子で、闘技場入り口付近の備え付けのベンチに腰を下ろした。
「ダバロさん、バルターカさん。本日もご教授いただきありがとうございました」
スィンザは鞘の部分を両手持ちして、ダバロとバルターカに深々と頭を下げた。鳥人剣士式の立礼で二人に対して敬意と感謝を示した。
「座したまま失礼する」
「おつかれさん」
ダバロとバルターカは、座ったままスィンザに頭を下げた。
「そうだ、スィンザ。これを持っていきなさい。食堂のスペシャルメニュー券だ。この券を出した者だけが食べられるスペシャルメニューを頼めるぞ。『バリガン』とでも行ってきたらどうだ?」
ダバロは、懐から紙幣のような大きさの紙を数枚、スィンザに手渡した。
スィンザは、一瞬受け取るのをためらった。
彼女にとって、スペシャルメニューを頼むのも、人と一緒に食事をすることもしたくなかった。
ちなみに「バリガン」とは、スィンザの剣術の師匠の息子のことである。スィンザがこの街の中で、二人だけ呼び捨てで名前を呼べる者の内の一人である。
だがバリガンとは、二人で食事をするほど親しいわけではない。
しかし、せっかく用意してくれたものを無碍にするのは失礼だと思い、スィンザはスペシャルメニュー券をありがたく受け取った。
「……いつもありがとうございます。それでは、もうすぐ出撃時間なので、失礼します」
「もうそんな時間かよ。今日は、そんなに頑張らなくていいぞ」
「そうだ。それにいつも言っているが、お前は、セカンドランク一体でいいんだ。無理して奥まで進むな」
「……はい。それでは失礼します」
スィンザは、教官たちに会釈をしたあと、足早に魔法のドアへと向かって行った。
スィンザは嘘をつくとき、声が若干低くなるというわかりやすい癖がある。
そしてその癖は、ボーダーガーディアンたちの教官であり元リーダーである、ダバロとバルターカにも見抜かれている。
「あいつ、またサードランク獲ってくるぞ」
「そうだろうな。おまけに報酬まで受け取らないからさらに質が悪い。いっその事『計画』を伝えてやった方がいいのだろうか」
悩むダバロに、バルターカは笑って言葉を返した。
「その場合、スィンザの性格だと、さらに張り切って黒い森に行くだろうな」
「ああ。おれもそう思う。バリゼから聞いたのだが、あの子の父親は高名な防具職人だそうだ。父親譲りの生真面目さと頑固さなのだろうか。まったく困ったものだ。それに……」
「それに?」
ダバロは、右手で頭を抱えた。
「……とっておきだったんだがな。スペシャルメニュー券……」
「ああ。あんまり喜んでなかったな。やっぱり女の子は服とか、アクセサリーじゃねぇか? 耳飾りいっぱいつけてるしよぉ……」
バルターカの言葉を聞いて、ダバロは頭を横に振った。
「ジジイが、年頃の娘にそんなもの渡せるわけがないだろう。不気味だぞ」
「それもそうか。じゃあ孫娘に選んでもらうか」
「おお。名案だな。おれの孫もスィンザと同じくらいの年だ。さっそく頼んでみるか」
「そうだな。ちょうど朝食食べに来てる頃だろうよ」
ダバロとバルターカは、善は急げと言わんばかりに、魔法の扉に向かった。




