11 続、死闘訓練
「すげぇな……こりゃ見る価値ありだな」
「これ、本当に訓練か? オヤジさんたち『獣戦技』使ってるぞ」
闘技場には、中で何が行われているのかを視聴できる映像魔法がかけられている。
早朝訓練のためにやって来たトライホーンのメンバーたちは、訓練を放棄して、魔法映像にくぎ付けになっていた。
「あの子、どんどん強くなるね。この闘技場、実力差があるとただの拷問部屋になるのに」
スィンザたちが実戦訓練を行っている魔法闘技場には、ダメージ無効魔法が全体にかかっている。
そのため、どんな致命的な攻撃を受けても、死ぬこともなければ、傷つくこともない。しかし、これでは実戦訓練にならないと提言したのが、トライホーンの鬼教官となったダバロである。
彼の提言によってこの闘技場は、ダメージ無効でありながら、痛みの記憶はそのまま残る苛烈な施設へと変貌した。
その結果、死の痛みに耐えられず、ボーダーガーディアンを辞める者や、嗜虐性に目覚める者、その逆に被虐性に目覚める者などを出してしまった。
トライホーンのメンバーの中には、この闘技場のことを「拷問部屋」、「懲罰房」、「SM生産場」などの不名誉な別名で呼ぶ者もいた。
「獣戦……角振剣!」
ダバロの剛剣が、スィンザに振り下ろされた。
スィンザは、ダバロたちの攻撃を受けようとはせず、ひたすら回避を徹底した。
「いいぞ、スィンザ! こいつはどうだ!」
ダバロの攻撃を避けたスィンザを、バルターカの剛腕が追撃した。
スィンザは、放たれた剛腕を風の魔法と、刀を使って受け流し、鮮やかにバルターカの腹を斬り裂いた。
「ぐっおぅ!」
バルターカは、胴体を鋭い刃で真っ二つにされた痛みで顔を歪めた。
「や、やるじゃねーか。もうダバロの技を自分の物にしたのか⁉」
「それでいい。鳥人は身体強化の恩恵が少ない種族だ。得られるのは、空を高速で飛ぶための優れた動体視力くらいだろう。だからこそ、攻撃を受けることは考えるな。お前の細い腕では、バーモの怪力は受け止められない……」
ダバロは、スィンザの技を賞賛しながら、その場で数回跳ねた。
「はい」
スィンザは、ダバロの攻撃を待ちながら、呼吸を整える。
ダバロの姿が、再び消えた。
次の瞬間、スィンザの目の前に瞬間移動したダバロ。
「……それ故に、技を磨け!」
放たれた斬撃をスィンザは回避する。
「驕ることなく、道を踏み外すことなく、剣の高みを目指せ!」
ダバロの連続斬撃は、スィンザを追い詰めていく。
最後の一撃は、右手片手持ちのスィンザにとって、受け流しをしにくい、左下から斬り上げとなった。
スィンザは、冷静に手を下げながら後ろ向きに飛んで、その一撃を回避した。
「……ダバロさん、バルターカさん。私が剣の高みを目指した先には……何があるんですか?」
スィンザの瞳は、いつも死の絶望に染まっている。その闇は、年を経るごとに深まっていた。
「ああ? まずバーモに殺されることがなくなるだろうよ。そんで、生き延びれば何だってできるぞ。お前はまだ、ヒヨコみてぇなもんだからな」
バルターカは、豪快に笑った。
「私は……闘魔の死刑囚なのに?」
スィンザは、つられて笑うことなく、無表情のままだった。
「スィンザ、そんな烙印に囚われるな。絶望ばかりに目を向けるな。希望とは、昇り来る朝日のようなもの。生き続ければ何度もお前を照らす。たとえどれだけ長い間、黒雲が空を覆っていたとしても、必ず太陽はお前を照らす。だからこそ、生き続けろ、スィンザ。お前にとって意味のある朝日を迎えるまで、希望を抱くその日まで、必死に生き続けろ」
「……はい」
ダバロのこの言葉は、この時のスィンザの心には届かなかった。
(この罪印がある限り、私は、闘魔の死刑囚だ。人に恐れられ、避けられる黒紅色等級だ。どれだけ温かい太陽に照らされても、この色は何色にも変わらない)
この時のスィンザは、怒りや悲しみが燃焼して生まれるモノが、自分の体を動かす原動力だと思っていた。




