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9 二人の教官


スィンザは魔法の扉を使い、自室から食堂へ向かった。


食堂はまだ開いていない時間。

だが、入り口前には、早朝出撃者、訓練参加者用の簡易朝食が容易されている。


その朝食は、体に必要な栄養素を魔法で濃縮した、液状食品である。

見た目は、瓶に入った牛乳にしか見えない。


この液状食品は非常に不味い。

これは、少量高栄養であるため、飲みすぎ防止策として、あえて不味いまま提供されている。


スィンザは毎朝これを飲んで、朝食を済ませる。


味は、トマトジュースに薬草系の強烈な苦みと、舌が痺れるほどの辛さを混ぜ合わせたような刺激的な味がした。おまけに微かに存在する自然的な甘さが、逆に不自然さを際立てており、とにかく不味いという感想しかなかった。


初めてこれを飲んだ直後は、吐き気と頭痛がして、体はこの飲み物を毒と判定していた。しかし、それを乗り越えたあとは、むしろ体調がよくなり、頭が冴えわたった。


短い朝食を済ませたあとは、施設内の訓練場で早朝の訓練を行いながら、追手門が開くのを待つ。


スィンザはいつもと同じように、魔法の扉に認識票と暗証番号を記入して、訓練場へ移動した。

早朝から訓練をしている者は、数多くいる。

スィンザは彼らの邪魔にならないように、訓練場の隅で柔軟から始めて、クロースアーマーを着たまま走り込みを行う。


その後は、基本的な足の運びの確認や、型の反復練習などに入る。



だがこの日は、いつもとは違った。


型の反復をしていたスィンザの背後から、凄まじい殺気が飛んで来たのだ。

スィンザは素早く体を反転させて、迎撃の構えでその殺気を放った者と対峙した。


「いい反応だ」


体を反転させたスィンザの目線の先には、長身で白髪の男性と、その人よりも背が高く、筋骨隆々の大男の二人組が立っていた。


「……おはようございます。ダバロさん。バルターカさん」

スィンザは二人の姿を確認すると、構えを解いて深々と頭を下げた。


「ああ。おはよう。恒例の抜き打ち訓練だ。闘技場へ行くぞ」

白髪の男性ダバロは、右手を軽く上げて答礼すると、手短に要件を告げた。


その二人組が現れたことで、訓練に集中していた周りの者たちが、一斉に二人のもとに集まり、一直線に横並びした。当然のようにスィンザもその列に並ぶ。


そしてその中で最も高位の者が、号令をかけた。


その号令に合わせて、下位の者たちは、二人に対してそれぞれの武器を捧げ持ちして、敬礼を行った。

それに対して、ダバロは剣を鞘から抜いて、捧げ持ちして答礼した。バルターカは、右の拳を左胸に押し当てる答礼で返した。


ボーダーガーディアンたちは、集団戦を基本としている。そのため、規律は軍隊並みに厳しく守られている。


「邪魔してすまなかったな。一同解散ッ!」

バルターカが、答礼を解いて、解散の指示を出した。


「一同解散!」

号令をかけた高位の者が、バルターカの指示を復唱すると各々訓練に戻って行った。


ダバロとバルターカは、スィンザが所属する組織「トライホーン」の初代リーダーたちである。現在は現役を引退し、教官という立場で在籍している。


組織名のトライホーンという名は、元々は彼らのコンビ名でもあった。

トライホーンに所属する者たちにとって、彼らは生きる伝説のような存在であり、権力を放棄したあとも敬われている。


「よし。じゃあ、行くか。スィンザ」

「はい」

バルターカは、ただ一人その場に残ったスィンザに声をかけた。


「気を引き締めろ。前回のお前は三十七回『死亡』した。今日はその数をさらに減らせ」

「はい」

ダバロの言葉に、スィンザは覚悟をもって返事をした。


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