7 蠟燭の火
スィンザは魔法の扉を使い、食堂から自室に帰ってきた。
「ああ。疲れたなぁ」
スィンザはそう呟きながら、クロースアーマーを脱ぎ、クローゼットに収納した。
手に持っていた刀とガフィフから渡された飴の袋は、部屋の奥の机の上に置いた。
耳につけたピアスも、全て外して机の上に並べる。
そして、ブラウスやインナー装備など着ていたものを全て脱いで、部屋の入口付近にあった狭い空間の扉を開けた。彼女がその狭い空間の中に入り、扉を閉めると、濃い霧のようなものが立ち込めた。
この濃い霧は、地肌についた余分なものを魔法で分解して、液体化させることで洗い流す、洗浄魔法と呼ばれるものである。
またこの濃霧と液状化したものは、水ではないため肌を濡らすことがない。
全身を洗浄魔法で清めたスィンザは、作業用の服に着替え、再び部屋の奥の机に向かった。
スィンザは、机の上に置いておいた刀の手入れを始めた。
古い油の除去は、簡易的な洗浄魔法の一種で取り除くことができる。しかし、油そのものや、それに類似するものをつくる魔法は、スィンザには使えないので、購入した刀剣油を使用する。
彼女の刀は店売りの安価品である。
風の魔法を強化する効果と、比較的高い強度が利点である。切れ味についてはスィンザが使う、ある魔法で補助しているので申し分ない。
また魔法刀の区分の中で安価なだけであり、他の量産武器と比較するとかなり高価なため、手入れは欠かせない。
刀の手入れのあと、備品の残量確認、クロースアーマー、装備品の点検を行う。
特にクロースアーマーの劣化は、命取りになるためより念入りに行う。
そして全ての作業の完了した後、机の上に一本の蝋燭を立てて、魔法で火をつけた。
その蠟燭の火にスィンザが手をかざすと、火は揺らぎ、最後には鎮火してしまった。
スィンザはある特殊体質を抱えている。
それは、火を吸収して自身の魔力に変換してしまう、非常に珍しい体質であった。
この吸収変換は、火にまつわるもの限定であり、それ以外には反応しない。
スィンザは、この体質に目覚めた時、力を与えてくれた神を恨んだ。この体質のせいで、「空戦銃士」と呼ばれる魔法の銃を使う兵士になる夢を絶たれたのだ。
スィンザが手に持った魔法の銃、通称「魔弾銃」は、なぜか全て壊れてしまう。
特殊体質が銃に影響を与えていることは、容易に想像できた。なぜなら、この特殊体質に目覚める前は、何の問題もなく魔弾銃を扱えていたからだ。
だがスィンザは、「ある日」を境にこの特殊体質を受け入れた。
それからスィンザは一日の終わりに、蠟燭の火を吸収するようになった。
これは、与えられた特殊体質にさえも、いつか見放される日が来るのではないかという恐怖から派生した行動だった。
蝋燭の火を吸収できた時のほんの小さな安心が、スィンザのひび割れた自己肯定感を支えていた。




