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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
スローライフを求めて

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第8話 静かな日なんて来やしない

ギルドの応接室。


ギルドマスターの顔色はやたら冴えていた。

いや、正確には“冴えすぎて引いてる”顔だ。


「いやいや君、あたまおかしいんじゃないの?」


机をばん、と叩きながら、ギルマスが目をむく。


「おかしくはないですよ! カッとはなりましたけど!」


「カッとなった程度であれは起こらないよね!?」 


「四回唱えてたよね? …説明して?」


僕は少しだけ視線を逸らした。

あの詠唱を思い出すと、ちょっと背中がムズムズする。


「えーっと、頭韻で八文字踏んで、脚韻で四文字ですね」


ギルドマスターがまばたきを二度。

そのあと、まるで魔物でも見るような目で僕を見た。


「…村に帰ろう。君は務めを果たしたし、言われたことをやっただけだ」


「え、あれ、ほっといていいんですよね?」


「むしろ何できるのよ」


言葉が妙に重かった。

ギルマスは目の下をこすりながら、ため息を吐く。


「君が何を呼んだのか、僕にはわからない。でも――少なくとも、生きて帰ってきた。それだけで御の字だよ」


「そんなにですか」


「そんなに、だよ。領主様がまだ館を立て直してる最中だもの」


(おおぅ…)


先ほどの光景が頭に浮かぶ。

確かにあれは、ちょっとやりすぎたかもしれない。


ギルマスは肩を竦め、手を振った。


「今日は宿に帰って休め。あまりうろうろしないようにね」


「…はい。失礼します」


やる気ゼロの返事を残して、僕はギルドを後にした。


扉を閉めた瞬間、向こう側で誰かが「ハンパねぇ」って呟いた気がしたけど、聞かなかったことにした。



宿に戻る頃には、街はすっかり昼の喧噪を取り戻していた。


部屋に戻って扉を閉め、ベッドに腰を下ろす。

ふぅ、と息をついて呟いた。


「まったく…なんて日だ」


頭の中にギルマスの顔が浮かぶ。


なんかブツブツ言ってた気がするけど、気のせいだと思いたい。


そのときだった。

床のあたりから、淡い光がじわりと広がる。


「…え?」


見下ろすと、魔法陣。


「なんで!? 韻すら踏んでないのに!?」


逃げようと立ち上がるより早く、光が弾けた。


部屋の空気が一瞬、変わる。

花の香りと、風のような魔力の波。


そして――


「お待たせ、セインツロウ!」


「…サリー!? どうして!?」


「あのね、お父様が行ってもいいって!」


「え?」


目の前でサリーが満面の笑み。

その横で、いつもの鎧姿のレニーが腕を組んでいた。


「セインツロウの所に行くことに対して詠唱は必要ない、とのお達しだ」


「はい!?」


頭が追いつかない。

詠唱なしで召喚とか、そんなルールいつできたのよ。


サリーがくるりと回って、スカートをひらりと揺らす。


「さっき、本当は私を詠んでくれたんでしょ?」


「違います姫様、あれは私を詠んだのです」


「…遠慮しなくなってきたわね、レニー?」


「その話あとでもいい?」


二人の間に挟まれて、僕はただ手を上げて降参のポーズ。


レニーの頬がじわじわと赤くなっていく。


「と、とりあえずだな、先程の詠唱は凄まじくてな、世界が軋んだかと思ったぞ!」


「みんな詠唱に応えようとしたのよ」


「それをお館様が代表して召喚に向かったのだ」


「戻ってきたらお父様すっごく上機嫌でね、セインに関しては好きにしていいって」


「だからこうやって自由に来れるようになったのだ」


(いやいや、気分屋すぎるだろサリー父…)


目の前のふたりはそんな僕の心の声なんて気づかず、嬉しそうに顔を見合わせていた。


「サリー? “セイン”って何?」


「セインツロウって長いから、愛称考えたのよ」


「よかったじゃないか、セイン…ツロウ」


「無理しなくていいよ?」


「うぅ…っ」


レニーがまた顔を赤くして黙り込んだ。

サリーはそんな彼女を見て、くすくすと笑う。



部屋の中で再び平和が戻った――ように思えた。


そのとき、宿の外がざわついた。


怒鳴り声。何人かの足音。

窓の外が妙に騒がしい。


「なに? この声…?」


窓を開けて覗くと、通りの真ん中で誰かが怒鳴っている。


「セインツロウ! 出てこい!」


「うっわぁ…」


「なにあの人?」とサリー。


「領主の息子だと思う」と僕。


「思う?」


「自己紹介してないんだよね」


サリーが小首を傾げる。レニーの表情が少し険しくなる。


「セインツロウ! いるのはわかっているぞ!」


(ああもう、めんどうだなぁ…)


レニーが僕の肩を掴んだ。


「これ以上は宿に迷惑だ、セインツロウ」


「わかったよ…」


深呼吸。

静かな日を望んでいたのに、もうこの展開か。


(僕のスローライフとは…)


心の中でぼやきながら、扉の方へと足を向けた。



宿の前に出ると、すでに人だかりができていた。


通りの真ん中で喚いているのは、見覚えのある青年――領主の息子だ。


さっき威勢よく啖呵を切ったあと、サリーの親父のオーラで気絶させられたあの男である。


「さっきはよくも騙したな!」


開口一番、それである。


(あー…やっぱ覚えてたか)


「騙した?」


僕が首を傾げると、彼は顔を真っ赤にして叫んだ。


「そうだ! あんな幼稚なトリック!」


(お前、気絶してたやんけ)


心の中でつっこむが、口には出さない。

通りの視線が全部こっちに集まっているのがわかる。


宿の女将さんがカウンターの奥から「今度はなに?」という顔をしていた。申し訳ない。


「この俺が父に代わって成敗してやる! 戦え!」


「えぇー…」


思わず間の抜けた声が出る。

戦う? なぜ? なんの流れでそうなる?


息子は勝ち誇ったように顎を上げ、サリーとレニーの方を見た。


その目は、まるで品定めするようにいやらしい光を帯びていた。


「そこの女二人を差し出すなら、それでも構わないがなぁ?」


空気が凍った。

通りのざわめきが一瞬止まる。


サリーが眉をひそめ、レニーの拳がかすかに鳴った。


僕の中の何かも――カチンと鳴った。


「…わかった。君と戦うの?」


息子はにやりと笑う。


「我が家の筆頭魔法使いだ!」


その背後から、ローブを纏った中年の男が歩み出てきた。


手には杖、目には慢心。

見るからに“実力派”を気取っている。



「んお!? マズイ! 詠唱しなくては!」


魔法使いが慌てて叫んだそのときには、僕はもう動いていた。


ズンズンと歩を進め――距離を一気に詰める。


「ちょっ!? え、もう!?」


「遅い!」


ゴスッ。

拳が先に出た。


鈍い音がして、魔法使いの体が宙に浮く。杖が宙を舞い、地面に転がった。


次の瞬間には、静寂。

通りの群衆が一斉に息を呑んでいた。


僕は手を振って、軽く肩を回した。


「距離考えよう?」


「殴る方が速いに決まってるじゃないか…バカなのかな?」


ぼそっと呟いたつもりだったが、通りに響いてしまった。


人々の間に笑いが広がる。


サリーが口を押さえて笑い、レニーは呆れたように息を吐いた。


領主の息子は顔を引きつらせながら、ようやく言葉を吐いた。


「…これだから田舎者は…!」


その声は怒りで震えていた。


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