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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
スローライフを求めて

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第6話 報告に来ただけですけど!?

街の入口をくぐった瞬間、いろんな匂いが鼻をくすぐる。


土の匂いじゃない。人の匂いがする。


人が集まる場所には、汗と鉄と香辛料と、いろんな生活の匂いが混ざってる。


僕は立ち止まり、通りを行き交う人々をしばらく見回した。


服装も言葉もまばらで、村よりもずっと喧噪が濃い。


荷車を引く商人、剣を背負った冒険者、陽気な物売りの声。


まるで別世界に来たみたいだ。


「村長も“街へ行け”ってだけで、どうしたらいいとか、何もなしだもんなぁ…」


思わずため息が漏れた。


あの人、説明が雑なんだよな。

まぁ、それが田舎のノリってやつなんだけどね。


(というか僕がどこの誰か証明するものがないんだよな…)


前世なら身分証とか免許証とかあったけど。


この世界じゃ村人の顔パスくらいしか信用にならない。


旅人になった時点で、僕の身元は“無”。

(作りますか、身分証…)


そういえば村に来てた商人が言ってた。


この世界には“ギルド”ってのがあるらしい。

組織というより、組合に近い感じだとか。


冒険者ギルド、商人ギルド――名前だけは聞いたことがある。


つまり、身分証がわりにしようってこと。


「…とりあえず、ギルド探しかな」


そう呟いて、通りを歩き出す。


石畳を踏む音が妙に硬くて、少し緊張した。

村の土の道の方がまだ優しかった気がする。



通りを歩いていると、腰に剣を下げた男が目に入った。


革の防具に旅の汚れが染みていて、どう見ても“冒険者っぽい”。


こういうときは話しかけるしかない。行動あるのみ。


「すいません、冒険者ギルドってどこにありますか?」


声を掛けると、男はちょっと驚いた顔をして、それから指をさした。


「この通りの先、見えるだろ?あの建物だよ。剣と盾の看板が出てる」


「あ、ありがとうございます」


軽く頭を下げて足早に向かう。


(この世界ではコミュ障は飢え死にしてしまうのさ…)


前世でも人と話すのは得意じゃなかったけど。


ここじゃ黙ってたら物理的に死ぬ。そういう世界だ。


(だから村から出ないでスローライフしてたかったんだよなぁ)


人の声と馬の蹄の音の中で、自分の呟きは風に溶けた。


でも、もう戻るわけにもいかない。


僕は自分の足で歩いて、選んで、ここにいるんだから。


通りの突き当たり、少し大きな建物が見えた。

外壁には木の看板――剣と盾の紋章。


どうやら、ここが冒険者ギルドらしい。



近づくと、扉が意外と軽い音を立てて開いた。


重厚なイメージだったのに、拍子抜けするほどスムーズだ。


中は想像よりも明るくて、どこか清潔感がある。


領主が治める街だけあって、設備もしっかりしてる。


奥の壁際には依頼の掲示板。


カウンターには数人の受付が並んでいる。


カップを片手に談笑している冒険者たちがちらほら見える。


(なんだろう…酒場ってより、役所に近いな)


少し緊張しながら列に並ぶ。


順番を待ちながら、木の床に視線を落とした。


見慣れない環境にいると、自分がまるで透明になった気がする。


ようやく僕の番が回ってきた。


受付の女性が笑顔で迎えてくれる。

綺麗というより、慣れてる笑顔って感じだ。


「ご用件をどうぞ」


「えっと、冒険者登録をお願いしたいです」


淡々と書類を渡される。

内容は名前、年齢、出身、得意分野――それだけ。


まるで履歴書みたいだ。


木製のカウンターに置かれた羽ペンで、見よう見まねで文字を書き込んでいく。


インクの匂いが少しだけ懐かしかった。


登録料を払うと、受付嬢が軽く頷いた。


「では、こちらが仮登録証です。三日後に正式なカードを発行しますね」


「ありがとうございます」


これで身分証問題はひとまず解決――のはずだった。


が、ふと頭をよぎる。


(村長の言い伝え、報告、領主…あれ、どうすんだっけ?)


「あのー、すみません。ちょっと相談があるんですけど」


受付嬢が首を傾げる。


「??? 依頼はあそこに張り出してあるわよ?」


「あ、ではなくてですね。村の言い伝えで――

“妖精を呼んだものは領主様に報告しないといけない”って決まりがあって…」


横から別の男の受付がひょいと顔を出した。


「え!? 妖精様!? どこ!? ここ!? 今!?」


「いやいや、村から途中までは一緒だったんですけど、野宿がイヤみたいで、帰りました」


一瞬、空気が固まった。


女の受付が鼻で笑う。


「そんな話、信じろっての?」


「信じなくていいですよ。ただ、報告しないと村に帰りづらくて…」


男の受付が腕を組んで唸る。


「俺たちじゃ判断できないな…ギルマス呼んでくる!」


「えー…そんな大事にしないでいいのに」


どたばたと走っていく足音。


僕の背後では、列の冒険者たちがひそひそと話している。


「妖精ってマジか?」「嘘だろ?」「あの見た目で?」


完全に“珍獣扱い”じゃないか。



「えー、なになに? 君が妖精様を呼んだって?」


軽い調子の声がして、振り返るとそこには


中肉中背で、やたら歯が白い男が立っていた。


なんかチャラい。これがギルドマスター――らしい。


「あ、はい。セインツロウと言います」


「うん! 丁寧でいいね!」


手を叩いて笑うギルドマスター。


「僕のことは“ギルマス”でいいよ! みんなそう呼ぶし!」


「ではギルマス、あらためてよろしくお願いします」


「よろしくぅ!」


この人、テンション高いな……。


目の奥だけがちょっと真剣なのが、逆に怖い。


「じゃあ何個か聞かせてもらってもいい? 僕もあんまり詳しくないけど、確認したくてね」


「大丈夫です」


ギルマスは机に肘をついて、指を組む。


「じゃあまず――どうやったら妖精様が現れたのかな?」


「…詠唱したら、ですね」


「詠唱。なるほど。で、何文字踏んだの?」


「たしか…十一文字、ですね」


「…ちょっと僕の部屋に行こうか」


「???」


流れが急すぎて思考が追いつかない。


ギルマスは僕を奥の扉に案内する。


中は静かで、外の喧噪が嘘みたいだった。


「ちょっと申し訳ないんだけど、必要なことだから…」


机越しにギルマスが立つ。

右手のひらを僕に向ける。


「嘘は言えぬ。嘘は死ねる」


途端に身体がうっすら光を帯びた。


(なにこれ!?)


ギルマスが軽く頷く。


「三文字踏んだ詠唱だ。これで嘘は言えないし、虚偽の場合は致命傷になる」


「そこまでしなくても…わざわざここまで来て嘘つかないですよ」


「念には念を、ってね。僕も立場上、手順を踏まないと怒られるんだ」


僕は深呼吸して、これまでの経緯をすべて話した。


村の言い伝え、全踏み詠唱、サリーとレニー、領主への報告――。


途中からギルマスの目つきが真剣になっていく。


「…まったくもって信じがたい…」


「ですよねー…」


沈黙が数秒続いた。


やがてギルマスが大きく息を吐き、笑って肩をすくめた。


「でもね、君の話は、少なくとも、嘘ではない。…そう判断せざるを得ない」


「はぁ…ありがとうございます?」


「領主様には僕の方から説明しよう」


「宿はギルドお抱えのところがあるから、あとで紹介してもらって」


「わかりました」


「何日かかかるけど、帰っちゃダメだよ?」


「えー…」


どこかで聞いたセリフを思い出した。



ギルドを出る頃には、夕暮れの光が街をオレンジ色に染めていた。


人通りが増え、屋台の匂いが通りを満たしている。

焼きパンの香ばしさと、どこかの店から流れる笛の音。


旅の終わりじゃなく、次の面倒の始まりだってのに、少しだけ胸が温かい。


紹介された宿は、通りから一本入った静かな通りにあった。


木の扉を開けると、奥から女将さんが顔を出す。


「ギルド紹介の方ね? 一泊二食でこの値段、よろしくね」


鍵と一緒に渡された小さな札には“201号室”の文字。


二階の角部屋だ。


荷物を置いて、ベッドに腰を下ろす。


硬いけど、草の匂いが心地いい。


(あー…疲れた)


体の力が一気に抜ける。


――思えば、ここまで誰かに導かれるまま歩いてきた。


自分の意思で決めたのは、「詠唱した」って瞬間くらいだ。


けど、それだけで世界が変わってしまった。


窓の外では、夕陽が屋根の端を焦がしていく。


「サクッとは帰れなさそうだなぁ」


街の喧騒が遠くに溶けて、あとは鳥の声と風の音だった。


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