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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
スローライフを求めて

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第5話 今日はただ歩くだけ(で済んでヨカタ)

三人で街に向かうことにして歩き始めて少し経つと、街道に陽が差してきた。


土の匂いが濃くて、歩くたびに靴の底がじわりと沈む。


前を歩くサリーの金髪が光を受けて、細い糸みたいに揺れていた。


その隣でレニーの鎧が、歩調に合わせて小さく軋む。


音だけ聞いてると、旅というより行軍だ。


「妖精の件を報告って、なにするの?」


サリーが退屈そうに口を開いた。


「昔からの言い伝えらしいよ?」


僕は肩をすくめる。


「私は聞いたことないわよ。召喚に応えるくらいの詠唱が昔あったなんて」


「私も聞いたことはありませんが、おそらくあったのでしょうね」


レニーが淡々と返した。


「どうしてそう思うの?」


レニーが答えなさそうなので、僕が意見することにした。


「じゃなきゃ召喚魔法なんて存在しない、ってこと?」


「その考えで概ね間違いないだろう、と思うがな」


三人の会話が途切れると、風の音だけが残った。


サリーは髪を結い直しながら、空を見上げて言った。


「ねぇ、報告って退屈そう」


「退屈って言うなよ。僕だってめんどくさいんだよ」


「貴様、姫様がめんどくさいだと?」


「レニー?セインツロウはそんな事言ってないわよ?」


ふたりのやり取りを横目に見ながら、僕は苦笑した。


“地に足つけて生きていこう”と思ってたのに、

歩けば歩くほど、地面が遠ざかっていく気がした。



しばらく歩いていると、街道の木々の影が少しずつ長くなってきた。


感覚的には昼を過ぎたあたり。


「そういえば昨日は、呼んでないのに来たよね? どういうこと?」


僕がそう言うと、サリーが得意げに胸を張った。


「あんなとんでもない詠唱よ? 私を詠んでくれたんじゃないの?」


「完全に姫様の暴走だった。すまなかった」


レニーが僕にだけ聞こえるように小声で言った。


僕は小さく息を吐いて肩をすくめる。


「ただの独り言を詠唱と勘違いするのはどうかと思うけど」


「貴様が韻を踏みまくるのがいけないのだ」


「えー…」


口を尖らせたところで、サリーが振り返る。


「ちょっと、なに二人でコソコソ話してるの?」


「いやぁ、ちょっとね、ハハハ……」


乾いた笑いでごまかすしかなかった。

僕は歩きながら手を軽く叩き、話題を変える。


「いい機会だからちょっと試してみたいんだけどさ…」


レニーが訝しげに眉を上げ、サリーが面白そうに目を輝かせる。


「どんなものが妖精の好みか、気になったんだ」


そう言って、僕は軽く息を吸い込んだ。


まずは、前世で覚えた“早口ラップ”。


足を止めず、リズムに合わせて舌を転がす。


が、サリーはきょとんとしたまま首を傾げた。


「…なに、それ?」


「次いくね」


英語、メロディラップ、マンブル、クラウド、トラップ。


いろいろ試してみたけれど、どれもサリーの耳には響かないようだった。


そのたびにレニーが驚いた顔で立ち止まり、口をあんぐりと開ける。


「貴様は一体なんなのだ…?」


「いや、ただの実験だよ」


「実験、ねぇ…」


サリーはつまらなそうにため息をつき、つま先で小石を蹴った。



気がつけば、空が茜色に染まっていた。


木々の間から差す光が、まるで焚き火の前触れみたいに赤い。


「今日はこの辺で野営かな」


僕が言うと、サリーが小さく眉をひそめた。


「まだ着かないのね」


「明日には着くけど、二人は今日はもう帰ったら?」


サリーは少し考えてから、ふっと微笑んだ。


「そうね…さすがに野宿はやめておこうかしら」


レニーの表情に安堵が走る。

サリーは軽く手を振り、風の中に立つ。


「じゃあ、またね、セインツロウ」


「しばらく詠唱しないでくれよ? せめてフツーのやつにしてくれ」


「わかったよ、じゃあね」


淡い光が二人を包み、魔法陣がゆらりと揺れた。



焚き火の火が、ぱちりと弾けた。


森の夜は冷たくて、息が白く揺れる。


ひとりきりの静けさ――それが本来、僕の望んでいたはずの“平穏”だった。


切り株に腰を下ろし、背を丸めながら薪をいじる。


炎の光が掌をなぞって、赤い影を落とした。


(…ひとりサイファーみたいで気恥ずかしかったなぁ)


呟くと、火が少しだけ跳ねた。


この世界に“サイファー”なんて言葉はない。


でも、きっと妖精たちにも伝わる何かはあると思ってた。


(でも、だいたいわかったことがある……)


妖精はメロディでもパンチラインでもなく、

純粋な韻の硬さを“美しさ”と捉えていること。


そして、韻を踏みながら“現象を描く”と、その意志に妖精たちは応えて力を貸してくれること。


けれど、詠唱では範囲や狙いを定めるのがとても難しい。


だからこそ、世に出回る攻撃魔法が少ない――そういうことなんだろう。


そしてもうひとつ。


妖精たちは、自分から韻を踏もうとはしない。

それを“人間の領分”だと思っているのかもしれない。


僕は焚き火に手をかざしながら、ふと考えた。


(僕の詩に、サリーが詠唱を続けたらどうなるのだろう)


それは好奇心とも、恐れともつかない小さな熱を残して、夜の空に溶けていった。



夜明け前の空が、かすかに白んでいく。


冷たい空気の中、羽織ったコートを直して立ち上がった。


ゆっくりと歩き出すと、東の空に朝日がのぞいた。


光の筋が街道を染めていく。


道の向こう、遠くに瓦屋根の群れが見える。


「…村からあんまり出なかったからうろ覚えだけど」


あれが領主様のいる街…のはず。


街の門の前までたどり着いた頃には、日が真上に来ていた。


無事に報告だけでサクッと帰れるといいんだけどなぁ。

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