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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
スローライフを求めて

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第4話 妖精姫と騎士のセキニン問題

…いや、マジで泊まる気だ、この娘。

サリーは当然のように暖炉の前に腰を下ろしていた。


手をかざし、ぱちぱちと燃える火をうっとり眺めている。


サリー姫、すっかりくつろぎモードだ。


「ねぇ、毛布ある?」


「いや、あるけど……泊まるって、ほんとに?」


「言ったでしょ。“泊めてちょうだい”って」


サリーが振り返り、悪びれもせずに笑う。


後ろで鎧が軋んだ。レニーが腕を組んで仁王立ちしている。


「姫様! このような男の家に泊まるなど、断じてなりません!」


「なによ、別にいいじゃない。危険もないし、暖かいし」


「問題はそういうことではありません!」


怒鳴る声が天井に響いた。


僕は肩をすくめる。いや、こっちも同意見なんだけど。


「サリー、夜は冷えるし、泊まるのはいいけど…えっと、騎士さん?」


「レニーと呼べ」


「じゃあレニー。レニーはどうするの?」


鎧の隙間から、視線が突き刺さる。

火の反射で、目だけが光ったように見えた。


「私まで呼び捨てにするとは貴様ッ!」


「い、いや今のは確認で!」


「二度はないぞ!」


(お手上げだ……)


そんな中、サリーは欠伸をひとつ。

立ち上がり、まるで自分の家のように寝床を探し始めた。


「じゃあ私、こっちの部屋を使うわね」


「ちょっと待って、そこ僕の寝室!」


「だったら一緒に寝ればいいじゃない」


「なっ、姫様っ!? なにを言っておられるのですか!!」


「女子が同衾などと…しかも人間の男となんて!」


レニーが顔を真っ赤にして叫ぶ。

鎧の隙間から、熱気が吹き出してるんじゃないかってくらい。


「うるさいわねぇ、じゃああなたは廊下で寝なさい」


「そ、そんな理不尽です姫様ぁ〜!」


焚き火がぱちんと音を立てた。

静寂の中、サリーの笑い声だけがやけに柔らかく響く。


(…安定したスローライフとは一体…)



廊下の床板がみしりと鳴った。


レニーは頑なに入口の前に立ち、背筋を伸ばしたまま腕を組んでいる。


結局、僕は居間で、サリーは僕の寝室で寝ることになった。


レニーは寝室の入口の前で門番をしている。


「姫様を守るのが、私の務めだ。ここで十分だ」


「いや、十分じゃないと思うけど…」


僕は肩を竦める。


さっきから暖炉の火が絶えないように薪を足しているが、夜になるとこの季節は容赦なく冷える。


サリーはというと、毛布を抱えてベッドの上。


さっきまで喋っていたのに、今はもうすやすや寝息を立てている。


寝つきが良すぎる。


「…ほんとに寝たのか」


「姫様は、そういう方だ」


レニーの声には、呆れとも誇りともつかない響きがあった。


「でも、そんな無理して立ってなくても」


「姫様が男の家に泊まる。それだけで由々しき事態だ」


「いや、それは…まぁ、わかるけど」


「加えて、お前は妖精を呼んだ者。危険極まりない」


「そんな言い方ある!?」


思わずツッコミが出た。

僕だって好きで詠唱したわけじゃない。むしろ誤爆だ。


「僕はただ、生き延びたくて必死だっただけで――」


「言い訳は無用だ」


レニーの金属の靴が、床をカツンと鳴らす。

その音がやけに夜の静けさに響いた。


「…わかった。じゃあ、せめて椅子でも使って休んでよ」


「私は立って寝られる」


「え、馬かよ」


レニーが一瞬こちらをギロリと睨んだ。

けれど、それ以上何も言わずに壁際に背を預ける。


暖炉の火がゆらぎ、彼の影が伸びる。


こうやってみると本当に“美男子”なんだよなぁ。

僕は妖精ってみんな美形なのかな、なんてボヤーっと考えていた。


レニーの指先が、手甲の留め具に触れる。


「…ねぇ、レニー」


「なんだ」


「もしかして鎧、暑いの?」


「貴様に心配される筋合いはない」


「でも顔、赤いよ」


「ッ!? そ、そんなことは――ない!」


バンッと壁を叩く音。


その反動でサリーが「うにゃ…」と寝返りを打った。


二人して息を呑む。


「…起きたら殺されるな、これ」


「殺すのは私だ」


「怖いこと言わないで」


そんなふうに夜が更けていった。

焚き火がぱちりと鳴り、火の粉が舞う。


息をひそめる僕とレニーの間に、どこか妙な空気だけが残っていた。



外だけはいつも通りの静かな夜だった。


風の音もなく、ただ薪が弾ける小さな音だけが聞こえていた。


僕は寝返りを打って、天井を見上げた。


眠れない。


そりゃそうだ。部屋の向こうには妖精の姫様が寝ていて、寝室の入口では全身鎧の騎士が見張ってるんだから。


「……寝つきが悪いな。水でも飲もう」


小声で呟いて床に敷いた毛布の間を抜け出す。


床板がきしむたびに、サリーが目を覚まさないかとヒヤヒヤした。


ランプの灯りを手に、キッチンへ。

夜気は冷たく、喉の奥まで澄んでいた。


コップを取ろうとして――ふと、背後で音がした。


きゅ、と布ずれの音。


(…え?)


振り向くと、そこに立っていたのは――鎧を脱いだレニーだった。


「…だ、誰だッ!」


条件反射のように声を上げ、腰の剣を探す仕草。

でも当然、鎧も剣も今はない。


その代わり、薄い寝間着の裾がふわりと揺れた。


「僕だよ! セインツロウ!」


「セインツロウ…!?」


レニーの目が見開かれ、頬がみるみる赤くなる。

そして、動きが止まった。


いや、僕も止まっていた。

(…あれ? 鎧の下って、そういう…格好だったんだ?)


淡い布地が、月明かりを透かしていた。

普段のきっちりした印象と違って、柔らかい雰囲気。


肩までの銀髪が、鎧では隠れていた輪郭を際立たせている。


しっかりと主張する胸、くびれた腰、滑らかな曲線を描く肢体。


つまり――女の子だった。


「…見たな」


「え、いや、その、違う、見たというか…見えちゃったというか!」


「見た、よな?」


「いやいやいや!」


レニーの目がすうっと細くなる。

怖い。めちゃくちゃ怖い。


けど、その顔、よく見たら――ほんの少しだけ耳まで赤い。


ズンズンと近づいてきたレニーが、僕の両肩をガッと掴む。


「セ、セキニン…取ってもらうからな」


「えぇぇぇ!?」


腕を上げたら、今度は手首をがしっと掴まれた。

細いのに、力が強い。全然逃げられない。


「せ、責任っておおげさな…!」


「おおげさではない!」


「でも、何に対して!? 僕、なにもしてないよ!?」


「我が家は代々サリー様の家に仕えている」


「女でも騎士として使えるための鉄の掟が、ある」


「お、掟?」


「女の姿を見られた。家の掟では、“見た男は責任を取る”と決まっている」


レニーの声が、なぜか少し震えていた。

怒っているのか、照れているのか、判別がつかない。


「その、“責任”って、どう取るの…?」


言ってから、ちょっとだけ後悔した。

でも、気になったんだ。仕方ない。


「…そんなことも知らないのか、キサマ!」


「いや、知らないから聞いてるんだけど!?」


「…そういえば、セキニン取るって…なんだろう…?」


「…え?」


レニーが急に黙り、目をそらす。

耳まで真っ赤。

小声で何かぶつぶつ言ってる。


「姫様に聞いたら…教えてくれる…かも…?」


「いや、それはそれでやめよう?!」


思わず即答した。

想像しただけで、ろくなことにならない。


僕は手を離そうとして、けれど逆にぐっと掴まれる。

レニーの目が、夜の灯りにきらりと光った。


「まさか……本当に、セキニンを取る気が…あるの…?」


「ちがうちがう!!!」


「…ふふん♪」


レニーは口元をわずかに緩めた。

ほんの一瞬、いたずらっぽく笑ったように見えた。


(なに今の…ズルくない?)


胸が妙にざわつく。

それをごまかすように、コップの水を一気に飲み干した。


「…寝よう。うん、寝よう」


「逃げる気か、セインツロウ」


「寝るんだよ!」


どう考えても、明日も平穏はこなさそうだった。



窓から差し込む光が、寝不足の目に容赦なく刺さった。


「…あぁ、眠い…」


頭がぼんやりする。

夜の騒動のせいで、結局ほとんど眠れなかった。


僕は顔を洗って外に出る。

空気は冷たいけど、空は雲ひとつない青。


ようやく静かな一日が――


「おはよう、セインツロウ」


「ひゃあっ!」


振り向くと、そこにサリー。

いつの間にか起きていて、花の香りをまとって微笑んでいた。


…朝から眩しい。いろんな意味で。


「顔色悪いわね。寝不足?」


「まぁ、そうだね…主に夜中の騒音のせいで」


「騒音?」


「ああ、ほら。壁ドンとか金属音とか」


サリーは小首を傾げてから、ゆっくり笑う。


その背後から――ガチャ、と扉が開いた。


「…姫様、朝から何を」


出てきたレニーは、完全武装だった。

昨日の夜とのギャップが激しすぎる。


鎧の下にある“素”の姿を知ってしまったせいで、

なんかもう見てるだけで落ち着かない。


(いや、意識したら負けだ)


僕は心の中で深呼吸した。


「それでセインツロウ。今日はどうするの?」


サリーが木のテーブルに腰をかけながら聞いてきた。


村長との約束を思い出す。


「街に行くんだ。妖精の件を領主に報告しろって言われてる」


「ふぅん…それ、私も行っていい?」


「いや、街まで一日歩きっぱなしだよ?」


「面白そうじゃない。行くわ」


「ダメです、姫様!」


レニーの即答が早かった。


「街には無法者も多い。妖精だと知られれば騒ぎになります!」


「だったら、あなたも一緒にいればいいじゃない」


「姫様…!」


サリーの微笑み。

レニーの真顔。

僕はその間に立って、両手を広げた。


「ちょ、ちょっと待って! どっちも落ち着いて!」


「セインツロウ、いいでしょ? 私、邪魔しないから」


「いや、そういう問題じゃなくて…」


「却下です姫様!」


レニーの意思もなかなかだな。

そのまま硬直する姿は、真面目というより頑固。


「…レニー、あんた可愛い顔してほんと融通きかないのね」


「か、可愛い!? な、なにを言って――!」


瞬間、レニーの顔が真っ赤になった。

鎧の隙間から熱気が上がるように見える。


(…昨日のこと、思い出したなこれ)


サリーは楽しげに笑っている。

完全にわかってやってる。たぶん確信犯だ。


「というわけで、決まりね」


「どこが!?」


僕の抗議は、サリーの満足そうな笑みでかき消された。


「じゃあ準備してね。出発は午前中がいいわ」


サリーは鼻歌を歌いながら外に出ていく。


残されたのは僕とレニー。


「…姫様、相変わらず自由奔放だな」


「ほんとにな」


二人して、ため息が重なった。

でもその瞬間、レニーがわずかに笑った。

昨夜の硬い雰囲気とは違う、ほんの少し柔らかな笑み。


「…まぁ、悪くない旅にはなりそうだ」


「…わりかし街って近いけどね…」


「…セインツロウは情緒というものを学んだほうがいいな」


「え?」


「ふん…なんでもない」


空には雲ひとつない青。

穏やかな風が吹き抜ける。


“地に足つけて生きていこう”なんて思ってたけどさ、


どうやら、この世界はそうさせてくれないらしい。

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