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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
鎖の妖精と無頼の男

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第9話 世界が震えたあとで

ぜーんぶ片づいたってのに、酒も浴びずじまいで健康そのものだっての。


敵軍が引き上げて、設営されてた“パーティ会場”みたいになってた平原も、すっかりただの草原に戻って数日が経った。


街も落ち着いた。ギルドの喧騒も普段通り。

酒場は今日も薄い酒と固い肉の匂いがするんだろうな。


なのに、俺は昼間から宿でダラダラしていた。


理由は簡単だ。

胸の上にフィノアが乗ってるから動けねぇ。


「お前なぁ…重くはねぇけどよ……」


細っこい体で俺の腹の上にペタッと寝そべって、すぅすぅ寝息立ててやがる。


大地を割るだの、軍勢を蹴散らすだの、そういうチートな力を持ってるなんて…どう見たってただの無害な小動物だよな。


…まあ、その“無害な小動物”に散々理性を殺されたわけだけどよ。


ぼんやりそんな事を考えてたら、フィノアがうっすら目を開けた。


「…寝てたんじゃねえのかよ」


小さく笑うと、フィノアはズルズルと俺の胸をよじ登ってきて、耳元に顔を寄せてくる。


そして囁きやがった。


「ねぇ…しよ?」


――ダメだこいつ。


一度決壊した理性の防波堤ってのは、強く作り直したつもりでも、ちょーっと圧かかっただけで簡単に割れるんだと知った。


…いや、割れたなんてもんじゃなかった。


俺達がその後どうなったかなんて、言うまでもねぇだろ。


♢ 


翌朝、身体じゅうがだるい。

完全に使い果たしたわ。


「…鈍るわこんなん」


そう思って、久々に外へ出てギルドに向かった。

夕方はいつも通り濃い匂いの酒場に変わるあの場所も、昼は比較的静かだ。


動きが渋い木の扉を押してギルドに入ると――


…あれ?


入口のカウンター横に、タンクトップで筋肉モリモリの長身の女が立っている。


見覚えしかねぇ。


(なんで部屋から出てきてんだよ、クソオヤジ……!)


名前を呼び間違えたら折檻確定なのに、心の中では“オヤジ”呼びが止まらない。

それを必死で押し込めながら、受付に歩み寄る。


アンナちゃん(ギルマス)が俺を見るなり、口角を上げた。


「やっと出てきたわね」


「…わざわざ出迎えとは、なんかあったのか?」


アンナちゃんは唇の端を上げたまま言う。


「部屋まで来てくれるかしら?」


ああ、これは嫌な予感しかしねぇやつだ。



ギルドマスター室の扉を開けた瞬間、空気がピリッと変わった。


この前に折檻されてた小僧は…いねえな。


アンナちゃんは机の前で腕を組み、俺を待ちかまえていた。


「なんで呼ばれたか、わかるわよね?」


開口一番それかよ。


「わかりたくはねぇがな」


俺がソファに座るのを待ってから、アンナちゃんはゆっくり歩いてきた。


タンクトップから盛り上がった肩や腕の筋肉がゴリゴリ主張してくる。


あの見た目で声と仕草が乙女全開なの、やっぱりどう考えてもギャップの暴力だ。


「三文字踏めば威力が上がる。四文字踏めば世界が震える。知ってるわよね?」


「…六文字踏めば景色が変わる、だろ?」


アンナちゃんはコツコツと木の床を歩きながら、机を指先で叩いた。


「私は七文字踏んだわ。事故だけどね。意識したってできるものじゃない…わかる?」


「……」


「ジルマド。あんた、十五文字踏んだのよ。詠唱嫌いのあんたが」


「しかも“全踏み”」


部屋の空気がピタリと止まる。


俺はため息をつき、ポケットからくしゃくしゃの紙片を取り出した。


「…これだよ」


アンナちゃんが紙を受け取り、目を走らせた瞬間。


「…なんてこった」


焦ってる。

アンナちゃんが“地声”を出すなんて、そうそうないことだ。


「おい、なんだよその反応は?」


「お前わからないわけねぇだろう!? 明らかに仕組まれてるじゃねえか!」


アンナちゃんは紙を机に叩きつける。


「…俺の友人だよ」


「友人?」


「ああ。あいつにそんなつもりはねぇよ」


「そんなつもりがあるかどうかじゃねぇ! 結果が問題なんじゃねぇか!!」


怒鳴りながらも、アンナちゃんの声はどこか震えていた。


心配…なんだろうな。

フィノアのことも、俺のことも。

だから、俺はその気持ちにちゃんと返した。


「アンディ。…あんただって俺の大事なダチだ」


「俺はそう思ってる」


アンナちゃんの手が止まった。


一瞬だけ、あの筋肉むき出しの体が小さく震えた気がする。


「……!」


視線を逸らしながら唇を噛むアンナちゃん。

こいつ、こういう真正面の感情に弱いんだよな。


「どう転んだって、フィノアは俺が守る」


そして俺は自分の胸に軽く触れた。


「魔法も使えるようになったしな」


アンナちゃんはゆっくり息を吐いた。


「強情だな。…まだ自分が赦せないのか?」


その問いだけは、胸の奥に突き刺さった。

俺は、薄く笑いながら言った。


「ハッ!…赦すつもりはねぇよ」


アンナちゃんはしばらく黙って俺を見つめ、そのあと机の引き出しを開けた。



「じゃあ…こっちが本題」


白い封筒を俺の前に置く。


「ギルドからの指名依頼よ」


「またダンジョンか?」


「違う。フィノアちゃんと一緒に“中央ギルド”へ行って」


「は!? なんで俺が? やだよ」


「折檻とどっちがいい?」


「…イッテキマース」


反射で敬礼した俺を見て、アンナちゃんは少し微笑んだ。


言葉にはしなかったけど、

その目には確かにこう書いてあった。


(――世界を見てこい、ジルマド)


(お前はここに燻ってるだけの男じゃない。

自分でも分かってるだろう?)


俺は胸が熱くなるのをごまかしながら、立ち上がった。


さぁ、次は旅支度だ。



翌日。


俺は宿の前で荷物を詰め直しながら、なんとも言えない気持ちで空を見ていた。


中央ギルドへの旅なんて、考えてみりゃ人生で一度もしたことがない。


端っこの街から出る理由もなかったし、稼ぐだけで精一杯の人生だったからな。


そんな俺が、いまは——フィノアと二人で旅に出る。


「ジルマド、準備はできたか?」


フィノアが軽い足取りでやってきて、俺の腕にくっついてくる。


「まぁな。…お前のほうこそ大丈夫か? 中央なんて初めてだろ」


フィノアは胸を張る。


「知らないところに行くのは、胸が躍る!」


その顔は明るかった。

妖精にとって世界はどう見えてるのか知らんが、フィノアは完全に“旅を楽しむ側”だ。


「どーせ、すぐ行ってすぐ帰って来るつもりだろ?」


「…旅の路銀を稼ぎながら行く。時間かかるぞ」


「ならなおさら楽しみだな! さぁ行くぞ!」


はしゃぐフィノアを見て、自然と頬が緩む。

力を取り戻してからというもの、フィノアは前より少し…自由になった気がする。


腕輪があったときは、どこか怯えたように俺の後ろにくっついてたのに、いまは俺の手を引っ張って前を歩いていく。


(強いくせに、子犬みたいなやつだな…)


そんなことを思いながら一歩踏み出した、その瞬間だった。


——空が、暗くなった。



雲が流れたわけでも、天気が急変したわけでもねぇ。


なんだこれは?


空気が重たく沈み、地面に複雑すぎる紋が浮かび上がる。


「ジルマド……?」


フィノアの声が震えていた。


蒼白い光が魔法陣の中心へ吸い込まれ、次の瞬間——閃光が爆ぜた。


俺は反射的に前へ出て、フィノアをかばう。

光が消えたとき、そこに立っていたのは——


巨大な影。

鎧をまとった偉丈夫。


ただ“いる”だけで大地の重心が傾いたような男だった。


「…その姿。初めて見るが、忘却の妖精姫で間違いなさそうだな」


低い声が響く。

フィノアが息を呑んだ。


なんだコイツ?


「おい、お前は…妖精か?」


「いかにも。私は“四大守護”のひとつ——カーン家当主である」


四大守護。

何を守護してるのか知らねぇが、ヤバいヤツってのは間違いなさそうだ。


んでそんなやつが、どうして俺達んとこに来てんだよ。


カーンの目が、まっすぐフィノアに向けられた。


「人間よ。その妖精は——存在してはならないのだ。許せ」


「…あ?」


全身の血が一瞬で沸騰した。

俺の“何か”が脳の奥で反射的に叫んだ。


俺はフィノアの前に庇うようにして立つ。


カーンが手を掲げる。

フィノアが後ろで固まっている。


「何すんだコラァァ!!」


俺の怒りが魔法となって、衝撃波をカーンに放つ。


ギルドでクズ冒険者をぶっ飛ばした威力だってのに。カーンは後ろに少し押されただけだった。


でもカーンの目が驚愕で揺れていた。


「無詠唱…!? 契約しているのか…なんと罪深い!」


罪深いって何の話だよバカヤロウ。



フィノアを庇いながら、ジルマドはカーンを睨みつける。


ズンズンと、カーンは理屈抜きの“圧”をまとって近づいてくる。

四大守護の名は伊達ではない。


ジルマドが剣に手をかけ、お互いの間合いが交わろうとしたその時。


「お父様!止まって!」

「待つのだ人間!」


二つの影が割って入った。


ひとつは金髪の女。カーンの方を向いている。

ひとつは美形の銀髪の騎士。ジルマドを睨みつける。


そしてジルマド達の後ろから若い男の声がかかった。


「敵意はありません、双方ひいては貰えませんか?」


フィノアは振り返り、男を見つめる。

それは、どこにでもいそうな、凡庸な青年だった。


両手に包帯を巻いている以外は、これといって特徴的な出立ではない。


ジルマドは振り返りもせずに吐き捨てた。


「いやー売られたケンカだぜ?」


「すまぬな、サリー」


ジルマドとカーンの声が重なる。


「「止まれるか!」」


ため息と共に、若い男が声を放つ。


《止まりなはれ、空に放て》



セインツロウの詠唱が完成した瞬間、地面は跳ね上がったように揺れ、ジルマドとカーンの身体は光の帯に包まれた。


次の刹那、二人は大地から切り離されるようにして、一直線に夜空へ打ち上げられる。


空気が耳を裂き、景色が線になって消えていく。

町も丘も人影もすべて豆粒のように遠ざかり、ただ風だけが鋭利だった。


ジルマドは空中で体勢を崩しながら必死に抗うが、まるで透明な縄で縛られたかのように一切動けない。


(クソ!動けねえ!)

意識だけが自由で、身体は完全に制御外だ。


対してカーンは、空のただ中でも微動だにせず、重力を拒絶するかのように平然と立っていた。


まるですべてを従えた“支配者”の風格そのものだった。


カーンは地上に視線を落とし、口元だけで笑う。


「見事な詠唱だセインツロウ君!」


この男にとっては、空へ放り出された状況すら恐れるべきものではないのだろう。


さらにジルマドを一瞥し、冷静に余韻を噛みしめるように言う。


「ふむ、頭が冷えたな」


暴風の中での会話とは思えない落ち着きだった。


「その6文字全踏みの詠唱に免じ、今回は引こう!」


高空に浮かぶ魔法陣が淡く光を放ち、カーンの身体が吸い込まれるように消えた。


残されたのは、重力を取り戻し、落下し始めたジルマドただ一人。


「マジかよ…!」


悲鳴が風に溶ける。

重力は容赦なく身体を引きずり落とし、視界は回転し、胃が浮き、地面が恐ろしい速度で迫ってくる。


死角から来た風圧が身体を回転させ、空と地面の境界が消えた。


その直後、落下速度がふっと軽くなる。

見えない膜に包まれたような、柔らかい減速。


ジルマドは必死に顔を起こす。


地上でフィノアが手を伸ばしていた。


青白い光が彼女の周囲に揺らめき、まるで見えない手がジルマドを包んでいるようだった。


ジルマド魔法の効果なのだろう、と短く結論を出した。


「助かるぜフィノア…!」


安堵が喉の奥から漏れ、身体は小さく揺れながらゆっくりと地面へ降りていく。


着地した瞬間、彼の膝はがくりと落ちたが、フィノアの存在だけが確かな重力として彼を支えていた。


空は静まり返り、戦いの余波だけが風に漂っていた。



地面に降りた瞬間、膝が少し笑った。

フィノアの魔法で落下は止められたが、心臓の鼓動だけはまだ荒い。


フィノアの声が聞こえる。


「ジルマドッ!」


「助かるぜフィノア…!」


息を整え、俺は顔を上げる。


視界の先に立っている三人――あいつらは固まって俺を見ていた。


怒りとか、混乱とか、そういうもんが胸の奥でぐつぐつ煮えたぎってる。


だから俺は、そのままズイッと一歩踏み出した。


「おぅおぅおぅ……」


金髪が銀髪になんか言っている。


「レニー? 抑えられるかしら?」


「姫様の命でも、この二人まとめてとなると…」


は? 知るかよ。


「俺達が納得するような説明……」


声が自然と低くなる。


「できるんだろうなぁ!?」


平原に俺の声だけが響いた。



※ひとまずはここまで

次回から新章が始まります。

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