表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
鎖の妖精と無頼の男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/27

第6話 マンハントって知ってるかい?

あくる日。


宿で昼から起きて自堕落に過ごす…ことはできなかった。


空気をぶち壊すように、フィノアが目の前で胸を張る。


もう一度俺はボヤくことにした。


「やっぱ魔法なんてよくわからん」


「なんで!?便利じゃないか!?ほら!」


フィノアが指を弾く。

コップから、ぴゅっと水が湧き出した。

便利なのは、まあ分かる。分かるが——


「そーなんだけどよぉ、想像しないとできない、って不便じゃね?」


フィノアが眉を寄せた。

“なに言ってんだこいつ”の顔だ。


「そんなもん練習するしかあるまいよ」


「…どーやって?」


フィノアは当然の顔で答えてくる。


「まずはだな…指先に火を出してみろ。でちょっとずつ火を大きくするんだ、簡単だろう?」


いや簡単なわけがねぇ。

俺は即座に首を振った。


「…不採用。火打ち石を使ったほうが早くね?」


「なんで!?」


心底驚いた顔をしている。

こっちからすりゃ“なんで”だ。


「あのなぁ、俺は凝り固まった中年冒険者だぞ? いまさらそんな初心者講習できるかよ」


フィノアは「ううむ…」と唸りながら腕組みする。腕組みが似合うぞフィノア。


「基本と基礎は大事だぞ?」


「わかってるよ…」


言いながらため息をつく。

耐える気はあるが、素直に受け入れられる気もない。


そういえば、ひとつ疑問があった。


「逆に聞くが、俺が魔法を暴発させたとして世界が滅ぶか? 街が消えるか?」


フィノアは途端に黙りこむ。

腕輪をいじりながら、ぼそっと小さく言った。


「おそらく…できないだろう…言葉では説明しづらいが…そう感じる…」


「だろう? だったらさぁ…」


俺はにっこり笑ってやった。


「実戦しかないだろ」


言った瞬間、フィノアの顔に怪訝が広がる。


魔法の基礎も練習もすっ飛ばして、“実戦”と言い切る俺に慣れてないらしい。


まあ、慣れる必要もないけどな。



魔法練習(?)があっさり終わったところで、俺とフィノアはギルドへ向かった。


ギルドの扉を押すと、いつもの匂いと、いつもの顔。受付の姐さんが書類を捌きながら顔を上げた。


「あら、ジルマド。依頼でも受ける気になった?」


「ああ、姐さん。依頼をくれよ」


「二人でできる依頼…ちょっと待ってね」


俺は首を横に振る。


「違うんだ姐さん。黒い封筒の方だ」


空気がスッと冷えた。

姐さんの手が止まり、目だけがこちらを射抜く。


「…正気?」


「もちろん、フィノアは留守番だ」


「なんで!?」


隣でフィノアが跳ねる。

そりゃ言いたいことは山ほどあるだろうけど、これは“遊び”じゃねえんだ。


姐さんはフィノアに視線を向けて、すぐに状況を飲み込んだように頷いた。


「なにか考えがあるのね…わかった、フィノアちゃんは私が見てるから」


魔法の練習とは口が裂けても言えん。


姐さんが一枚の黒い封筒を差し出す。

近くにいた他の冒険者たちの息を呑む音が聞こえる。


「数は?」


「事前の調査によると30くらい」


その瞬間、俺の口の端が自然に吊り上がった。


「いいねえ」


「…なんなのだ?」


「これから出るぜ。明日の朝には帰る。それとも姐さん、一緒にどうだ?」


「やめとくわ。趣味でもないし、義務でもないし」


「せっかくFFの真髄が見れるかと思ったのに」


姐さんは呆れながら書類を片づけていく。


「…稼ぎに来たんじゃないの?」


「そりゃそうだ! じゃあ姐さん、フィノアを頼むぜ!」


軽く手を振り、俺はギルドを後にした。


背後でフィノアの「なんなのだ?」が聞こえた気がするが、もう足は止まらなかった。


フィノアの大声が聞こえる。

…姐さんバラしやがったな?



黒い封筒はギルドの仕事でも“黒い仕事”。

誰もやりたがらない、とっておきの稼げる仕事だ。


夜がすっかり深くなった頃、俺は山の中にいた。


この辺を山賊が根城にしてるはずなんだが…いた。


じゃあ、始めるとするかね。

俺は荷物を置き、ナイフを取り出した。


黒い仕事、それは人狩り(マンハント)


俺は音を立てずに駆け出し、宙を舞った。


にしても音が全くしないのに気づいたのは、しばらく経ってからだった。



身体中が血と泥でぐしゃぐしゃだ。

誰の血かは……まあ、全部他人のだわな。


“パーティ会場”から足を出すと、視線を感じた。


ウソだろ?なんで姐さんいるのよ?

しかもフィノアまで。


「…姐さん、カンベンしてくれよ」


「ワタシがいれば問題ないじゃない、むしろ連れて来るべきと思ったのよ」


いやいや刺激が強すぎるでしょうよ。


フィノアが駆け寄ってきて、俺の姿を見るなり目を丸くする。


「ジルマド…」


その瞳の揺れが一瞬だけ痛かった。

俺は気まずく笑いかけるが、何も言えない。


代わりに、フィノアが手をかざした。

次の瞬間、冷たい水が一気に俺を包み込んだ。


ざばぁっ。


「…ずぶ濡れじゃねえか」


「乾かすから。こっち向いて」


フィノアの掌から、今度はやわらかい熱が生まれる。髪の先から服の裏まで、熱がすっと染み込んでいく。


ああ……これは気持ちいい。


「聞いたよ。山賊が向こうの村を襲う計画があったって」


「姐さん、全部言ったのか?」


「フィノアちゃんは知る必要があるわ。アンタと契約した妖精なんだもの」


姐さんがふとフィノアに視線を向ける。


「フィノアちゃん? ジルマドの事、嫌いになった?」


フィノアは首を横にブンブン振る。

まるで子鹿みたいに、勢いよく。


「…もっと好きになった…かも」


「いい趣味してんな」


素直に喜ぶべきか悩むセリフだが、フィノアが本気で言ってるのは分かる。


「だって! 悪い人を弱い人達のためにオイタしてたんでしょ?」


「あれは鏖殺っていうのよフィノアちゃん」


フィノアがきょとんとした顔になる。

俺はもう顔をしかめるしかなかった。


「…帰ろう。あとは…」


「燃やせばいい?」


ドンッと地面の圧が跳ねた。

次の瞬間、あたり一面が——火の海。


「おおい! 山火事はなしにしてくれよ!?」


「大丈夫。この辺だけ」


本当に“この辺だけ”で済んでるあたり、こいつはすごい妖精なんだろうな。


「これが…妖精の魔法? なんて威力」


姐さんの驚愕が妙に新鮮だった。

この姐さんが驚くって、どういう基準してるんだか。


火が静かに沈んでいく。

焦げた匂いだけが残り、朝焼けの空気に揺らめいていた。


火の気配が完全に消えたころ、俺の服もすっかり乾いていた。


フィノアの魔法は便利すぎる。いや、便利すぎて怖い。


「服も乾いたし、片付けも済んだし、帰ろう」


「報告書は明日でもいいわ、アンナちゃんにはワタシから説明しておくよ」


「助かるぜ姐さん、あぁー眠くなってきたぁ…」


本気でまぶたが落ちてきた。

中年に入ると徹夜のダメージはエグい。


そんな俺の肩を、フィノアがつついた。


「ジルマド」


「なんだ?」


「FFってなに?」


…ああ、その話になるのか。

横の姐さんはすでに嫌そうな顔をしていた。


「あぁ…俺達の街は国境なんだが、警備も駐留の軍も兵もいないんだ」


「やめて」


「なんでかって? 姐さんがいるから必要がないんだよ」


「やめてちょうだい」


「ギルドの受付なんてやってるが、姐さんは現役の冒険者だよ。二つ名付きの」


「やめてって言ってるでしょ」


「向こうの国、敵軍とやり合ったときにな、姐さんは詠唱で敵軍と山を一つ消し飛ばしたんだ」


「やめてぇ〜」


姐さんはもう顔を覆ってヘタり込んでいた。

ここまで嫌がる二つ名持ちも珍しい。


「で、ついた二つ名が」


「うんうん」


「フロントライン・フェアレディって言うんだよ」


「いやぁ〜…」


姐さんはそのまま地面に沈む勢いでしゃがみ込んだ。


フィノアは目を輝かせ、指先まで震えている。


「…カッコいい…」


「だよな!」


「やめてぇ〜」


姐さんの嘆きを背に、俺たちは街へ戻る道を歩き出した。


空は明るく、遠くで鳥の声がしている。


フィノアが隣にいるだけで、街の景色が少し違って見えた。


俺は、ぶっちゃけフィノアが可愛いすぎて、溜まりすぎた発散に暴れたかっただけなんだよな。


これは秘密にしておこう…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ