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韻踏み評価SSSで勝手に姫を召喚した僕、妖精界にモテて困る(予定は未定)  作者: vincent_madder
鎖の妖精と無頼の男

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第2話 フィノアとジルマド

鎖の音だけが微かに響く広間で、青髪の妖精さんがぽかん、と口を開けて俺を見ていた。


「ろ、ろりばばあ?」


その反応が妙にツボに入って、思わず口の端が上がる。


まあ普通そうなるよな。


「俺の友達がな、色々物知りなんだ。そいつが俺の人生に彩りをくれた」


「ほぁ…」


「あと性癖をオープンにして生きるべしってな」


言いながら、アイツの顔がふっと脳裏に浮かぶ。


目の前の妖精はというと、鎖に繋がれた手を縮こませ、信じられないものを見る目で俺を睨む。


「…契約しないとダメか?」


弱々しい声。


さっきまで偉そうにしてたくせに、急にしおらしくなってやがる。


俺は肩をすくめた。


「なんだ出たくないのか」


「ヘンタイと契約したくないんだよ」


そりゃそうだわ、と思いつつ、この反応がなんか可愛いことに気づいてますます好感度が高まる。


ここで引き下がるつもりはねぇ。


「確かに出なければ変わらない日常だな、ずっと」


俺がぽつりと言った瞬間、妖精の瞳が大きく揺れた。


「!!!」


図星だったらしい。


この空間にどれだけ閉じ込められてたのか知らねぇが、出られる機会を自分の意思で手放す、なんてできるわけがない。


俺は踵を返す。


「じゃあな、俺は出口を探すぜ」


背中を向けた瞬間だった。


「…待て」


その声は、さっきまでの強がりとは違い、

どこか必死で、胸の奥に届くようだった。


俺は足を止め、振り返った。



振り返ると、青髪の妖精は鎖に引かれるように身を縮めていた。


さっきまで俺をヘンタイ呼ばわりしてたくせに、

いまは何かを決断する一歩手前みたいな顔だ。


「私はフィノア。お主は?」


名乗られた瞬間、この空間の空気がほんの少しだけ柔らかくなった気がした。


「俺はジルマド。よろしくってことでいいのか?」


名前を返すと、フィノアはこくりと頷いた。

鎖の金具が小さくカチ、と鳴る。


その表情にはまだ迷いが残っている。


契約したくない。でも出たい。


でも俺はヘンタイ。でも外は自由。でも怖い。


でも一人はもっと怖い。


その全部が、黙ってても表情にあらわれていた。


さっきの「変わらない日常」って言葉が相当効いてるんだろう。


フィノアの視線が泳ぎ、俺を見る目が何度も揺れた。


「……」


言葉が出ないのは、“断りたい” と “縋りたい” が

同時に喉元で詰まってるからだろう。


俺は壁に軽く寄りかかって言ってやる。


「別に、嫌なら無理に契約しなくていいぞ。

ただ俺は出口探して帰るだけだし」


わざと軽く言うと、フィノアの肩がビクッと震えた。


閉じ込められたまま、さらに何百年、何千年か知らねぇ時間を過ごすのか。


その選択と、たった今現れた“ヘンタイに手を引かれる自由”を天秤にかけてるんだろうな。


やがて彼女は小さく、でもはっきりと口を開いた。


「…待て」


その一言には、さっきよりずっと強い意思が宿っていた。


出口なんて見つかる保証はない。

俺が信用できるかも怪しい。

でも、それでも掴みたいものがある。


そんな声だった。


俺はゆっくりと歩み寄りながら、口角を少しだけ上げた。


「ようやくその気になったか?」


フィノアの頬が、わずかに赤く染まっていた。


フィノアは小さく息を吸い、鎖の重さを気にしながら姿勢を整えた。


その動きは不思議と上品で、ここが地下牢みたいな場所だってことを一瞬だけ忘れそうになる。


「ではジルマド。契約だ。私の名を呼び、そして誓うのだ」


契約——その単語が落ちた瞬間、空気がピリッと変わる。


冗談でも軽口でもなく、“核” に触れる儀式なんだって直感した。


俺は眉を一度ひそめる。


「誓い?なんでもいいのか?」


「この際なんでもいいが…」


フィノアはもじもじと指先を寄せ、鎖につながれた手を胸元に持っていき、上目遣いで俺を見上げてきた。


「初めてなんだからな?」


(……殺す気か、この妖精)

頭がクラクラするほど可愛い。


妖精ってもっと気まぐれで、尊大で、ついでに人間なんて虫ケラ扱いするもんだと思ってたんだが。


こいつはどう見ても“弱ってて、怖がってて、必死で、初々しい”。


(ヤバい可愛すぎる)


気づいたら、俺は手を伸ばしていた。

鎖の冷たい金属越しに、細い手首をそっと包む。


フィノアがびくりと身を震わせた。

けれど、逃げない。

むしろ握り返してきそうなほど力が入っていく。


松明の火が揺れ、彼女の青い髪が淡く光った。


見つめ合う。


呼吸が静かに溶けていく。


……なんだよこれ。

儀式っていうか、完全に違う意味で大事な場面じゃねえか。


それでも俺は、ゆっくりと口を開いた。


永遠(とわ)に、そばに」


フィノアが大きく目を開いた。


その瞬間——。


カッと光が弾けた。


白い光が床の魔法陣を走り、縦横に走るラインがまるで心臓脈動みたいに明滅する。


俺の足元も、フィノアの鎖も、全部が一瞬で飲み込まれた。


耳鳴りがして、呼吸が奪われるような感覚が走り、視界が真っ白に塗りつぶされる。


……時間にして数秒か。

でも永遠みたいに長かった。


光が薄れていき、やがて広間の輪郭が戻ってくる。


俺は目を細めながら、フィノアを見る。


「…なんか変わった感じしねーけど」


フィノアはというと——

頬を赤く染めたまま、ぽーっと俺を見ていた。



(おいなんだその顔は。大丈夫か?)


「ん?どした?」


フィノアは小さく震えながら、

呆けたように呟いた。


「…できるではないか…」


「何が?」


フィノアは突然、叫ぶように身を乗り出した。


「詠唱!できるではないかぁ!」


声が広間に反響した。


フィノアは震える指で自分の胸元を押さえ、


そのまま床に崩れ落ちるんじゃないかってほど興奮していた。


「さっきの3文字!韻を全踏み!」


まだ頬は赤く、目はうるんで、呼吸は浅い。


さっきの光の余韻で火照ってるのかと思ったが——


違う、これは完全に“キマってるヤツの顔”だ。


俺は頭をかきながら問い返す。


「そーなのか?」


「気づいてなかったのか!?」


フィノアは俺の胸ぐらを掴む勢いで身を寄せた。


「契約の誓いが全踏み…3文字でも全踏み…こんな幸せなことある?」


……幸せなのか、それ。


韻とかよくわかんねえし。


誓いの言葉が韻を踏んでいたからってここまで感動するなんて、妖精という種族の価値観は理解不能すぎる。


それでも嬉しそうにしているフィノアを見て、胸の奥がふっと軽くなる。


「わかんねーけど、喜んでもらえたんなら、それでいいや」


素直にそう言うと、フィノアは口元を押さえ、耳まで赤くした。


なんなんだその反応は。


妖精ってこんな…可愛い生き物だったか?


フィノアは鎖の音を響かせながら、その場にぺたりと座り込み、胸の前で手をぎゅっと握った。


「これでお主は詠唱せずとも魔法が使えるはずだ…あぁ幸せだ…繋がれててよかったぁ」


最後の一言が妙に生々しい。


(繋がれててよかったって…喜ぶ方向完全に間違ってねぇか?)


まぁ、深く考えると頭が痛くなるから置いとく。


俺は松明を持ち直し、フィノアに声をかけた。


「…じゃあ魔法、教えてくれるか?」


フィノアは胸を張って宣言した。


「ああ!時間はいくらでもある!」


声だけは勇ましい。


だが鎖ががっつり地面に刺さってるせいで、ぴくりとも動けてねぇ。


俺は溜息をつき、荷袋を指で弾く。


「…食料がなくなる前に頼むぜ」


フィノアは悔しそうに頬を膨らませながらも、小さくうなずいた。


鎖がかすかに揺れるたび、青い髪に透けた光がちらちら反射する。


地下牢の空気が、少しだけ動き出した気がした。

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