霧島レナ2
霧島レナが家の隣に引っ越してきてから二週間。
彼女は毎日、俺のところにやってきた。
「ねぇねぇ夜一くん。今日こそは遊ぼう」
「悪いけど遊んでいる暇はないんだ。霧島さん」
「なら私も一緒にやるよ!」
俺が鍛錬すると、霧島レナも真似をして鍛錬する。
走り込み、格闘技、使い魔との連携訓練。
彼女は俺がやることについていく。
弱音を吐かず。
「ハァ……ハァ……」
夕方まで鍛錬した頃には、霧島レナは大量の汗を流しながらハァハァと荒い息を漏らしていた。
当然だ。
普通の子供ならついてこれない鍛錬だ。
一年以上やっている俺とは違う。
なのにこの子は俺の鍛錬についてきた。
「シュルル~」
運動着姿の霧島レナの首に巻き付いていた小さな青い蛇が、彼女の頬を舐める。
その蛇は霧島レナの契約聖霊―――雨だ。
「大丈夫、霧島さん」
家から持ってきた水筒を、霧島レナに渡す。
彼女は「あ、ありがとう」と言って、水筒の中の冷たい水をゴクゴクと飲んだ。
「プハァ!す、すごいね夜一くんは。こんなに鍛錬してるなんて」
「別に……ただ死なないために鍛えてるだけ」
「それでもすごいよ!きっと強い魔法士になれるよ」
明るく、親しみやすい笑顔を浮かべる霧島レナ。
分かってる。
俺に見せるその笑顔は全部、演技だって。
だから俺は表面上は仲良く……だけど一歩下がる。
「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいよ。だけど……魔法士なんて絶対にならないと決めているんだ」
「どうして?お金がたくさん貰えるし、強い魔霊を倒せば有名人になれるよ!夜一くんの力は多くの人を助けられる。だから―――」
「何度でも言うよ」
笑顔を浮かべて説得する霧島レナに、俺はハッキリと言う。
「絶対に……魔法士にはならない」
俺の言葉を聞いて、霧島レナはわずかに表情を曇らせる。
だがすぐに明るい笑顔を浮かべて、「そっか」と呟く。
「じゃあ私……そろそろ帰るね。また明日!」
霧島レナは手を振りながら、俺の前から去っていった。
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夜一が住む家の隣に建てられた大きな和風の一階建ての家。
その家の茶の間で、霧島レナは両親に報告していた。
不乱夜一のことを。
「—――以上です。お父さん、お母さん」
娘の報告を聞いていた両親は、難しい顔を浮かべていた。
「なるほど……表面上は仲良く、だけど警戒している状態か」
「しかも魔法士になるつもりはないみたいね」
霧島家が不乱夜一に近付いたのは、魔法士協会の命令だから。
彼らはなにがなんでも夜一を魔法士にするようにと、魔法士協会に言われていたのだ。
「まぁ焦らず行こう。レナ。お前の役目は夜一の友人関係になって、魔法士になるよう誘導することだ」
「分かっています。お父さん」
父の言葉を聞いて、レナは頷く。
「明日はここに連れてきなさい。お父さんとお母さんもレナと夜一くんが仲良くなるようフォローするわ」
「ありがとうございます。お母さん」
レナは母に感謝の言葉を述べた。
「では私はこれで失礼します。今日も夜一くんと一緒に鍛錬したので、少し疲れてしまったので」
「わかった。ゆっくり休め」
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娘のレナが去った後、彼女の両親は暗い表情を浮かべていた。
「あなた。やっぱりレナは……」
「わかっている。レナが苦しんでいることは。恐らく夜一くんの強さを感じ取ったのだろう。まだ子供なのに大人でも厳しい鍛錬をしている。それも毎日だ」
レナの父は下唇を噛む。
「レナは頭がいい子だ。夜一くんはきっと強い魔法士になると気づいたんだろう。そして同時に思ったはずだ。なんで自分は強い魔法士になれないんだと」
レナの母は悲しそうに顔を歪める。
「……ごめんなさいレナ。私の……霧島家の呪いのせいで」
<><><><>
「ひっく……えっぐ……」
自分の部屋に戻った霧島レナは蹲くまって涙を流している。
彼女の使い魔である蛇型聖霊である雨は、主の頬を細長い舌で舐める。
「強く……なりたい。私も……強くなりたい」
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