聖霊契約
「ハァ…ハァ…ハァ……」
転生してから数か月が過ぎた。
俺は生き残るために、走り込みをしている。
は、走るの……キッツ!
脇腹がめっちゃ痛い!
でも……生き残るために筋肉、体力の必須だ。
特に俺みたいな奴は!
「た、ただいま……」
家に到着した俺は玄関に座り込んだ。
すると、
「すごい汗だくだね、夜一」
眼鏡を掛けた若い男が、俺に近付いてきた。
茶髪でタレ目が特徴的で、とても優しそうな雰囲気を纏っている。
そんな彼は俺に白いタオルを渡した。
「ありがとう、お父ちゃん」
タオルを受け取った俺は、汗を拭った。
今、俺の目の前にいるのは不乱夜一の父親―――不乱夜田。
料理、掃除、洗濯などの家事が得意な優しいと父親。
正直、夜一の父親がこんないい人だとは今でも信じられない。
「ニャー……」
俺がタオルで汗を拭いていると、一匹の蒼い猫が近づいてきた。
「よう、氷柱。今日も可愛いね」
「ニャ~♪」
嬉しそうな声を出した蒼い猫の頭を、俺は優しく撫でた。
この蒼い猫は父親の契約聖霊―――氷柱。
とても人懐っこく、可愛らしい聖霊だ。
おっとまず聖霊のことを話さないとな。
聖霊とはこの世界で生きるモンスター。
だけど人の血肉を喰らい、人を滅ぼそうとする魔霊と違って、聖霊は人間にとって友好的で共存することができる。
「それにしても夜一はここ最近、走り込みと筋トレばっかやってるね。あとボクシングとか空手とかの動画を見て、独学で格闘技を勉強しているし」
父親の言う通り、俺はほぼ毎日鍛錬をしている。
理由はなんでかって?
もちろん死にたくないからだ。
だけど……理由が他にもある。
「俺の適正属性は無属性だからね。こういうので努力しないと自分の身は守れない」
俺の言葉を聞いて、夜田は暗い表情を浮かべた。
まぁ、そういう顔をするよな。
なんてったって俺の属性は無属性だけだから。
この世界には魔法が存在する。
そして魔法にはそれぞれ属性があるのだ。
火・水・土・風・雷・光・闇・無の八種類。
その中で無属性は他の属性と違い、戦闘能力がほぼない。
重い荷物を軽くしたり、冷めた料理を温めたりするなどの生活に役立つことにしか使えない。
人間は最低でも二つの属性を使うことができる。
その二つの内、一つは必ず無属性。
だが不乱夜一は無属性しか適性がなかったのだ。
より正確に言うと、普通の人より無属性の適正が非常に高い。
「ごめん……気にしていることを言って。でも大丈夫だ!強い聖霊と契約すれば魔法士になれる」
「魔法士……か」
魔法士。それは聖霊と共に魔霊と戦う魔法使いのことを言う。
まぁ確かに俺自身が強くなくとも、契約している聖霊が強ければ魔法士になれる。
だけど、
「俺は魔法士になるつもりはないよ、お父ちゃん」
「え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
「声でっか」
夜田は目を大きく見開きながら、驚きの声を上げた。思わず俺は両手で耳を塞ぐ。
「ど?どうして!夜一の夢だろ?魔法士になるのは」
「そうだけど……今は違う。魔法士は死亡率が高いからやめたんだよ。今の俺はお父ちゃんとお母ちゃんの農家を手伝うことにしているの」
「え?いや……僕たちにとってありがたいけど……いいの?それで」
「……まぁね。強くなるために色々はするけど、将来的には二人の仕事を継ぐことにしてる」
最初……前世ではゲームの世界で無双したいだの、活躍したいだのとは思っていたよ。
けど両親の畑仕事を手伝っていたら、そんな気持ちはなくなった。
畑仕事をしながらスローライフも悪くないと思ったんだよな~。
まぁ……いつ魔霊に襲われてもいいように、戦えるようにするけど。
「そういえばお母ちゃんとピーちゃんは?」
「ああ……朝日ならそろそろ帰ってくるよ」
夜田がそう言った時、玄関の扉が開き、母親である朝日と赤い小鳥―――ピーちゃんが入ってきた。
「ただいま」
「ピー」
「今日はよっちゃんの誕生日だからね。ケーキ……買ってきたよ」
「ピーピー!」
母親の右手には白い紙の箱がぶら下げられていた。
そうか……今日は俺の五歳の誕生日か。
ということはあれもやるのか。
「よっちゃん。五歳になったからこれをあげるね」
朝日は手の平サイズの透明な石を俺に渡した。
「聖霊契約の石だよ。よっちゃん」
この世界の人間は五歳になると、聖霊と契約することができる。
そのためには聖霊契約の石という特殊なアイテムを使う必要がある。
「さっそく使ってみよう」
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リビングに移動した俺は、聖霊契約の石を床に置く。
「どんな子が楽しみね」
「そうだね」
ニコニコと笑いながら、俺を見守る朝日と夜田。
契約する聖霊は人間との相性で決まる。
まぁ……どんな奴が出てくるのか知ってるけどね。
「来い、聖霊よ!」
俺が強く念じながらそう言うと、聖霊契約の石がパキィン!と甲高い音を立てて砕け散った。
すると床に白く輝く魔法陣が出現し、そこから聖霊が現れる。
その聖霊は大型犬ぐらいの大きさ。
皮膚は白く、腕は短く、脚は大きい。
口は大きく、鋭い歯が並べられている。
「グアアアアアアアアアアアアアアアア!」
聖霊は恐竜のティラノレックスのような姿をしていた。
「無属性聖霊……ホワイトレックスか」
「まぁ!かわいい~!」
両親は俺の聖霊に興味津々だった。
恐竜型無属性聖霊―――ホワイトレックス。
他の聖霊のように炎を吐いたり、氷柱を飛ばしたりすることはできない。
だが代わりに普通の聖霊よりも力が強く、速く、そして頑丈なのだ。
ゲームではホワイトレックスの力を自分の力だと勘違いした不乱夜一は調子に乗って、最終的に死ぬんだけどな。
「初めましてホワイトレックス。俺の名前は不乱夜一。これからよろしくな」
「グアアアアアアァァァァァァァァァ!」
ホワイトレックスは俺に近付いた。
そして大きな舌で俺の手を舐め始める。
どうやら仲良くしてくれるみたいだな。
「そうだ……名前を付けてやらないとな」
ゲームでは不乱夜一は聖霊に名前を付けず、普通に「ホワイトレックス」と呼んでいた。
だがそれはアウトだ。
人間と聖霊は共に生きるパートナー。
聖霊は道具ではない。
故に絆を深める必要があるのだ。
絆を深めれば深めるほど戦いやすくなったり、聖霊は強くなる。
そして絆を深めるのに最初に必要なのは、聖霊に名前を付けること。
「そうだな……なにがいいか」
白いティラノレックスだからな~。
白……白。
真っ白。
あ!
「今日からお前の名前は真白だ」
「グアアアアアアア!」
ホワイトレックスーーー真白は嬉しそうに何度もジャンプした。
どうやら名前が気に入ったようだ。
「さぁ真白。早速……遊ぼうか」
「グあアアアアアアアアアアア!!」
この日、俺と真白との生活が始まった。




