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プロローグ

「あ……ああ……」


 黒髪の少年は……呆然としていた。

 今、彼の目に映っていたのは、化け物達による進行。

 化け物達は土煙を上げながら、小さな村に向かって進んでいた。


「父さん!母さん!ミユ!!」


 遠く離れたところから化物達の進行を見ていた少年は、村に向かって走り出そうとした。

 そんな彼を桃色の髪を伸ばした少女が抱き締めて止める。


「ダメよ!(れい)!」

「離せよ!桜!このままじゃあ……村が!」

「それでも……私は使い魔として、友達として……相棒として行かせるわけにはいかないわ」


 振りほどこうとしたが、桃髪の少女は離さない。

 少年は、ただ……化物達が村に向かって進行するところを見ていることしかできなかった。


「だ……誰か」


 少年は願った。


「誰でもいい」


 少年は助けを求めた。


「誰か……助けてくれ!」







「いいぜ。助けてやる」


 その時、少年の耳に力強く……そして優しい声が聞こえた。

 少年と少女は、声が聞こえた方向に視線を向ける。


「あんた……は?」


 視線の先にいたのは、一人の少年。

 派手に染めた赤い髪。

 金色に輝くピアス。

 首に施された蝶と桜の花びらのタトゥー。

 そして首のタトゥーと同じ白い蝶と桜の花びらの紋様と『夜桜蝶』という金色の刺繍が施された黒いロング特攻服。

 あきらかに普通の人ではなかった。


「ただの不良(チンピラ)さ」


 そう言い残して不良と名乗る少年は地面を強く蹴り、弾丸の如き速さで化け物達に突撃した。

 そして……白いガントレットに覆われた拳を彼は振るう。


「死ね」


 次の瞬間、落雷の如き大きな音が鳴り響き、多くの化物達が吹き飛んだ。


「嘘……だろ」

「ワンパンで」


 たった一撃。

 たった一撃で大型トラック並みの大きさの化物達が倒された。

 その光景に少年と少女は目を見開く。


「おら……かかって来いよ、図体がデカいだけの雑魚どもが」


 手で挑発のジェスチャーをする不良少年。

 そんな彼に化物達は雄叫びを上げながら襲い掛かる。

 しかし不良少年は恐れない。

 彼はただ拳を振るい、次々と化け物達を吹き飛ばしていく。

 そんな不良不乱夜一(ふらんよるいち)不乱夜一(ふらんよるいち)少年の姿に、遠くで見ていた黒髪の少年は言葉を失う。


「使い魔なしで……あの数を」

「……思い出したわ。あの人のこと」

「何か知っているのか、桜?」


 少年の隣にいた桃髪の少女は語る。化物達と戦う不良のことを。


「世界最高の魔法士育成学園都市『アルテミス』に通う不良生徒。多くの魔霊を倒し、危険なヤクザやギャングから学園都市を守っている魔法士。彼の圧倒的な暴力は全てを破壊すると言われているわ」

「魔法士……しかもあのアルテミスの生徒」

「学園都市のあらゆる問題を解決し、『夜桜蝶』という魔法士部隊を作って多くの人を救っている」


 桃髪の少女は一筋の汗を流しながら口を動かす。


「学園都市『アルテミス』の絶対守護者にして、学園都市最大の魔法士部隊『夜桜蝶』の総隊長―――」





「《暴力の王》不乱夜一(ふらんよるいち)


〈〉〈〉〈〉〈〉


 2025年7月1日、午後9時10分。

 とあるアパートの一室。


「よっしゃあ!全クリアだ!」


 ガッツポーズを取りながら、俺―――夜桜蝶次(よざくらちょうじ)は笑みを浮かべた。

 先ほどまでテレビゲームをやっており、ちょうど今……ハマっているゲームを全クリしたのだ。

 はぁ~……疲れた~。

 ラスボスキャラ強かった~……だけどゲームクリアした後の達成感が気持ちいい。


 俺はコントローラーを机に置き、ベットに倒れた。


「やっぱりゲームはいい。現実を忘れさせてくれる」


 そう。

 ゲームやアニメは現実を忘れさせてくれる。

 学校や仕事ばかりのリアルな世界から抜け出し、魔法や浪漫のある楽しいゲームの世界に行くことができるのだ。

 俺は現実が大っ嫌いだ。

 だけどゲームやアニメがあるから頑張れる。


「特にこのゲームが最高だった」


 俺は机の上に置いてあるゲームパッケージを手に取り、見つめた。

 ゲームパッケージには、一人の少年と三人の少女のイラストが描かれている。


「『女神使いの復讐者』……これを作った人は天才だな」


 俺は心からそう思った。


『女神使いの復讐者』。

 魔霊という強力なモンスターと人類が戦うというテーマにしたアクションファンタジーゲーム。

 ストーリーは勿論、自由度、アクション、キャラクター……すべてが最高クラス。

 オタク向けではあるが、間違いなく神ゲー。

 アニメ化やコミック化、映画化もしている。


 俺はこのゲームを何周もやり込むぐらいハマっている。


「あ~あ……俺もゲームの住人になりたかった。そうすれば、今よりマシな人生だったかもな」


 ハァとため息を吐いた俺はゲームをセーブして、電源を消した。


「明日も仕事だし……もう寝ないとな」


 俺は天井のライトを消し、ベットの上に転がり、布団を被った。


「あ~……朝が来るのが嫌だな~…」


 叶うはずがない願いを言いながら、俺は目を瞑る。


「現実から逃げて~……もうゲームの世界で生きたい~」


 そう言った直後、俺の意識が黒く染まった。


<><><><>


「ん……んん?」


 眠りから覚めた俺はゆっくりと瞼を開けた。

 視界に映ったのは、目が覚めるといつも見る天井……ではなく、知らない天井。


「あれ?夢でも見ているのか?というか……声、高くねぇ?」


 自分の声が高い……というか幼くなっていることに気が付いた俺はゆっくりと起き上がる。

 起き上がる時、自分の手が小さくなっていることに気付いた。

 あれ?寝ぼけてるのかな?

 もしかして夢の中?


「ん?」


 俺は部屋の壁に立て掛けられた姿見鏡を見て……言葉を失った。


「はぁ?」


 鏡に映っていたのは、小さな男の子。

 くせ毛が多い黒髪に、鋭い黒い目。

 見た感じ四歳ぐらいの男の子。

 昔、見た近所の悪ガキにそっくり。


「ちょ、これ……まさか、転生ってやつか?」

 

 俺は自分の頬を抓った。

 うん、普通に痛い。

 夢じゃなくて、現実だわこれ。


「ちょっと待って!いつ死んだ?え?いつ死んだの!?」


 軽い混乱状態になった俺は、頭痛に襲われた。

 ちょ、ちょっとタイム。落ち着こう。

 こういう時は落ち着くんだ。

 まずは深呼吸しよう。


「ス~ハ~」


 大きく息を吸い、深くはいた俺は今、覚えていることを口に出す。


「俺は夜桜蝶次。31歳。独身で童貞。どこにでもいる社会人。趣味はゲームやアニメ。昨日、ゲームをした後、眠って……起きたら知らない子供になっていた……と」


 今、どういう状況?

 起きたら子供になってたって、普通にホラーだわ。

 名探偵コ〇ンかよ。


「まず自分がだれでここがどこかを調べないと」


 俺は周りを見渡した。

 部屋にあるのは机と椅子、そして絵本がいくつも並べられた本棚。

 そしてオモチャがたくさん入った箱。

 うん、どこにでもある普通の子供部屋だ。


「なんかないのかよ!この身体のことが分かる事とかさぁ!?」


 俺は探した。この身体の持ち主のことが分かることを。


「ん?これは……」


 なにかないかと探していた時、床に落ちている一枚の紙を見つけた。

 紙には汚い字で書かれた文章と一人の男の絵が描かれている。

 俺は紙を拾い、文章を読み始めた。


「『しょうらいおれはまほうしになって、つよいまれいをたおします。ぜったいにまほうしになって、おとうちゃんとおかあちゃんをまもりたいです。ふらんよるいち』。……魔法士、魔霊……不乱夜一……まさか……」


 俺は紙を持っていた手を震わせた。

 呼吸が荒くなり、全身が氷のように冷たくなるのを感じる。

 背中から大量の汗が流れだす。

 魔法士に魔霊に不乱夜一。

 待って。マジで待って。

 もし俺の予想が正しければ、マジで笑えない。


「よっちゃん。朝よ~」


 部屋の扉が突然開き、一人の女性が入ってきた。

 その女性は黒髪黒目で、顔が整っており、とても美人。

 そんな美人女性の肩には、赤い小鳥が乗っていた。


「え?え~と……どちら様?」

「寝ぼけてるの?お母さんの顔、忘れたの?」

「ああ、うん。このタイミングで出てくるのは母親だよね」

「?本当に大丈夫?」


 訝しそうな顔で俺を見つめる母親。

 ヤバイ……なんとか誤魔化さないと。


「ごめんごめん、少し寝ぼけてたよ。おかあ……ちゃん?」

「なんで疑問形?まぁいいわ。お父さんのご飯が冷めるから早くリビングに来なさい」

「わ、分かった。ねぇ……お母ちゃん。その肩に乗っているのってなに?」


 俺は母親の肩に乗っている赤い小鳥に指を指した。

 頼む。どうか俺の予想が外れてくれと願いながら。


「もうなに言ってるの?この子は私の聖霊(せいれい)のピーちゃんでしょ」

「ピー」


 俺は頭痛を覚え、床に倒れた。


「ちょ!よーちゃん?」

「ピー!ピー!」


 この身体の持ち主の母親と赤い小鳥が慌て出した。

 だがそんなことを気にしている余裕はない。

 なぜなら……俺が転生したこの世界は。


「『女神使いの復讐者』だ。この世界……」


<><><><>


『女神使いの復讐者』。

 魔法やダンジョン、魔霊や聖霊というモンスターが存在する現代の地球を舞台にしている。

 そんな世界は人類にとって……地獄だ。

『女神使いの復讐者』の世界の半分は、人の血肉を喰らう魔霊によって支配されている。

 日本の半分も魔霊によって支配されていた。

 そんな人間が生きていくにはハードすぎる世界に、俺は転生したのだ。


「ア~……最悪だ」


 転生してから一週間が経ったが、俺の気分は晴れない。

 マジでなんだよ。

 異世界転生って流行ってるけどさ~……なんでよりによって俺なの?

 いや、憧れてたけどさ……ハードモードのゲームの世界に転生させなくてもよくない。

 現実から逃げたいとか、ゲームの世界に行きたいとか思ってたけどさ。

 よりによって『女神使いの復讐者』って。


 まぁ……好きなゲームだから百歩譲ろう。

 たださ……、


「なんでよりによって!不乱夜一なんだよ~!!ふざけんなよ、マジで!!」


 俺は頭を両手で抱えながら、大声で叫んだ。

 ここで……不乱夜一のことを説明させてもらおう。


 不乱夜一。

『女神使いの復讐者』に登場するチンピラ学生。

 ゲーム主人公に喧嘩を売ってボロ負けするかませ犬キャラクター。

 屈辱的な敗北をした不乱夜一は危険な力に手を出し、化物となる。

 そして化物となった不乱夜一は主人公に倒され、命を堕とす。


 まぁ……分かりやすく言うと、主人公に殺されるクソザコキャラクターに転生したってこと。

 ハハハ……悲しくなって笑えてくる。


「はぁ……しゃあね。クソザコに転生したのは受け入れよう。受け入れたくないけど」


 ベットの上に座った俺は、分かっていることを整理する。


「俺は転生者で、この世界は『女神使いの復讐者』。そして今、住んでいるのは栃木県の田舎で、両親は農家……か」


 今、わかっているのはこれぐらい。

 クソ……なにかないのか!この世界で生き残る方法は!

 将来、俺……死ぬんだぞ。


「でもどうすれば……」


 腕を組みながら悩んでいた時、あることを俺は思い出す。


「そうだ……俺には『女神使いの復讐者』のゲーム知識がある」


 そうだよ!

 俺にはゲーム知識がある。

 隠しダンジョンや特別なアイテムの場所を知っているよ。

 ゲーム知識を使えば、不乱夜一(クソザコかませ犬)を化物級の強さにまで成長させることができるはず。


「なんでこの世界に転生したのか分からないけど……やることは決まった」


 俺は死にたくない。

 だから、


「強くなって生き残る!」

 読んでくれてありがとうございます。

 少しでも楽しんで読んでもらえたらとても嬉しいです。

 できるだけ毎週金曜日午前12時に投稿します。

 これからもよろしくお願いします。

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