控室トーク:歴史の味、未来の一杯
(スタジオの照明が完全に落ち、先ほどの休憩室には、収録の緊張から解放された4人の対談者と、にこやかな案内人のあすかが集まっている。部屋の中央テーブルには、それぞれの対談者にゆかりのありそうな飲み物と軽食が、ささやかながらも丁寧に用意されている)
あすか:「皆さま、本日は誠にお疲れ様でございました!白熱した議論、本当に素晴らしかったです!」
(拍手しながら)
「ささやかではございますが、皆さまに少しでも故郷の味を思い出していただけるよう、それぞれお好きそうなものをご用意させていただきました。ぜひ、お互いにおすすめし合って、召し上がってくださいませ。わたくしはこれで失礼しますが、どうぞごゆっくり!」
(丁寧にお辞儀をして、あすかは控室を後にする)
オスカー・ワイルド:(用意されたテーブルを見て、目を輝かせる)
「おや、これはこれは!気が利いていますな。議論の後には、やはり良き飲み物と、ちょっとした口福がなくては。」
(細長いグラスに注がれた黄金色の泡立つ液体を手に取る)
「では、僭越ながら私から。これはシャンパン。人生の輝き、束の間の歓び、そして…時に訪れる悲劇さえも、美しく彩ってくれる魔法の飲み物です。特に、気の利いた会話には欠かせませんな。」
(隣に置かれた、綺麗に切り揃えられたキュウリのサンドイッチを指し示す)
「そして、こちらはこの上なく英国的な、キュウリのサンドイッチ。一見、何の変哲もない?いやいや、この繊細さ、この人工的なまでの完璧さ!これぞ、洗練された社会の縮図なのですよ。まあ、味は…ご想像通りかもしれませんがね。」
(悪戯っぽく笑う)
クレオパトラ:(シャンパンの泡立ちを興味深そうに見つめる)
「まあ、泡が弾けるお酒ですの?面白いですわね。…わたくしからは、こちらを。」
(琥珀色の液体が満たされた杯と、宝石のように飾られたイチジクの皿を示す)
「これは、ナイルの恵み、デーツ(ナツメヤシ)から作った甘美なワイン。蜂蜜と香辛料で、さらに豊潤な香りを加えてありますの。心を解きほぐし、甘い夢へと誘うでしょう。」
「そして、このイチジク。中には蜂蜜と砕いた木の実を詰めてありますの。エジプトの太陽の味がいたしますわ。豊穣と生命の象徴…どうぞ、召し上がってみて。」
(優雅に勧める)
フリーダ・カーロ:(目を輝かせてクレオパトラのイチジクを見つめる)
「わぁ、太陽の味!素敵ね!私のは、もっと…そう、土の匂いがするかしら。」
(温かそうな湯気を立てるマグカップと、鮮やかな緑色のディップが盛られた器を示す)
「これは、メキシコの熱いチョコレート。カカオに、シナモンと、ほんの少しのチリ(唐辛子)を入れてあるの。身体の芯から温まるわよ。甘くて、ちょっとピリッとするのが、人生みたいでしょ?」
「こっちは、ワカモレ。アボカドを潰して、玉ねぎやトマト、コリアンダーなんかを混ぜたもの。このトトポス(トルティーヤチップス)につけて食べてみて。シンプルだけど、大地の力が詰まってるのよ。」
(にっこり笑う)
ソクラテス:(皆の華やかな飲食物を眺め、少し困ったような顔をしていたが、自分の前に置かれた簡素なセットを示す)
「…ふむ。わしのは、これじゃ。」
(素焼きの杯に入ったただの水と、皿に盛られたオリーブと白いチーズ、硬そうなパンを指す)
「ただの水じゃ。身体を潤し、渇きを癒す、それ以上でも以下でもない。だが、これこそが最も自然で、最も必要なものじゃろう。」
「それから、オリーブの実と、山羊の乳から作ったチーズ。あとは、この大麦のパン。質素かもしれんが、アテナイの市民が日々口にする、大地の恵みそのものじゃ。見かけの華やかさはないが、滋養があり、飽きることがない。…まあ、興味があれば、試してみるがよい。」
(少しぶっきらぼうに言うが、その目には穏やかな光が宿っている)
オスカー・ワイルド:(ソクラテスの水を覗き込み)
「水!なんと…哲学的な飲み物でしょう!ある意味、最も『スタイル』がない、究極のスタイルとも言えるか…いや、やはり退屈かな。」
(シャンパンを一口飲み、フリーダのワカモレに手を伸ばす)
「おっと、これは失敬。カーロさん、この緑色のものは実に鮮やかだ。…ふむ、おお!口の中で様々な味が爆発するようだ!なんとも情熱的、実にメキシカン!」
フリーダ・カーロ:(嬉しそうに)
「でしょ?オスカルも、たまにはそういう『爆発』もいいんじゃない?」
(クレオパトラのイチジクを取り、口に入れる)
「ん〜!クレオパトラ、これは本当に太陽の味がするわ!甘くて、豊かで…なんだか力が湧いてくるみたい。」
クレオパトラ:(フリーダの素直な感想に、微笑む)
「ふふ、気に入っていただけて嬉しいわ。…そのチョコレート、少し頂いても?」
(フリーダのホットチョコレートを少しすする)
「まあ…!甘いのに、後からぴりりと刺激が。…これは、癖になりそうですわね。面白い。」
ソクラテス:(皆が互いの食べ物を試すのを黙って見ていたが、ワイルドに勧められ、恐る恐るキュウリのサンドイッチを手に取る)
「…ただのパンとキュウリか?…む。…味がないようで、あるような…不思議なものじゃな。」
(次にクレオパトラのデーツワインを少しだけ口に含む)
「むぅ…これは、甘すぎるな。わしには水で十分じゃ。」
(しかし、自分の皿のオリーブを一つ、クレオパトラに差し出す)
「…女王よ、もしよければ、これを。塩気があるから、その甘いワインの後には良いかもしれんぞ。」
クレオパトラ:(少し驚きながらも、優雅にオリーブを受け取る)
「まあ、ありがとう、哲学者。…いただきますわ。(口に入れ)…ええ、本当。この塩気と、豊かな風味が…先ほどのワインの甘さを引き立てますわね。」
オスカー・ワイルド:(ソクラテスのチーズを試しながら)
「おやおや、ソクラテス先生。意外と気が利くではありませんか。このチーズも、実に素朴で力強い味わいだ。…シャンパンにも合いますな!」
フリーダ・カーロ:(ソクラテスのパンをかじりながら)
「うん、噛めば噛むほど味が出る感じ。先生みたいね。」
ソクラテス:(少し照れたように咳払いをする)
「…た、食べ物の話ばかりしておるな、おぬしらは。まあ、たまには良いか。」
クレオパトラ:(穏やかな表情で)
「ええ。こうして、それぞれの故郷の味を分かち合うのも、悪くありませんわね。舞台の上では、あんなに激しくやり合ったのに…不思議なものですわ。」
オスカー・ワイルド:「人生とは、そういう矛盾に満ちた、美しいコメディなのですよ、女王陛下。」
フリーダ・カーロ:「でも、こうやって話していると、なんだか…みんな、ただの人間なんだなって思うわ。女王も、哲学者も、作家も、画家も…。」
ソクラテス:「うむ。肩書きや見た目など、やはり表面的なものじゃ。こうして、同じものを食べ、語り合えば…魂の近しさ、というものも感じられるのかもしれんのう。」
(4人は、それぞれの飲み物を片手に、互いの食べ物を勧め合い、感想を言い合いながら、穏やかに談笑を続ける。激しい討論の後とは思えないほど、和やかで、温かい空気が控室を満たしている。歴史に名を刻んだ偉人たちの、束の間の、そして貴重な交流の時間だった)