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ラウンド1:美貌は力か、虚像か?

(オープニングの熱気を引き継ぎ、スタジオの照明が少し落ち着いた討論モードに変わる。あすかが中央で、対談者たちに向き直る)


あすか: 「さあ、皆さん、最初のラウンドです。テーマは【美貌は力か、虚像か?】…クレオパトラ様は先ほど、見た目を『力』だと断言されました。まずは、その点について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか? あなた様にとって、美しさとはどのような『力』だったのでしょう?」


クレオパトラ: (少し身を乗り出し、自信に満ちた表情で)

「力、ですって? ふふ、それはこの世で最も分かりやすく、そして時に最も効果的な『鍵』のようなものですわ。例えば…そう、わたくしが初めてローマの偉大なるカエサルにお会いした時のこと…。」

(遠い目をするが、すぐに鋭い光を宿す)

「敵に囲まれ、絶体絶命の中、わたくしはどうしたか? 絨毯に身を隠し、彼の前に転がり出たのです。もしその時、わたくしがただの小娘…見目麗しくない、取るに足らない存在に見えていたとしたら、彼は話を聞いてくれたかしら? いいえ、おそらく一蹴されていたでしょう。」

(他の対談者、特にソクラテスを見据えながら)

「けれど、わたくしは違った。彼はわたくしの姿に、声に、そして…そう、この容貌に興味を持った。それが、エジプトとわたくし自身の運命を切り開く、最初の扉を開けたのです。美しさは、まず相手の注意を引き、心を開かせる力。知性や言葉はその次…いいえ、それらを生かすための土台となる力ですわ。」


ソクラテス: (我慢しきれん、というように口を挟む)

「ほう、”力”とな。女王よ、それはまことの力と言えるのかね? それは、相手の理性を曇らせ、本能的な欲求…いわば、獣じみた部分に訴えかけるだけの、はかない幻影ではないのか? カエサルとやらが、そなたの言葉や知性に耳を傾けたのは、その『見た目』という甘い毒に酔っていたからに過ぎんのではあるまいか?」


クレオパトラ: (少し眉を顰めるが、すぐに余裕の笑みで返す)

「甘い毒…結構ですわ、哲学者。毒も使い方次第では薬となりましょう? 相手が何に価値を置くかを見抜き、それを提供すること。それもまた、交渉術であり、為政者の持つべき才覚の一つ。わたくしは、天から与えられたこの容姿という『力』を、国のため、民のために最大限に利用した。そこに何の恥じることがありましょう?」


オスカー・ワイルド: (楽しそうに手を叩きながら)

「ブラボー、女王! 実に潔い。そう、美は間違いなく力だ。おそらく、この世で最も抗いがたい、専制的な力でしょうね。…ただし!」

(人差し指を立て、芝居がかった仕草で続ける)

「その力が、いかに移ろいやすく、そしてしばしば、実にくだらない結果をもたらすか! 人々は美しいものの前では、いとも簡単に理性を手放し、凡庸な判断を下す。それは悲劇か? いや、むしろ喜劇でしょうな。クレオパトラ様がその力を利用されたのは見事ですが、それに踊らされた男たちの愚かしさ…それこそが、このテーマの面白さでもある。」


フリーダ・カーロ: (静かに、しかし強い口調で)

「力…? 利用する…? 聞いていれば、まるで美しさが自分だけのもので、思い通りに使える道具みたいに聞こえるわね。」

(クレオパトラをまっすぐに見つめる)

「でも、その『力』とやらは、本当にあなた自身のものだったの? それとも、カエサルやアントニウス…男たちが勝手にあなたに押し付け、そして都合よく消費しただけの『役割』だったんじゃないかしら? あなたはその『美しい女王』という仮面の下で、本当に自由だったの?」


クレオパトラ: (フリーダの鋭い問いに、一瞬表情を硬くするが、すぐに女王の仮面を取り戻す)

「自由…? 国を背負う者に、完全な自由などありえませんわ。わたくしは、与えられた札の中で最善を尽くしたまでのこと。仮面? いいえ、これもわたくし自身。見せ方を選び、演じることもまた、力の一部です。」


ソクラテス: (呆れたようにため息をつく)

「演じる、じゃと? 見せかけの姿に固執し、真の自己から目を背けること…それが『力』だと言うのかね? なんと哀れな…。真の力とは、富でも名声でも、ましてや肉体の美しさでもない。己の魂を善くし、知を愛し、不正を憎むこと。それこそが、誰にも奪われず、揺らぐことのない、人間としての力ではないのか!」

(拳を握り、熱を込めて語る)


あすか: (議論の熱気を感じ取り、少し前に出る)

「クレオパトラ様は美貌を『扉を開ける鍵』であり『戦略的な力』だと主張され、ソクラテス先生はそれを『魂を曇らせる虚像』であり『真の力ではない』と断じられました。ワイルドさんはその『力の効果と愚かしさ』を指摘し、フリーダさんは『他者から押し付けられる役割』としての側面と『自由』への問いを投げかけられましたね…。」


オスカー・ワイルド: 「付け加えるなら、ソクラテス先生。あなたの言う『魂の美しさ』とやらも、実に厄介な代物ですよ。目に見えぬものを信じろと言うのですからな。それに比べれば、見た目の美しさは、少なくとも正直だ。そこに在る、という一点においてはね。」


ソクラテス: 「正直だと? 色褪せ、朽ち果てるものがか? 見せかけの輝きに過ぎぬものを『正直』とは、酔狂な物言いじゃな、作家先生。」


フリーダ・カーロ: 「…どちらにしても、『美しい』か『美しくない』か、その物差し自体が問題なのよ。誰が決めたの? なぜそれに合わせなきゃいけないの? その物差しで測られる側の痛みを、あなたたちは考えたことがある?」


あすか: 「フリーダさん、その点は非常に重要ですね…。美しさというものが『力』である可能性を認めるとしても、その力がどのように作用し、誰を利し、誰を傷つけるのか…。そして、その『美しさ』の基準そのものも問われなければならない、と。」


クレオパトラ: 「基準がなければ、混乱するだけですわ。人々は指針を求めるもの。」


ソクラテス: 「ならば、その指針は『善』であるべきじゃ! 見た目ではない!」


オスカー・ワイルド: 「ああ、退屈な『善』よりも、魅力的な『罪』の方が、よほど芸術的だと思うがねぇ。」


フリーダ・カーロ: (苦々しい表情で)「芸術…」


あすか: (白熱する議論を一度制するように)

「ありがとうございます! ラウンド1から、すでに様々な角度からの意見がぶつかり合っていますね。『美貌は力か、虚像か?』…この問いへの答えは、まだ見えてきませんが、それぞれの立場が鮮明になってきました。次のラウンドでは、フリーダさんも問題提起された、その『美の基準』について、さらに深く掘り下げてみたいと思います。」

(ラウンド1終了の短い効果音、あるいは照明の変化)

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