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幕間

笑い声が途切れた瞬間、三人の指先がふっと止まった。

静けさが落ちて、代わりに耳に残るのは四人分の呼吸だけ。


杏奈が頬を近づけて、小さな声で囁く。

「……ねぇ、れー君。今、すごくかわいかった。でも……私が一番好きなのは、笑った後に見せる、この落ち着いた顔なんだよ♡」

そのまま、唇が頬に触れる。軽くて、でも残る温度は強い。


ふわりは背中越しに、ゆっくり腕を回した。

「れーじくん。さっきまではわたし達が遊んでただけ。でも……ほんとはね、こうやって静かに寄り添ってたいの。安心できるでしょ~♡」

額が肩に預けられて、長い髪が頬にかかる。匂いも、吐息も、全部ゆるやかで。


鈴音は胸の上に顔を寄せて、小さく呟いた。

「……レージ君。笑顔も大切ですけど……鈴音は、“静かに抱かれてる時間”が一番好きです」

そう言って、そっと唇がシャツ越しに触れる。布を通してなのに、胸の奥に直に響いた。


三方向から重なる甘さ。さっきまでのドタバタが、嘘みたいに消えて。

俺は思わず目を閉じた。


杏奈が耳元に、低く。

「れー君、大好き」

ふわりが肩口に、やわらかく。

「れーじくん~、ずっとこうしてたい~♡」

鈴音が胸に、丁寧に。

「……レージ君。これからも、ずっと」


言葉より、触れ方より、その“間”が甘すぎて。

返事をしようとしても、喉が詰まって言葉が出てこない。

だから、代わりに三人の手を探して、ぎゅっと握った。


三人同時に、ふっと微笑む気配。

それだけで――この団子状態の夜が、永遠に続けばいいと思った。


指を絡めていた手が、そっと離れて――代わりに三人の顔が近づいてくる。

照明は落としてあるから、瞳の光がほんのり揺れて、妙に色っぽい。


杏奈が一番に動いた。

「れー君……もっと近くで“好き”って言わせて」

耳ぎりぎりに囁く声が熱くて、そのまま頬に軽くキス。唇が触れた瞬間、鼓動が一気に跳ねる。

「ん……やっぱり落ち着かないや。れー君、反則♡」

にやっと笑う顔がずるいくらい可愛い。


ふわりが背中から回り込んで、髪の間から囁いた。

「れーじくん、わたし……もう、今日いっぱい“だいすき”言いたい~♡」

言葉と同時に、首筋に柔らかい感触。軽いキスが、何度も、何度も。

「……あったかいでしょ? 安心してね~♡」

ゆっくり降り積もるみたいに、心臓ごと包まれる。


鈴音は迷ったように少し遅れて近づいてきた。

「……レージ君。私も……」

囁きは震えているのに、唇が触れた瞬間は真っすぐ。頬から顎へ、そしてもう一度頬へ。

「確認しました。“大切”の証拠です」

真顔で言うのに、耳まで真っ赤で。思わず笑ってしまいそうになる。


三方向からの囁きとキス。甘さが重なりすぎて、呼吸が追いつかない。

でも不思議と、息苦しくはない。むしろ胸の奥が、いままでにないくらいに軽くなる。


「れー君、もっと……こっち向いて♡」

「れーじくん、まだ“残り”いっぱいあるよ~♡」

「レージ君、鈴音も……まだ終わりません」


順番なんて関係なく、触れるたびに言葉が落ちてくる。

「だいすき」「ずっと一緒」「守る」「甘やかす」「安心して」――

キスと一緒に降ってくる声は、ひとつ残らず俺の胸にしまわれていく。


気づけば、俺も返していた。

「ありがとう」「俺も大好きだ」「守ってほしい」「これからも」

息継ぎみたいに、三人へ。触れるたびに、声が重なっていく。


団子状態の空気は、もうただ甘い。

「もう少し……このままで」

その一言で、三人が同時に微笑んだ。

囁きも、キスも、止まらないまま。夜はゆっくりと、でも確実に甘さを増していった。


三人の囁きとキスが交互に降ってきて、頭がふわふわしてくる。

けど、それで終わらないのがこの三人だった。


杏奈は、わざと唇を俺の耳ぎりぎりに滑らせてから小声で。

「れー君、ここ弱いでしょ♡」

舌先がかすかに触れた。耳の奥にまで電気が走る。

「ひゃっ……」と変な声が出て、杏奈は勝ち誇ったみたいに笑った。

「ほら~♡ こういう反応、私しか知らないってとこ、最高だよね」


ふわりは背中から腕を回して、俺の指を一本ずつ絡めていく。

「れーじくんの指、ほっそりしてるのに力あるねぇ~♡ ……んっ」

そのまま指先にちょこんと口づけ。軽い音を立てて、次はもう少し深く。

「指って、意外と敏感なんだよぉ~。……ほら、動けなくなった~♡」

指ごと包まれる感覚に、心臓のリズムがどんどん速くなる。


鈴音は少しだけためらって、それでも勇気を出したみたいに膝立ちで近づく。

「……レージ君。ここも……弱いですか?」

そう言って、首筋から鎖骨のあたりにかけて、ゆっくりと小さなキスを連ねる。

息が触れるたびに体温が跳ねて、言葉にならない。

「……やっぱり。反応が素直で……嬉しいです」

照れ隠しみたいに真面目に言う声が、逆にドキドキを煽る。


三方向から同時に攻められると、もう逃げ場なんてない。

耳、指、首筋――普段なら気にも留めない場所が、全部一気に甘い感覚で満たされていく。


「れー君、もっと赤くなって♡」

「れーじくん、声、我慢しなくていいよ~♡」

「レージ君……そのまま、受け止めてください」


囁きとキスが重なって、体の芯までとろけるようだ。

「……っ、俺……ほんと、お前らに勝てねぇ……」

言った瞬間、三人の顔が同時に近づいてきて、頬と額にトリプルキス。

「それでいいの♡」

「それが、いちばん~♡」

「はい。勝敗は不要です」


完全に包囲されたまま、胸の奥まで甘さが浸みていく。

――この夜は、まだまだ終わりそうにない。


耳や指や首筋に残っている余韻が、じわじわと胸の奥に広がっていく。

けれど次の攻撃は来なくて――代わりに、三人が自然に身体を寄せてきた。


右から杏奈が肩ごと抱きつくようにくっついてきて、頬をすり寄せる。

「れー君、もう充分赤くなったし……今は、このままでいいや♡」

その声が、息と一緒に首元に落ちて、火照ったところを優しく冷ましてくれる。


背後からはふわりの長い腕が、ふわっと包み込む。

「れーじくん……安心のポーズ、ねぇ~♡」

広い背中のぬくもりごと吸い込まれるみたいで、身体の力が一気に抜けていく。

胸の奥までぽかぽかにされると、人間ってこんなにも簡単に無防備になるんだな、って思う。


左側では鈴音が控えめに、けれど離れずに、俺の手をきゅっと握った。

「レージ君……今日は、ここで休んでください」

その声は、命令みたいに凛としてるのに、温度はすごく柔らかい。

小さな手のひらから伝わる脈動が、まるで「大丈夫」って繰り返してるみたいだ。


三方向から囲まれて、もはや逃げ場なんてない。

でも、それが逆に“守られてる”感覚になって、心臓の鼓動まで落ち着いてくる。


「……安心するな、こんなの」

思わず口から漏れた俺の言葉に、杏奈がくすっと笑って。

「でしょ? 私達、れー君を安心漬けにしちゃうんだから♡」


ふわりは俺の胸に額を当てて、小さな声で。

「んふ……このまま寝ちゃってもいいよぉ~」


鈴音も真面目な顔のまま、耳元でささやく。

「……夜はまだ続きます。でも、今は少しだけ……このままで」


呼吸が重なって、鼓動が揃って、部屋の中の音がやけに小さくなる。

三人の体温に埋もれたまま、俺はただ目を閉じて――

「……ああ。お前らがいてくれたら、それでいい」

心の底からそう思った。



三人に埋もれて「よし、このまま寝てもいいかな」って思いかけたその時――。


「……あ、れー君。寝ちゃダメ」

杏奈が俺の胸をつつく。

「これから“お泊まり会ゲーム本編”なんだから♡ 寝落ちは減点対象だよ」


「減点って……俺、何点満点なの」

「もちろん♡ 一万点満点!」

「高すぎ!」


ふわりも背後からくすくす笑って、俺の髪を撫でる。

「れーじくん、まだパジャマパーティータイム、始まってないよぉ~。このまま寝たら、“王様失格”だもんねぇ♡」

「俺が王様失格って……じゃあ誰が王様になるんだよ」

「わたしが代理王様~♡」

「えっ、勝手に即位しないでくれ!」


鈴音は真剣顔で小声を落とす。

「……では、レージ君が寝落ちしたら、“寝顔撮影会”に切り替える、という案があります」

「やめろ! SNSで出回る未来が見えた!」

「いえ、王宮アルバム専用です。外部流出はいたしません」

「逆にアルバムに残るのも恥ずかしい!」


三人が好き勝手に責め立てるから、俺はついに頭を抱えた。

「分かった! 寝ない! 寝ないから! ほら、ほっぺつつくのやめろ! 髪いじるのやめろ! 手の甲にキス重ねるな!」


杏奈「ふふっ♡ れー君が慌てるの、可愛い」

ふわり「きゃ~♡ 今度は耳まで赤い~」

鈴音「……観測しました。“動揺ポイント”最大値です」


三人がにやにや覗き込んでくる。完全に俺をオモチャにしてるだろ、これ。

でも胸の奥が軽くて、笑いが止まらなくなる。


「……ほんっとに。俺、三人に勝てる気しねぇ」

口から漏れたら、杏奈がすぐにニヤリとした。

「当たり前♡ だって私達、王様ゲームの“ラスボス三人衆”だから♪」


その一言で場が弾けた。俺も一緒になって笑い声を上げる。

夜の部屋が、安心とぬくもりと、ちょっとしたカオスで満たされていった。












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