22回目 その3
デートの余韻を抱えたまま、俺たちは我が家に帰ってきた。
玄関をくぐった瞬間から、三人のテンションは再加速してる。
「デート編」から「お泊まり編」へのスイッチが完全に入ったらしい。
「ただいま~♡ ……あ、違うか。おじゃましまーす!」
杏奈はもう自分の家みたいに靴を脱ぎ散らして入っていく。
水色のコートを脱いだら、キラキラ光るニット。イルミネーションの余韻を引きずってる。
「れーじくんのお部屋、クリスマスの続きだねぇ~♡」
ふわりは荷物を抱えたまま、のんびりとソファに座る。桃色のブランケットを持ってきてて、広げるだけで部屋の空気が柔らかくなるのすごい。
「レージ君、冷蔵庫をお借りします。……ケーキを保存してあります」
鈴音は黄色いエコバッグからホールケーキを取り出して、きっちり冷蔵庫に収める。やっぱり参謀。
俺はコートを脱ぎながら、思った。
――もうこれ完全に「クリスマス第二部・お泊まり会編」だ。
ソファのテーブルに並んだのは、チキンの残りとサラダ、それから鈴音が仕込んだケーキ。
ふわりがマグカップにココアを注ぎ、杏奈がクラッカーを構える。
「よーし、パーティー第二ラウンド! かんぱーい♡」
「かんぱ~い♡」
「乾杯です」
俺もマグを合わせる。カチンと鳴った瞬間、クリスマスはまだ終わらないってはっきり分かった。
「さてさて♡ お泊まり会ってことは……もちろん“王様ゲーム出張版”もやるんだよね?」
「れーじくんのお部屋、舞台にぴったりだよぉ~♡」
「王様の玉座(=ソファ中央)は、すでに確保されています」
気づけば、俺はいつもの「真ん中」に座らされていた。
両脇には杏奈と鈴音、背中にはふわり。デートから続いてる鉄板フォーメーション。
でも今日は、夜。お泊まり会。しかもクリスマス。……つまり、甘さ補正が倍増するやつだ。
「じゃ、まずは“王様をふんわり暖めろ♡ゲーム”から!」
「わぁ~♡ おっきなブランケットでみんなで包も~」
「防寒・安心・密着。三拍子そろっています」
三人同時に布団を広げて俺をくるむ。視界が一瞬で色分けされて、水色、桃色、黄色が全部俺の温度になる。
……これ、もう勝負ついてるんじゃないか?
「れー君、ぬくぬく大作戦、発動~♡」
杏奈が宣言すると同時に、ブランケットがさらにギュッと締まった。
「わぁ~♡ お布団みたいにあったか~い」
ふわりは後ろから俺の肩をぽすぽす叩きながら、全身を預けてくる。
背中に桃色の安心が広がって、体温がじわじわ奪われていくみたいだ。
「レージ君、これで“冬の防御力”は完璧です」
鈴音は真剣な顔で俺の膝にカイロを置いてくる。……いや、そこまで実務的に固めなくてもいいんだが。
俺「おいおい、これもう“ぬくもりの要塞”だろ」
杏奈「その通り♡ 王様はぬくぬくの捕虜です!」
ふわり「捕虜~♡ れーじくんは、もう逃げられませ~ん」
鈴音「降伏条件は、“甘やかされること”。抵抗は無意味です」
三人同時にじわじわ寄ってきて、腕とか頬とか隙間にそれぞれの温度を置いてくる。
……これ、もはや試合じゃなくて包囲網だ。
「ねぇ、そろそろ膝タイムにしない?」
杏奈がニヤッと笑って、俺の左膝にちょこんと腰を下ろした。
「はぁ~♡ 王様の玉座ゲット~!」
「えへへ~♡ わたしも欲しいなぁ」
ふわりはすぐ隣で膝を狙う。でっかい身体で遠慮ゼロだから、気づいたら両足ごと座布団扱いにされそうだ。
「……では、鈴音も。正室候補としては当然の権利です」
鈴音は真顔で右膝に座ってきた。
両サイドが埋まって、ふわりまで抱きついてくるもんだから、完全に三方向から膝を取り合われる状態に。
足の血流、大丈夫か?
「れー君、どっちが一番座り心地いい?」
「ううん、どっちじゃなくて“全部”だよぉ~♡」
「最終的には、“三人同時”が最適解です」
「いや無理だろ!? 一人用膝なんだぞ!?」
「「「無理じゃない♡」」」
次の瞬間、ほんとに三人同時に重なってきた。
……結果。俺の膝、完全に沈没。
ブランケットの中で、三人が同時に俺の膝に乗ってきた瞬間――予想どおりの結果が起きた。
「……ぐえっ」
声にならない声が喉から漏れて、次の瞬間、ソファごとぐらり。
「きゃっ♡」「わわっ」「危ない!」
三人と一緒に雪崩れるように横倒しになって、そのままブランケットの海に沈んだ。床の柔らかいラグがなければ、俺の体は確実に悲鳴を上げていたはずだ。
けれど、重みがかかる前に、三人がとっさに両手や足で支えてくれていた。だから実際は痛みなんかなくて――代わりに、やたら甘い密着感だけが残った。
杏奈が俺の胸のあたりでくすっと笑う。
「やった、れー君ゲット♡ ……っていうか、これ完全に四人団子だね」
背中にはふわりの大きな影がぴったり重なっていて、息をするたびに背骨にやわらかい温度が乗る。
「んふふ~♡ ぬくぬく~。これなら冬でも、凍えないねぇ」
腕のあたりには鈴音がきゅっと挟まり込んでいて、頬が触れるくらい近い。
「……すごく、落ち着きます。レージ君、これが最適配置です」
最適って言うけど、三人に囲まれて身動きが取れないのは俺の方なんだよな。
でも、不思議と嫌じゃない。むしろ、妙に安心する。
「なぁ、これ……ゲームっていうより、もうただの“冬ごもり”じゃないか?」
口に出したら、三人とも同時に笑った。
「冬ごもり、いいじゃん♡ れー君と一緒なら、永住してもいい」
「ん~♡ わたし、冬眠代わりにここで寝ちゃいそう」
「問題ありません。交代で“見張り”すれば完璧です」
結局そのまま、四人団子状態でブランケットにくるまって、ソファの上でごろごろ。
外の冷え込みなんてどうでもよくて、耳に届くのは三人の息遣いと笑い声だけだった。
ブランケットに沈んだまま、三人がそれぞれのポジションから仕掛けてくる。
胸のあたりで杏奈が、わざと小声で囁いた。
「れー君……今、すごく無防備だよ? 私に全部好き放題されちゃうよ?」
息が首筋にかかるたび、背筋がぞわぞわする。
背後ではふわりが、俺の耳をくすぐるみたいに低く笑った。
「んふふ~♡ じゃあわたし、“れーじくん専用まくら”になっちゃお。……重い? でもぬくぬくでしょ~」
そのまま顎を肩に乗せて、髪先が頬をこしょばす。
腕の中では鈴音が、真剣な声で宣言する。
「レージ君、これは“リラックス訓練”です。……まずは、ほっぺにキス」
ちゅ、と短い音。真面目な顔でやるから、逆に効く。
杏奈も負けじと、「はい、こっちも!」と反対の頬に軽く。
ふわりは背中越しに、「じゃあわたしは額ねぇ~♡」と押し当ててくる。
両頬と額に同時攻撃。呼吸が詰まって、思わず声が漏れた。
「おまえら……いっぺんに来るなって……!」
さらに鈴音が不意に、俺の脇腹をちょん、と指で突いた。
「リラックス訓練その二。“くすぐり耐性確認”です」
「わ、ちょ……っ!」
杏奈も便乗して、「れー君、くすぐったいの弱いでしょ?」と指先を忍ばせる。
「れーじくん~、じゃあわたしは背中~♡」ふわりまで参戦。
三方向からのくすぐりラッシュに、俺は笑い声を必死でこらえる。
「やめっ、マジでやめろ……っ!」
声は笑いに裏返って、もう完全に抵抗にならない。
「ほらほら~、王様なのに情けない顔~♡」
「でも……かわいいです」
「んふふ~、もっと笑わせちゃうよ~」
甘やかすようで、からかうようで、でも最後には必ずどこか安心させる温度があって――逃げ場なんて最初からなかった。
~ゲーム22回目 終了~




