22回目 その2
「はいはーい♡ じゃあ“開封タイム”入りまーす!」
杏奈が司会役みたいに手を叩く。ソファの前に並んだ小さな包み――三色サンタそれぞれからのプレゼント。
「れーじくん、最初はわたしのねぇ~」
ふわりが差し出したのは、桃色のリボンで結ばれたふわふわ袋。開けると、中から出てきたのは手編みっぽいマフラー。
「……これ、ふわりが?」
「うん~♡ ゆっくり編んだからちょっとゆるいけど、首に巻くと“安心ゲージ”上がるの~」
実際、首に当ててみるとほんのり温かくて、ふわりの匂いが少し混ざってる気がして。
「……最高だ。ありがとな」
「きゃ~♡ いっぱい使ってねぇ~」
「次は鈴音からです」
黄色い小箱を手渡される。リボンを解いて開けると、中には小さな金色のキーホルダー。
「これは……王冠?」
「はい。“王様マーク”。通学鞄に付けてもらえると、鈴音が……少し安心できます」
「もちろん。毎日持ち歩く」
「……! ありがとうございます!」
耳まで赤くなってるの、鈴音らしい。
「ラストは私!」
杏奈が胸を張って、水色の袋をポンと置く。開けてみると、中身は――手作りのフォトフレーム。
「ほら、“王宮アルバム”の写真、飾れるでしょ? しかも、フレームは三人のカラー+れー君色の透明で仕上げたんだ♡」
「おお……すげぇな」
実際、四色の組み合わせがきれいで、光に当てるとほんのり虹っぽく見える。
「れー君、これで毎日見返せるよ。つまり、“毎日私達に会える”ってこと♡」
「……ああ。絶対使う」
「えへ♡ 勝った」
三つ並んだプレゼント。全部違うのに、全部ちゃんと俺の“真ん中”に寄ってくる。
自然と口から出る。
「ありがとな。……どれも、大事にする」
三人同時ににこって笑う。部屋の電飾よりも明るくて、俺はただ笑い返すしかなかった。
◇◇◇
振替休日に続いて、街はすっかりクリスマス仕様。イルミネーションが夕方の空に映えて、吐く息が白くなるたびに、なんとなく胸も高鳴る。
俺は駅前で待っていたんだけど……当然のように三人はもう到着済み。
「集合の概念に強い」ってやつ、クリスマスだろうとブレないんだなぁ。
「れー君、メリークリスマス♡」
杏奈は水色のマフラーを首に巻いて、白いコートでふわっと登場。いつもより少しだけおめかししてる顔に、思わず見惚れた。
「れーじくん~、今日はサンタさんの代理なんだよぉ~。えへへ、楽しみ~♡」
ふわりは桃色のダッフルにトナカイの髪飾り。195センチのシルエットが、街のライトを受けてやたら映える。なんだろう、看板より目立ってる。
「レージ君、予定表を更新しました。本日ルートは――カフェ→イルミネーション→クリスマスマーケット→ディナー、です」
鈴音は黄色のマント風コートにニット帽。参謀モードなのに、耳が赤いのがちょっと可愛い。
「じゃ、行こっか♡」
杏奈の合図で、俺たちはクリスマスの街に歩き出した。
通りの木々が、青・桃・黄色のライトで飾られているのを見て、杏奈が嬉しそうに指を差す。
「ほらっ、三人の色! 完全に“王宮仕様”♡」
「れーじくん、これは偶然? それとも……陰謀?」
「いえ、世界が私達に味方している証拠です」鈴音がまじめに断言。
俺は笑いながら言った。
「まあ、俺たちが歩くと、世界が“王宮モード”に自動変換されるんだろ」
三人同時に「分かる♡」「そうそう~♡」「納得です」と返ってきて、胸の奥がやけにあったかくなる。
木の屋台が並んで、ホットワインや焼き菓子の匂いが漂う。
「れー君、これ食べよ!」杏奈がプレッツェルを差し出してくる。
「れーじくん、ホットチョコ、わたしがふーふーしてあげる~♡」ふわりはマグを抱えて微笑む。
「レージ君、こちら“焼き栗”。栄養価が高いので補給に適しています」鈴音は紙袋を差し出す。
三人同時の“あーん”攻撃。
俺「一遍にできるか!」
周囲の客が笑ってる。たぶん俺ら、完全にコントだ。
予約していたレストランの窓際席。窓越しにイルミネーションが映る。
「れー君、今日の王様メニューは――チキンの丸焼き♡」
「れーじくん、デザートはブッシュ・ド・ノエルだよぉ~♡」
「レージ君、乾杯の掛け声をお願いします」
俺はグラスを持ち上げて、三人を順に見た。
「メリークリスマス。俺にとっては、お前ら三人が最高のプレゼントだ」
杏奈「……っ♡ 知ってたけど、やっぱ言われるとヤバイ」
ふわり「えへへ~♡ 胸ぽかぽかになった~」
鈴音「記録します。“最高のプレゼント発言”。保存必須です」
三人が笑ってる顔を見て、俺も笑った。
――クリスマスって、たぶんこういう夜のことを言うんだろう。
イルミネーションで染まった街の通りを抜けると、いつもの商店街。
さっきまで賑やかだった広場の音楽も遠のいて、代わりにシャッターが降りる音が響いてる。
街がクリスマスの顔から夜の顔に着替えていく瞬間だ。
俺たち四人は並んで歩く。右に杏奈、左に鈴音、背後にふわり。もう鉄板のフォーメーション。
でも今夜は、それだけでなんとなく“特別感”があった。
「れー君、今日はほんとに……ありがとう♡」
杏奈が手袋の上から俺の手をちょん、と触れる。
その一瞬のぬくもりが、街灯より強く胸に灯った。
「れーじくん~、チョコの匂い、まだ残ってる~♡ ……あま~い気分のまま帰れるのって、いいよねぇ」
ふわりは後ろからひょこっと顔を出して、俺の肩に顎を乗せる。
195センチの影が、クリスマスの夜に妙に頼もしくて笑えてくる。
「レージ君。本日の行程表、全項目達成。……達成率100%です」
鈴音は真面目に言うんだけど、声がちょっと震えてる。たぶん、寂しさをごまかしてるんだろう。
俺は小さく笑って答えた。
「達成率100%なら……今日のクリスマス、満点だな」
「……っ♡」
三人の顔が、同時にほころぶ。
コンビニの前を通り過ぎたとき、杏奈がふいに立ち止まった。
「ね、れー君。今日ってさ、すごく楽しかったけど……まだ“終わり”って感じがしないんだよね」
「わかる~。なんか、ここから“続き”がある感じするよねぇ~」
「……同意します。まだ“締め”が必要です」
俺は少しだけ考えて、空を見上げた。
冬の夜は冴えていて、星がはっきり見える。
「じゃあ――“次”は俺の家で。お泊まり会でクリスマスの続きをやろう」
三人が同時に目を丸くして、次の瞬間、声が重なった。
「「「賛成っ♡」」」
その声は、シャッターが降りた商店街の中に響いて、確かに冬の夜を甘くした。
俺の胸の中でも、小さく“続き”の鐘が鳴った気がした。




