22回目 その1
クリスマスイブの夜。
我が家のリビングは、完全に「王宮仕様」に模様替えされていた。
ツリーの飾りは杏奈が仕切って、水色のオーナメントと銀のリボンがひらひら。
ケーキはふわりが手作り、いちご山盛りのホールサイズ。
そして鈴音は黄色のイルミネーションライトを細かく配置して、部屋の空気をやわらかく照らしていた。
「れー君、準備は万端♡ いよいよ“クリスマス王様ゲーム”いっくよ~!」
杏奈がツリーの前でくるっと回る。スカートがふわっと広がって、赤と白のサンタ風衣装が完全に映えていた。
「れーじくん、今日は“正室ルール”も健在だよ~♡」
ふわりが胸元のリボンを結び直しながらにっこり。背丈が高いから、衣装はどちらかというと「サンタママ」っぽい迫力。
「レージ君、本日のゲーム特則を発表します」
鈴音が手帳を開く。サンタ帽をちょこんと被って、いつもの敬語が妙にクリスマス仕様に聞こえる。
「正室決定の前に、“プレゼント交換攻撃”を行います。王様は受け取ったプレゼントに“感想とキス”を返すこと」
「えっ、最初からキス強制!?」
俺のツッコミに、杏奈はいたずらっぽくウィンク。
「クリスマスだもん♡ いつもより甘くなきゃイヤでしょ?」
まずは杏奈。
「れー君へのプレゼントは……はいっ♡」
差し出されたのは、水色の手編みマフラー。
「ちゃんとれー君サイズに編んだから♡ 私の“独占タグ”入りだよ!」
「お、おう……ありがとう」
巻いてみると、首元からほんのり甘い香り。杏奈が顔を寄せて「似合ってる♡」と耳元で囁いた瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
次はふわり。
「れーじくんには~、これ~♡」
大きな箱から出てきたのは、手作りのジンジャークッキー詰め合わせ。
クッキーひとつひとつに水色、桃色、黄色のアイシングで「れーじくん♡」の文字。
「ひとくち目は“わたしから食べさせるの”ルールねぇ~♡」
あーん、と差し出された瞬間、口に広がる甘さとスパイス。ふわりの笑顔も一緒に溶けていった。
最後は鈴音。
「レージ君には……これを」
小さな箱を差し出され、開けると黄色い星型のキーホルダー。
「毎日、レージ君の鞄に“鈴音マーク”を付けていただきます」
「これ、ハンドメイドか?」
「はい。夜なべしました」
その一言で、胸がじんわり熱くなる。
「さ、感想とキス、義務だからね♡」
杏奈がニヤリ。
「ど、どういう順番で……」
「「「同時♡」」」
はい、カオス。
右頬に杏奈、左頬にふわり、額に鈴音。三連撃。
「俺、サンタじゃなくてトナカイ役じゃないのか!?」
「トナカイは王様を運ぶんだよ♡」「えへへ~♡」「その役目も似合います」
三人三様の返しで、俺の心臓は完全に赤鼻状態。
「じゃ、プレゼント交換も終わったし……次は“正室・杏奈ターン”で行きますっ♡」
杏奈がすっと一歩前に出て、サンタ衣装の裾を軽く持ち上げる。まるで舞台の幕開けみたいに。
「れー君、こっち向いて♡」
不意に手を取られて、ツリーの真ん前に座らされる俺。後ろでオーナメントがきらきら揺れてるのが、なんだかやたらと舞台っぽい。
「今日の杏奈サンタはね、“おもてなし特化型”だよ。王様を甘やかすのがメイン任務♡」
言うやいなや、肩にかけていたマントをばさっと広げて俺に被せてくる。温かい。……いや、杏奈の体温ごと来てる。
「はい、これでれー君は杏奈サンタの“プレゼント”になっちゃった♡」
「俺がプレゼントかよ」
「当たり前でしょ? 世界一大事なやつをラッピングしないでどうするの♡」
ニヤッと笑う顔が、もう完全に“独占モード”だ。
マフラーを直してくれたり、帽子をちょこんと被せ直してくれたり。ひとつひとつの仕草が妙に近い。
耳元で「似合ってる♡」って囁かれるたびに、反射的に息が詰まる。
「れー君、言っとくけど――今夜の杏奈は“サンタじゃなくて恋人”だからね」
真正面からそう言われて、心臓の鼓動が一拍飛んだ。
「……分かった。じゃあ、彼氏として、ちゃんと受け取る」
自分でも驚くくらい素直な声が出た。杏奈が一瞬きょとんとしたあと、すぐに頬を赤くして笑った。
「そういうとこ、ずるいんだよね……♡」
そして、不意打ちみたいに軽いキスが頬に落ちる。
「これで“正室ターン”完了♡」
照明が反射して、杏奈の瞳がクリスマスツリーよりもきらきらしていた。
「つぎはわたしの番だよぉ~♡」
ふわりが手をひらひらさせて前に出てくる。サンタドレスはふんわりした桃色アレンジ。スカートが揺れるたびに、リボンがほわっと踊って見える。
「れーじくん、はい、こっち~」
ぽふっと膝の上にミニクッションを置いて、その上から俺を座らせる形になる。……逆じゃない? ってツッコミかけたけど、柔らかい膝枕に頭を誘導された瞬間、反射で力が抜けた。
「今日はね、“サンタさんのひざまくらケア”だよ♡」
195センチの長い腕がふわっと伸びて、毛布ごと俺を包み込む。
「よしよし~……れーじくん、えらいねぇ。ここまでいっぱい頑張ったねぇ~」
お決まりの“ふわり手”。背中を二拍子でぽん、ぽん。ほんのり甘い匂いが混ざって、眠気と安心が同時に押し寄せてくる。
「サンタさんからの特別サービス~。れーじくん、ほっぺに“あまあま印”つけちゃうね♡」
ぴとっと頬に軽いキス。声のトーンはいつもよりさらに低めで、心地よく耳に響く。
「えへへ……ちょっと赤くなったぁ。れーじくん、すぐ顔に出るから、可愛いんだよねぇ~♡」
手元ではキャンディの包み紙を器用に開けて、一粒を口に運んでくれる。
「はい、あーん……。ん、甘い? わたしの“あーん”の方が、もっと甘いけどねぇ~♡」
冗談っぽく笑って、指先で口元を拭ってくれる。その仕草までやさしくて、完全に骨抜きにされる。
「ふわりサンタの任務はね、“安心ゲージ満タンにすること”だから。……ほら、もう、眠そうなお顔してるよぉ~♡」
俺の髪をゆるく梳きながら、ふわりの指先がずっと優しく動いてる。
そのまま視界の端でツリーの光がゆらめいて、ふわりの笑顔と混ざって――まるで夢の中に半分入り込んでいるみたいだった。
「レージ君。次は……鈴音の番です」
控えめに手を挙げた鈴音。サンタ衣装もきっちり着こなしていて、胸元のリボンも寸分の乱れなし。真面目さが衣装にも出るんだなって思う。
「任務:“特別警護”。……レージ君を一晩、徹底的に守ります」
そう宣言すると、俺の隣にぴたりと座り、肩から毛布を丁寧に掛けてくれる。布の端をしっかり整える仕草まで、まるで本物のサンタが届け物を置くときみたいに几帳面だ。
「レージ君。……目を閉じてください」
言われるままに従うと、ひやりとした指先が額をそっと撫でる。熱がないか確かめるみたいに慎重な動き。
「大丈夫そうです。……よかった」
吐息混じりの小声。安堵の色が濃い。
次に、鈴音は小さな包みを差し出してきた。
「これ……鈴音からの、プレゼントです」
中には革製のしおり。表面に細い金糸で“王宮”の文字が刺繍されている。
「本を読むとき、これを挟めば……いつでも鈴音の“ページ”を思い出せます」
真っ直ぐな視線でそう言うから、胸がじんと熱くなる。
「ありがとう。すげぇ嬉しい」
言った瞬間、鈴音の耳がほんのり赤くなる。
「……では、ご褒美として。王宮規定、“口付けの儀式”を申請します」
真剣な顔のまま俺の頬へ、小さく触れるだけのキス。けれどその短い一瞬が、他のどんな長い言葉よりも真剣で、重たく響く。
「レージ君……。来年も、ずっとそばにいます。だから……安心してください」
その誓いに、俺は無意識で彼女の手を握り返していた。
「――次は私だよ♡」
杏奈がサンタ帽をちょっと斜めにかぶり直して、俺の正面にすっと来る。
「れーじくん~、サンタは一人じゃないよぉ? 三人そろって“トリプルサンタ”なの~♡」
ふわりは大袋を抱えたポーズで、後ろからにゅっと現れる。
「レージ君。本日の“王宮任務”は……三人同時進行です!」
鈴音が眼鏡を軽く押し上げるみたいに真剣な顔で宣言。
気づけばソファの上で俺はすっかり包囲されていた。左右から杏奈と鈴音、背後からふわり。三色サンタが、もう完全に息ぴったり。
「メリークリスマス♡」
「めりくり~♡」
「……聖夜任務、開始!」
三方向から同時に、ほっぺやら額やらに軽いキス。ぱすぱすぱすっと音が重なって、思わず変な声が出る。
「うわ、待て待てっ……!」
「待ちませ~ん♡」「強行突破です♡」「実行部隊です!」
さらに、杏奈は俺の手を取りながら、
「プレゼント、開けて♡ 中身は――“私からのだいすき”。限定品だよ」
ふわりは肩越しに、
「わたしのはね、“ぎゅー券”。発動期限は、今すぐ♡」
鈴音は膝の上にちょこんと置いた小包を差し出して、
「……“約束の時間”。来年も、再来年も、一緒に過ごしてください」
三つ同時に差し出されるプレゼント。気持ちの重みが、胸の真ん中を温かく埋めていく。
「……全部、大事にする」
それしか言えなかった。けど三人とも「♡」の形で笑ってくれる。
そして最後は、杏奈の音頭で「聖夜スペシャル」。
「せーの――」
「「「だいすき!!」」」
三人同時の“だいすき”の声。心臓がまた律儀に大きく跳ねて、俺は笑うしかなかった。




