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21回目 その3

「では、本日の正室衣装を発表しまーす♡」

 杏奈がデカい鞄からドサッと袋を取り出す。中から出てきたのは、白地に水色・桃色・黄色のリボンがついた……まさかの三人おそろいエプロン。


「え、なんでそんなもん持ってんだ」

 俺が突っ込むと、杏奈が自慢げに胸を張る。

「れー君のために決まってるじゃん♡ “王様デート・家庭科実習版”!」


「ふわぁ~♡ おそろいって、いいねぇ~。れーじくんも一緒に着よ~?」

 ふわりは195センチの長身で、ひょいっと俺の頭にエプロンをかけてくる。肩紐がずり落ちて慌てる俺を見て、ふわりは「似合ってる~♡」と満足げ。


「レージ君、結び目が乱れてます。……直しますね」

 鈴音は小柄な身体で背伸びしながら俺の背中の紐をきゅっ。近い。顔が近すぎる。頬にかかるポニテがこそばゆくて、思わず背筋が固まる。

「う、動くと結べません!」

「いや、結べてるから……っ」


「れー君、照れてる照れてる♡」

 杏奈が後ろから覗き込む。目がにやにやしてて、完全に狙って楽しんでやがる。


 エプロン姿の三人は、それぞれ性格丸出しだった。

 杏奈は水色リボンの「小悪魔お嫁さん」モードで、やたら「はい、あーん♡」を強制してくる。

 ふわりは桃色リボンの「ふわふわ癒やしママ」モードで、俺の頬をぺたぺた撫でながら「がんばったご褒美ねぇ~♡」とトーンを落とす。

 鈴音は黄色リボンの「真面目なお世話係」モードで、タオルや水差しをきっちり並べて「王様、整いました」と報告する。


 ……統一感ゼロ。でも、三人並ぶとやけにまとまって見えるのはずるい。


「じゃあ実習開始~♡」

 杏奈がフライパンを掲げる。

「なに作るんだよ」

「決まってるでしょ。“王様のお夜食♡”」


 ふわりは巨大サイズのボウルでホットケーキのタネをぐるぐる。

 鈴音は分量をきっちり計測して「計画通りです」と頷く。

 俺は……なぜかエプロン姿でお玉を渡され、混ぜる役。


「れー君、もっと腰入れて♡」

「リズムだよ、リズム~♡」

「もう少し右回しです」

 三人から同時に指導が飛んでくる。完全に主夫体験。


「これ、俺が王様ゲームしてるんだよな……?」

「してるよ♡ だって王様が混ぜてるんだもん♪」

 杏奈の即答。……論理が崩壊してるけど、妙に正しい気がして悔しい。


 ここでふわりが突然、俺の背後からぎゅーっと抱きついてきた。

「れーじくん、がんばって混ぜたら、“甘やかしぎゅ~”ねぇ~♡」

「ちょっ……重っ……!」

「えへへ、エプロンが擦れてくすぐったいでしょ~?」


 俺の前に回り込んだ杏奈が、いたずらな目をして、口をすぼめる。

「じゃあ私は“味見”ね。れー君の手、ぺろっ♡」

「はぁ!?」

「だって、生地ちょっとついたんだもん♪」

 指先をぺろっとやられて、心臓が爆発しかける。


「杏奈ちゃん、ずるいです!」

 鈴音まで参戦して、俺の手をアルコールティッシュで拭きながら、ほんのり頬を赤らめて「衛生的に、これで……安全です♡」


 甘い匂いが部屋いっぱいに広がる。焼き色はこんがり、ふわふわホットケーキの完成。テーブルの上に山と積まれた瞬間、三人の目が同時にキラッと光った。……いや、その光、絶対「れー君に食べさせる権利を争う」やつだろ。


「はいはいっ! “第一口権”は正室の杏奈がもらいます♡」

 杏奈がすかさずフォークを突き立て、クリームをたっぷり乗せて俺の口元へ。

「れー君、あ~ん♡」

「ま、待て待て……っ」

「王様は口開けるだけでいいのっ♡」

 ……抵抗虚しく、ふわっとした甘さと杏奈の笑顔で、一口目を強制的に飲み込む羽目になる。心拍数はすでにマックス。


「次はわたしだよ~。れーじくん、ほら、“ふわりの特大あ~ん”ねぇ~♡」

 ふわりは普通の倍サイズの一切れをフォークで突き刺して……無理やり口元に。

「おい、でか……っ!?」

「れーじくんはいっぱい食べた方が元気出るから~♡」

 ――もぐもぐ。……確かにうまい。うまいけど窒息しかける。


「お二人とも独占禁止です。……三口目は鈴音が差し上げます」

 鈴音は一番小さく切った一口を、慎重に俺の唇に添える。

「レージ君、どうぞ」

 その丁寧さに救われる……と思ったら、頬が真っ赤でぷるぷるしてやがる。

「な、なに照れてんだよ」

「し、真剣ですから!」

 ――はい、俺の鼓動は結局また上がる。


 すると突然杏奈が、残った生クリームを指ですくってぺろっと舐める。

「ん~♡ やっぱりクリームは特別♡」

 それを見たふわりが、にやっと笑って――

「じゃあ、れーじくんのほっぺにも“トッピング”ねぇ~♡」

 指先にちょこんとクリームを乗せ、俺の頬にちょん。

「ちょっ……!」

「はい、ふわりがぺろ~♡」

「~~~~っ!」 心臓が飛び出るかと思った。


「ふ、ふわわん……! ずるいです!」

 鈴音が真っ赤なまま、急に俺の指先をつかんで――。

「レージ君の……ここに、ついてましたので」

 そのまま、ちゅ、と舐め取った。

「っ!?」

「……甘いです」

 こっちが限界だっつーの。


「ふふ~ん♡ 結論。“王様はエプロンごと甘やかされる運命”!」

 杏奈が勝ち誇ったように笑い、三人で両脇と背中からじわじわ包囲してくる。

「れーじくん、ほら、まだお皿残ってるよぉ~♡」

「レージ君、片付けも“実習の一環”ですから」

「ちょっと待て……三人同時は反則だろ!」

「「「反則こそ、王宮ルール♡♡♡」」」


 ……エプロンで迫られながら、俺の鼓動は料理以上に熱を帯びていた。


 食卓の上は戦場の跡。皿、フォーク、ボウル、ホットケーキのカケラ。どれも甘い香りをまとったまま散らかってる。

「じゃ、後片付けターイム♡」

 杏奈が両手をパンッと叩く。……声が妙にウキウキ。嫌な予感しかしない。


「れーじくん、エプロン姿のまま~。お片付けも、王宮イベントにするんだよ~♡」

 ふわりが俺の背中にふわっと手を添えてシンクに誘導。


「レージ君、スポンジをどうぞ。今日は“三人による王様洗浄サポート”です」

 鈴音が真面目顔で差し出してくるけど、その頬はほんのり赤い。……絶対楽しんでる。


 シンク前で皿を手に取った瞬間――

「泡は任せてっ♡」と杏奈が俺の腕にピトッと張り付いて、泡だらけのスポンジを一緒に握ってくる。

「ちょ、近い近い!」

「近い方が効率いいでしょ~♡」

 ……いや、泡が飛ぶから。お前の笑顔まで泡立ってる気がするんだが。


「ふふ~ん♡ じゃあわたしは“すすぎ担当”ねぇ~」

 ふわりが大きな手で蛇口をひねる。水がシャーッと流れて、俺の腕にも跳ねる。

「冷たっ」

「えへへ~♡ じゃあ“あっため”してあげる~」

 ぴとっと肩ごと密着。……ちょ、体温でカバーって何その理屈!


「レージ君、拭き取り係は鈴音に任せてください」

 そう言ってタオルを構える鈴音。けど――

「……その、ほっぺにも水が」

「え?」

 タオルじゃなく、鈴音の指がそっと頬に触れて。

「ふきと……ふきとれません。……ぺろ」

「なっ……!」

「……甘いです♡」

 こっちが溶けるわ!


 皿を片付けるたびに三人同時に寄ってきて、距離が縮む。

「れー君、次はこの大皿一緒に~♡」

「れーじくん、泡いっぱい~♡」

「レージ君、水気チェックします♡」

 ……三方向から同時攻撃。俺の集中ゲージは、もうマイナスだ。


 極めつけは杏奈。俺の背中に回って、泡のついた手で「れー君、えいっ♡」と頬にスタンプ。

「冷たい! 泡ついたって!」

「じゃあ鈴音、舐めちゃえば?♡」

「なっ……なにを言って……っ!」

 顔真っ赤な鈴音が本気で迷ってる間に、ふわりが「じゃ、わたしが~♡」とぺろり。

「~~~~っ!」 心臓が壊れるかと思った。


「お片付け完了~♡」

 杏奈が大きく伸びをして、ふわりが満足そうにうなずき、鈴音が小さくメモを取る。

「レージ君、本日の“お片付け王宮記録”……“甘さ+泡立ち+舐め攻撃”。合計♡三倍」

「そんな記録残すな!!」

「保存完了~♡」

 ふわりが俺の肩にぽんと頭を乗せて、杏奈は「れー君の反応、最高~♡」とにやにや。

 鈴音だけは真顔で、「レージ君、片付けは日常訓練です。……ただし、今日の特典は例外です」とか言ってる。


 俺はもう、力が抜けて笑うしかなかった。

 甘すぎる後片付けって、世界で俺たちだけだろうな。





~ゲーム21回目 終了~

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