20回目 その1
教室を出るとき、杏奈が俺の腕を引いてきた。
「れー君、今日は“記念すべき20回目”なんだよ? どうするか、もう考えてあるよね♡」
にやっと笑う顔が、もう完全に“正室宣言”だ。
ふわりは後ろから、のんびり声を足す。
「れーじくん、わたし達もねぇ~、“20回目はちょっと特別にしよ”って打ち合わせ済みなんだぁ~♡」
……おい、打ち合わせって何。王様に内緒で何進めてんの。
「レージ君、ご安心ください。危険行為は排除済み。テーマは“記念祭”。全力でおもてなしします」
鈴音は真顔で保証を入れてきた。逆に怖いんだが。
3人の視線が、廊下の真ん中でばっちりそろう。
あ、これ逃げられないやつだ。
夜。俺の部屋に揃った三人は、やけに準備万端だった。
色とりどりの風船、手作りのガーランド、テーブルには甘い匂いのするティーセット。
「王様れーじ君♡ 20回記念、スペシャル王宮へようこそ~!」
杏奈が手を広げて、部屋全体を見せびらかす。
ふわりはでっかいケーキの箱をドン。
「20回はケーキつき~♡ スポンジ三段重ね、クリーム増し増しだよぉ~」
鈴音は割り箸を丁寧に差し出す。
「正室決定ルールは通常通り。ただし今回は“特別課題”が追加されます」
俺の心臓がドクンと鳴る。
――20回目のゲーム、もう始まってる。
「「「20回おめでとー♡♡♡」」」
部屋に入った瞬間、三方向から同時に抱きつかれる。
右から杏奈、左から鈴音、背中からふわり。
……え、ちょ、開始一秒でフルコンボ!?
「れー君、ここまでよく頑張りました♡ 正室の私から、ご褒美ちゅー♡」
杏奈は目を閉じかけながら、顔をぐいっと近づけてくる。
「レージくん、ケーキよりも甘いのを、どうぞ~♡」
ふわりは背中からほわほわ包み込み、髪の先が首筋にくすぐったく触れる。
「レージ君、“記録的回数”を達成しました。ですので――公式表彰式として、鈴音からも」
真顔で言いながら、耳元へさらりと息をかける鈴音。
……おい、公式って何だ。いや、それより距離感。
「わ、待て待て! 正室決定してないのに、三人同時はルール違反だろ!」
「記念回だから、特別措置♡」
「20回目は“フリースタイル”なの~♡」
「ルール改正は正室議会で可決済みです」
三人三様に言い切られて、俺はもう逃げ場なし。
頬に、唇に、髪に、次々と小さな♡が飛んでくる。
心臓が花火大会。頭の中は混線。
「……お、俺、これ耐えられるのか?」
「耐えなくていいの♡」
「受け止めればいいの~♡」
「そして“王様は幸せ”と、鈴音に記録してください」
結論。
20回目のゲーム、スタート地点からカオス全開。
「じゃじゃーんっ♡」
杏奈がリュックから取り出したのは、スマホと……まさかのインスタントカメラ。
「れー君、今日の正室ターンは――《王宮記念写真館♡》だよっ!」
言いながら俺の肩をぐいっと掴んで、椅子に座らせる。
「……記念写真館?」
「そ♡ 20回目のアニバーサリーだからね。れー君の可愛いとカッコいい、ぜーんぶ撮りおさめて、アルバムにするの!」
優越感が隠せない笑顔。目尻がきゅっと跳ねてる。
俺が返事する前にもうシャッター音。カシャッ。
「おい、まだ心の準備が……」
「むしろ油断してる顔が撮りたかったの♡」
……完全に俺の扱い、分かってるな。
「はい次、“王様ポーズ”!」
杏奈が両手を頭上に三角。俺もつられて真似する。カシャッ。
「今度は“おやつ待ってる顔”!」
って言われても困るんだが……とりあえずフォークを持つフリ。カシャッ。
「れー君、“杏奈が一番♡”って顔!」
「……どうやってやるんだよ」
「はいチーズ~♡」カシャッ。
絶対わざとだろ。俺の赤面顔、またコレクション入りか。
「おっと次はツーショットの時間です!」
気づけば杏奈が俺の膝にひょいっと乗って、スマホをぐいっと伸ばす。
「れー君、笑って♡」
「いや近い近い!」
「近いほうが甘く写るんだよ~♡ はい、カシャッ!」
写真に残るのは、完全にカップルの距離感。
杏奈は満足げに「保存保存~♡」とスワイプ連打。
俺は、もう言葉が出ない。
「はい次は、れー君がカメラマンターン!」
「は?」
「杏奈の“可愛いとこ”、撮って♡ どの角度でも可愛いけど?」
挑発的にウインク。
ほんと自信満々……いや、実際カメラ越しに見るとマジで可愛いから困るんだよな。
「笑顔ひとつ、追加ね」
「真剣な顔も撮っとけ」
「こっち、れー君を見つめる顔♡」
パシャ、パシャ。
シャッター押すたびに、俺の心臓まで記録されてる気がする。
「……最後は、ふたりでね」
杏奈がもう一度俺の横にぴとっと寄り、インスタントカメラを構える。
「せーの、“だいすき”の顔♡」
カシャッ。
白いフィルムが吐き出されて、じわじわ像が浮かんでくる。
隣で杏奈がにやっと笑った。
「現像禁止♡ これは私だけの宝物だから」
俺は――それ以上何も言えなかった。
ただ横顔を見ながら、また心臓がドクンと跳ねる。
この写真よりも、今の杏奈の笑顔のほうがずっと眩しいって分かってるから。




