幕間
朝の教室に足を踏み入れた瞬間から、なんか視線が集まってる気がする。
――いや、気のせいじゃない。
「おい、昨日さ……土峰って、すげぇ噂立ってなかったか?」
「王様ゲームの続きってマジなのか……?」
「マジだとしたら……羨ましすぎて死ぬ」
廊下からもクラスからも、ひそひそ声が飛んでくる。
……やめてくれ。俺はただの一般男子高校生、のはずなんだけどな。
「れー君、おっはよ~♡」
元気すぎる声と一緒に、いきなり俺の机にどさっと鞄が置かれる。
杏奈だ。水色のヘアピンが今日もピカッと光ってる。
「昨日の王様ゲーム……れー君、私のエプロン姿、どうだった?♡」
「おま、学校でその話題は……っ」
「ふふん♪ 顔赤い。昨日も今日も、れー君って分かりやすいな~♡」
周りの男子共が「マジでうらやまっ……!」と呻いてるのが耳に刺さる。
「れーじくん~、おはよ~♡」
ふわりは桃色シュシュで髪をまとめて、のんびり俺の隣に腰を下ろす。
「昨日の片付け……れーじくん、見守ってくれてありがとねぇ~♡ すっごく、安心したよ~」
「いや、俺、何もしてないぞ」
「“いるだけで安心”っていうのが、れーじくんの才能だよ~♡」
そう言って、俺の肩にこてん。
……おい、朝からくっつくな。男子達が“ぎゃー”って顔でこっち見てるから!
「レージ君。昨日の評価、まだ途中です」
真面目な顔で現れた鈴音は、黄色いノートをぱたんと開く。
「“お片付け監督”の項目に、追記をしました。昨日は満点でしたが――」
「昨日の話題やめろ! 教室で言うな!」
「……では、続きは昼休みに“報告会”を」
「やめろおおお!」
隣のクラスからも「土峰……何者なんだ」とか声が飛んできてる。
昼休み。三人に机を囲まれて弁当タイム。
ふわりの弁当は安定の豪華、杏奈はフルーツ担当、鈴音はきっちり栄養配分を確認済み。
「はい、れー君。昨日はエプロンだったから、今日は“お弁当あーん”ね♡」杏奈。
「れーじくん、デザートは苺だよ~♡ ほら、あーん」ふわり。
「レージ君、タンパク質も摂ってください。唐揚げ、あーんです」鈴音。
――三方向からのあーん攻撃。俺の口は一つしかない。
クラス中から「うおおお!」「爆発しろおお!」と怒号が飛ぶ。
「れー君ってば、人気者~♡」杏奈が得意げに笑って。
「でも、“真ん中”は譲らないんだよねぇ~♡」ふわりがにっこりして。
「レージ君、安心してください。“正室交代制”は引き続き有効ですから」鈴音が真顔で釘を刺す。
俺の高校生活……もう完全に“絶対俺だけ王様学園編”に突入している。
◇◇◇
また数日後の話……。
教室に入った瞬間、妙な空気が流れていた。
昨日の「エプロン誘惑ゲーム」の余韻が、どこからどう漏れたのか、クラス全体に伝染している。
「……あれって本当なの?」
「杏奈ちゃん達が“正室交代制”とか言ってるって……」
「土峰、王様どころか……もう校内の大奥じゃん!」
いや、頼むから“校内大奥”はやめてくれ。言い方!
「おーい、静かにしろー。出席取るぞ」
担任の先生が入ってきた瞬間、クラスの視線が俺に集まる。
先生は怪訝そうに首を傾げてから――
「……土峰、最近やけに表情柔らかいな? 青春か?」
「ちょっ……先生まで!?」
「いいことだぞー。まぁ、周りを巻き込みすぎんなよ?」
先生、余計な一言でさらに火に油です。
昼休み。購買から戻ると、廊下でバスケ部の後輩達に捕まる。
「先輩、最近やけにキラキラしてません?」
「やっぱり女の子に囲まれてると違うんスかね……」
「ていうか“王様”って呼ばれてるって噂、本当っスか?」
「……お前ら練習しろ」
返した俺の声が、ちょっと裏返ってしまったのを後輩達は見逃さなかった。
「図星だーーー!」
大騒ぎ。……やっぱり練習しろ。
昼休み。三人娘に机を囲まれ、再び「あーん」攻撃を受ける俺。
今日は昨日の流れを引きずってか、さらに過激に。
「れー君、今日は“お弁当エプロン”♡」杏奈。
「れーじくん~、わたしは“お口拭きサービス”♡」ふわり。
「レージ君、“箸の管理者”は鈴音です」鈴音。
結果、俺の口元を三人が同時に狙うという前代未聞の事態に。
教室中の男子が机を叩いて悶絶していた。
放課後。帰りのHRで先生がぽつり。
「文化祭も終わったし、いよいよ“最後の高校生活”が深まってくるぞ。後悔のないようにな」
その言葉が胸にじわっと刺さった。
俺は三人と視線を交わす。
――文化祭も、エプロンゲームも、バスケも。
どれも後悔しないようにしたい。
杏奈は「うん♡」って微笑んで、ふわりは「ねぇ~♡」と頷き、鈴音は「承知しました」ときりっと返す。
俺の“最後の学園ラブコメ王宮”は、まだまだ終わらない。




