19回目 その2
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
恒例のコールで幕を開けた19回目。
……心臓が跳ね上がるのが、自分でも分かる。もう慣れてるはずなのに、耳に響く三人の声はまるで魔法の合図みたいで、反射的に背筋が熱を帯びる。頬までじんじんする。
しかもその後すぐ襲いかかってきた“キスの嵐”で、俺のHPはすでにレッドゾーン。頬も耳も額も、甘い音でいっぱいにされて、まともな思考なんてできやしない。
次のゲームで割り箸を引く。赤印は――杏奈。
ぱっと弾ける笑顔。嫌な予感しかしない。
「やったぁ♡ じゃあ今日はこれ! “水着エプロンターン”いきまーす♡」
杏奈がカバンをがさごそ漁り、取り出したのは青いチェックのフリル付きエプロン。広げた瞬間、下からちらりと覗いたのは――水色のビキニ。
心臓が変な音を立てる。ほんとに“ドンッ”と鳴った。喉が鳴り、言葉が詰まる。
「れー君、どう? 可愛いでしょ♡」
シャッと腰で結び、杏奈がくるりと回ってポーズ。水色のリボンが腰骨の上でふわりと揺れて、くびれとおへそが、冗談抜きで“視線のど真ん中”に突き刺さる。
「……っ、ヤバい」
言葉が漏れるのが精一杯。視線を逸らそうとした瞬間、杏奈がにやりと笑う。
「ほら、れー君、目そらしちゃダメ♡ ちゃんと見てよ♡」
上目づかいで射抜かれて、俺は逃げ場を失う。心臓はさらに加速。
「れーじくん、ずる~い。わたしもやる~♡」
ふわりが桃色のパステルエプロンを羽織る。その下からのぞいたのはピンクのワンピース型水着。195センチの身体にひらひらフリル、アンバランスのはずなのに、舞台衣装みたいに映える。
お玉を手に「ほら、料理してるみたいでしょ~♡」と笑う姿に、俺の頬も緩む。けど胸は締めつけられるみたいに熱い。
「……レージ君。鈴音も、参加します!」
鈴音は黄色の小花柄エプロンを結ぶ。リボンをきゅっと結んだ拍子に、ちらっと見えたのは元気なビタミンカラーのスポーツ水着。
「“ちびエプロンシェフ”って呼ばないでくださいね。鈴音、全力で誘惑してます!」
耳まで真っ赤に染めて言い切る姿が、逆に心臓に直撃。気づけば、俺は一瞬でノックアウトされていた。
「王様れーじ君♡ 本日の命令は“私達の料理を味見すること”!」
杏奈が胸を張って宣言。
「はい~♡ まずはふわり特製の“あーん”から~」
「続いて鈴音の“こっそりあーん”です!」
右から、左から、前から。スプーンやフォークが同時に迫ってくる。口がいくつあっても足りない。
「ちょ、待っ――」
「あむ♡」
「はい、あむです♡」
「れーじくん、こっちも~♡」
甘い声に逆らえず、俺は完全にされるがまま。熱い頬にスプーンの冷たさが触れ、唇の中に甘味が転がり込むたび、胸の奥が跳ねる。視界は三色の水着エプロンで埋まり、もう呼吸が追いつかない。
そして極めつけ。杏奈がにじり寄り、俺の膝にちょこんと座る。腰の体温がじかに伝わってきて、背骨が痺れる。
「れー君、“王様ご褒美キス”は……誰にする?」
その瞬間、左右からふわりと鈴音も膝に密着してくる。
「わたしだよ~♡」
「鈴音です!」
三方向から押し寄せる柔らかさと甘い吐息。息が詰まる。視線をどこに向けても三人の顔。笑顔、上目づかい、真剣な瞳。全部が刺さる。
「だ、誰か一人なんて……選べるか!」
結局、三人同時にほっぺへキス。柔らかさと熱と音に包まれ、部屋の空気は甘さと笑いで完全に溶けた。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
再び響く掛け声と同時に、杏奈・ふわり・鈴音がばっと飛び出す。全員、水着エプロン姿。三色信号機が一斉に並ぶだけで、視界の処理能力がオーバーフローする。俺の理性ゲージはすでに危険域。
「れー君! まずは杏奈特製“フライパン・ジュッ♡”をどうぞ~!」
杏奈がフライパンを振り上げる。中身は目玉焼き。油がはねて「きゃあ♡」と跳ね上がる。揺れた拍子に腰のリボンが解け、水着の紐が危うくずれかけ――
「お、おいっ!」
「れー君見た!? セクハラ禁止だよ♡」
「いや違うだろ!? 今のは物理的に見えるんだって!」
「れーじくんは~、大鍋シチューだよ~♡」
ふわりが大鍋を持ち上げる。……絵面が強すぎる。195センチ+大鍋=もはや人間兵器。
「重っ……バランス崩れる~」
ぐらり。
「わわわっ!?」
鍋が傾いた瞬間、鈴音が全力で支える。
「レージ君! 左に避けてください!」
「無理! 俺、もう動けねぇ!」
結果――俺の膝の上に、ふわりがドーン!
「れーじくん、ぎゅむっ♡」
「お、おも……! でも柔らかっ!」
全身に伝わる重量と包まれる安心感。矛盾した感覚で心臓がまた跳ねる。
「レージ君! 鈴音の“おにぎり爆速あーん”で挽回します!」
鈴音が全速力で三角おにぎりを差し出す。
「はいっ! あむ!」
……速度調整失敗。口じゃなく頬に直撃。
「痛っ!」
「す、すみません! でも、ほら……おにぎりは“顔面直食べ”の新サービスです!」
「どんなサービスだよ!」
杏奈とふわりが爆笑。
「れー君、顔に米粒ついてる♡ あーもう可愛い♡」
「れーじくん、わたしが舐めとってあげよっか~♡」
「いや待て! やめろー!」
「王様れーじ君、同時に味見タイム♡」
三人がそれぞれスプーン、箸、フォークを構えて突進。
「ちょ、待て! 一人ずつ――」
「「「はい、あーん♡」」」
結果、俺の口は完全に処理落ち。頬も顎も鼻先も、食材まみれ。ケチャップ、クリーム、米粒。
「れー君、ケチャップついてる♡」
「れーじくん、ほっぺにクリーム~♡」
「レージ君、鼻に米粒です!」
俺はもはや人間キャンバス。笑いと甘さで心臓は爆発寸前。
――これ、ほんとに延長戦どころか、命の保証がない。




