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19回目 その1

「れー君、準備はいい?♡」

 杏奈が割り箸の束を掲げる。今日も赤マーク一本。


 ふわりは窓際でにこにこ。

「れーじくん、優勝したからって、王様の愛が減ったらダメなんだよぉ~♡」


 鈴音はきっちりノートを構え、ペンを走らせている。

「第19回、記録開始します。今回の議題は“王様の愛情表現強化週間”です」


 俺は苦笑い。

「いや、議題ってなんだよ。俺、会議にかけられるの?」

「そうだよ♡」杏奈がにやり。

「優勝で全国の女の子にモテモテになったれー君、王宮的には危険人物だからね?」


 心臓が跳ねる。確かに最近、校内でも廊下でも声をかけられることが増えた。

 でも――俺が一番見てるのは、目の前の三人だ。


 杏奈が割り箸をカシャッと音立てて混ぜる。

「今日のテーマは“王様のおひざ争奪戦”。王様のおひざに座れた人が正室!」


「おひざ……?」

 俺の頭に“え、膝枕じゃなくて?”って疑問が浮かぶ。


「違うよ~♡ れーじくんのおひざに“お姫様抱っこみたいに座る”の!」

 ふわりが笑顔で言う。195センチの大きさで言われると、圧がすごい。


「レージ君。つまり、王様は“座らせ係”。王様は逆らえません」

 鈴音は真顔で補足。――俺、確実に負けるやつじゃん。


 毎度のことながらくっ付くの大好き過ぎるだろ。いや、俺も好きだけど。


 合図と同時に杏奈が勢いよく飛び込んでくる。

「れー君♡ 先着一名、いただきまーす!」

 膝にどっかり座り込み、両腕を首に回して勝ち誇り顔。


「ずるい~!」「不公平です!」

 ふわりと鈴音が同時に抗議。


「えへへ♡ これが正室の特権ってやつだよ~」

 杏奈が挑発するから、場の空気が一気にカオスへ。


 ふわりがのっそり近づいてくる。

「じゃあわたし、後ろから“おひざごと抱っこ”するねぇ~♡」

 鈴音は反対側から腕を組む。

「では鈴音は“二人まとめて補足”。逃げ場はありません」


 俺、両膝ごと持ってかれて、身動き取れず。

(いやいやいや! これ、ゲームなのか? 完全に俺いじめじゃないか!?)


 杏奈は笑顔で宣言する。

「はい、王様おひざ取り合戦、三人同時戦闘モード突入です♡」


「ふふ~ん♡ れー君のおひざは、やっぱり杏奈のものだよね~」

 杏奈が俺の膝の上にすとんと腰を下ろす。黒髪のハーフテールがふわっと揺れて、俺の視界を独り占め。


 両腕を俺の首に絡ませて、わざと顔を近づけてくる。鼻先が触れそうな距離。

「ねぇ、れー君♡ 全国優勝のご褒美、ちゃんともらってないでしょ? だから今こうして――正室がしっかり確保してあげるの♡」


 心臓が勝手にバクバクして、息がうまくできない。

(おいおい……至近距離すぎだろ。視線そらすのも無理な距離感じゃねぇか……!)


 杏奈は俺の頬に片手を添えて、にやっと笑う。

「ほら♡ ふわりちゃんも鈴音もこっち見てるけど、今は“順番待ち”だからね♪ れー君、独占される気分、どう?」


「……いや、悪くない……」

 思わず口に出したら、杏奈がさらに勝ち誇った笑顔。

「でしょ~♡ ほら見て、れー君。私のほうが一番近いし、一番先だし、一番“おひざにフィット”してるんだよ♡」


 確かに、膝の上の重みが妙にしっくりきて、下手に動くこともできない。杏奈の体温がダイレクトに伝わってきて、俺の呼吸はますます乱れる。


「れー君、顔赤いよ~♡ ねぇ、“正室は杏奈で決まり”って言って?」

 わざと耳元で囁かれる。ぞくっとする音の近さに、思考が飛びそうになる。


(くそ……杏奈、ほんとこういう時は攻めまくりだな……!)


 杏奈は満足そうに、俺の胸に頭を預けて小さく笑った。

「うん♡ やっぱりこうやって独占するのが、一番安心するんだ。れー君はね、ぜ~んぶの女の子にモテてもいいけど……最後に戻る場所は、絶対ここ♡」


 俺は小さく頷いて、彼女の肩を抱き返した。

(……参ったな。こう言われちまったら、反論できるはずねぇだろ)


「れーじくん~♡ ずるいよ、杏奈ちゃんだけ♡」

 ふわりが、長身で影を落としながらにゅっと迫ってくる。195センチの巨体が俺と杏奈をすっぽり包むみたいに覆いかぶさってきて、杏奈が慌てて振り向く。


「ちょ、ちょっとふわりちゃん!? これは“杏奈ターン”なんだから!」

「でもねぇ~♡ れーじくんのお顔、今すっごく甘い顔してるから~。わたしも“ちゅー♡”したいなぁ~♡」


 言うが早いか、ふわりの唇が俺の額に軽く触れる。

「んちゅ~♡」

 柔らかい音。大きな掌が俺の背中にそっと添えられて、安心感が一気に広がる。


「れーじくん、もう一回♡ んちゅ♡」

 今度は頬。さらに頬。頬を挟み撃ちされるみたいに連続でキスされて、杏奈が真っ赤になって叫ぶ。


「ちょ、やりすぎだから! 正室の席、侵略禁止っ!」

「でも~♡ わたしも“だいすき”って伝えたいの~♡」


 そこで第三勢力、鈴音が静かに立ち上がった。

「レージ君。鈴音も黙っていられません!」

 茶色のポニテを揺らして、真っ直ぐ俺の左側にぴたりと密着。小さな身体なのに押しの強さは誰よりも鋭い。


「むっ。鈴音まで!?」

「はい。杏奈ちゃんのターンであっても、“王様は皆のもの”ですから」

 そう言って、鈴音は俺の手をぎゅっと握り――そのまま指先に小さく口づけた。

「ちゅ♡」


「~~~~っっ!」

 杏奈の悲鳴にも似た声。

「もう我慢ならない! れー君、こっち向いて♡」

 ぐいっと俺の顎を引き寄せて、杏奈が正面から強引にキスを奪う。

「んちゅぅぅぅぅ~~~♡♡」


 右からふわりが頬を舐めるみたいに「ちゅ♡」、左では鈴音が唇の端を「んちゅ♡」。

 三方向から同時にキス攻撃を受けて、俺はもう耐えきれない。


(おいおいおい、どこ見ても唇か肌か……逃げ道ゼロじゃねぇか! っていうか心臓もたないっ……!)


 杏奈が息を切らしながらも、勝ち誇った笑みで言う。

「ほら♡ れー君、言ってよ。“みんな可愛い”って♡♡♡」

「そーだよぉ~♡ れーじくん、わたし達三人のこと、ちゃーんと可愛いって言って~♡」

「レージ君……“全員、可愛い”って宣言してください」


 三方向から迫る熱と視線。

 俺はもう観念して、大きく息を吐いた。

「……お前ら全員、可愛いっ!! 最高だっ!!!」


「きゃ~~♡♡♡」

「えへへぇ~♡♡♡」

「承認、ありがとうございます♡」


 杏奈が再び正面から「んちゅ♡」、ふわりが額に「ちゅ♡」、鈴音が耳元に「ん♡」。

 同時多発キスで、俺は完全に甘さの海に沈められた。



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