幕間4/5 飛べ!早く、強く、誰よりも高く
二戦目の相手は、関西のスピード重視チーム。
序盤から速攻を仕掛けてきて、正直ついていくのがやっとだった。
「っく……速ぇ!」
ドリブルで抜けることはできても、戻りが間に合わない。体力がまだ完全に戻ってないのを自覚する。足が鉛みたいに重い。
そんな時、ベンチ席の声が飛ぶ。
「れー君、ファイトっ♡」杏奈の声は、観客席のざわめきの中でも耳に届く。
「れーじくん、深呼吸して! 吐いて、吸って~♡」ふわりの手が胸を押すジェスチャーをしている。
「レージ君、リズムを一定に! 焦らなければ抜けます!」鈴音は手を叩いてテンポを刻む。
その三人の声で、不思議と視界がクリアになる。
足は重いままだけど、頭は冷えてる。相手の速攻ルートが見える。――カット。速攻の芽を潰す。
そこからは俺のターン。
ドリブルで相手を翻弄し、スリーを沈め、味方に正確なパスを通す。チーム全体のリズムが立ち上がる。
最終スコアは、10点差で勝利。
まだ余裕はないが、「勝ち切れる」感覚が確かに戻ってきた。
◇◇◇
三戦目は、東北の高さ重視チーム。俺より頭ひとつ以上あるセンターがゴロゴロ並んでいる。
リバウンド勝負は分が悪い。でも――
「小さいのに王様!」
「天井に届かない大黒柱だ!」
スタンドから聞こえてくるヤジ混じりの声。むしろ燃える。
「届かない天井なら、床から飛ぶだけだろ」ってな。
ジャンプ。
リング下で競り合う長身を飛び越え、リバウンドをもぎ取る。味方に即座にアウトレットパス。走り出す仲間の足がそろう。流れを作る。
体力は限界ギリギリ。視界が揺れる瞬間もある。
でも――
「れー君! ナイスリバウンドっ♡」
「れーじくん、もうちょっと! 水、後で絶対飲んでねぇ~♡」
「レージ君、あと5分耐えれば勝てます! 切り替えのスピードだけ意識を!」
三人の声が網の目みたいに俺を支える。
そしてチームメイトがしっかり噛み合ってくる。
俺がドライブを囮にして外へ展開すれば、後輩がスリーを決める。俺が引き付ければ、同学年の仲間が中で合わせる。
最終的には、相手の高さを走力で削り切った。
点差は僅か5。苦しい試合だったが――勝った。
◇◇◇
三戦全勝。
これでベスト8入り、本戦トーナメントへ進出決定だ。
会場アナウンスが響く。
「――高校、全国大会ベスト8進出!」
観客席の声が爆発する。
「やっぱあいつ、引退してなかったのか!」
「ちくしょう、最後に全国でぶつかりたかったぜ!」
「お前がいないと、この舞台に残った意味がないだろ!」
「聞いたぜ、復帰したって! だから俺も引退撤回したんだよ!」
敵校の選手や観客から、そんな声が飛ぶ。
嫌味も悔しさも混ざってるけど――どの声も俺を認めてる。
それがただ、嬉しかった。
コートを下りる瞬間、杏奈・ふわり・鈴音の三人がチア姿で手を振ってくる。
「れー君っ、最高だったよっ♡」
「れーじくん、すっごく格好よかったぁ~♡」
「レージ君、誇らしいです!」
胸の奥が熱くなる。
ああ、やっと――本当に、戻ってこれたんだ。
全国優勝を狙える位置に、立ってる。
◇◇◇
相手は毎年ベスト4に残る常連校。全国区の知名度があるだけに、観客席の声援も桁違いだ。
「やべぇ、土峰だ!」「ほんとに零士復帰してるじゃん!」
スタンドからは驚きと期待の入り混じった声が飛ぶ。
試合開始直後、相手は零士に徹底マークを仕掛けてきた。ダブルチーム、トリプルチームまで当たり前。
だが――今回は違う。
夏から必死に練習を積んだ仲間たちが、零士が引きつけたディフェンスを見事に利用する。
「パス!」
後輩がフリーで受け、鮮やかにスリーを沈める。
「ナイス!」
声を掛け合い、流れを掴む。
零士の中で、確信が芽生えていた。
(もう一人じゃない。俺が引きつければ、こいつらが決める)
点差は最後まで開かず、まさに一進一退。
だが最終Q残り10秒、零士はギリギリで抜け出し、スリーを放つ。
――ネットを揺らす音が響く。
歓声が爆発し、準々決勝突破を決めた。
観客席で杏奈・ふわり・鈴音が涙を浮かべながら跳びはねる。
「れー君、最高っ♡」
「れーじくん、鳥肌立ったぁ~♡」
「レージ君、記録します、“決勝級スリー”です!」
相手は関東の強豪。高さと走力を兼ね備えたチーム。
前半は互角だが、後半から体力差が露骨に出始める。
視界が揺れる、足が重い。だが――ベンチからの声が届く。
「れー君! 私達がついてるよっ♡」杏奈が全力で手を振る。
「れーじくん、立て直そ~! 深呼吸~♡」ふわりの両腕が大きな円を描く。
「レージ君、残り8分! 全てを賭ければ勝てます!」鈴音の声が鋭く突き抜ける。
仲間も必死だった。俺が倒れそうになるたび、スクリーンで守ってくれる。リバウンドに飛び込んでくれる。
俺はただ、その想いに応えるだけだ。
最後は意地のジャンプシュート。ブザーと同時に放ったボールがリングを貫いた瞬間、試合終了。
土峰、決勝進出。
コートに倒れ込んだ俺の肩を、仲間が、そして三人が支えてくれる。
(やっとここまで来た。あと一つ。あと一つ勝てば――全国の頂点だ)
アナウンスが響く。
「決勝戦のカードは――」
全国大会で名実ともに王者と呼ばれるチーム。
挑む舞台は、もう夢でも幻でもない。
スタンドで杏奈・ふわり・鈴音が横断幕を掲げている。
「れー君、最後まで走り抜けて!」
「れーじくん、全力で支えるからぁ~!」
「レージ君、勝ち取ってください、“全国優勝”を!」
胸が震えた。
俺は仲間と三人に支えられて、今ここに立っている。
――次は、全国優勝を懸けた最終決戦だ。




