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18回目 その1

 文化祭が終わって数日。

 いつも通りの放課後、俺の部屋のドアを開けると――例の三人は当然のようにもう揃っていた。

 この光景にも、だんだん“当たり前”の安心感が出てきたな。


 杏奈がベッドに腰かけて、ぱんと手を打つ。

「れー君、文化祭おつかれさま♡ でもさ、イベントロスしちゃってない?」


「れーじくん、そういう時は~、“王宮イベント”を追加開催するしかないよねぇ~」

 ふわりはにこにこ顔でクッションを抱えている。


 鈴音は膝にノートを置き、さらさらとペンを走らせていた。

「議題。“文化祭後・王宮第18回ゲーム”を開催すべきか否か」


 ……いや、もう結論は見えてるよな。

 三人がそろって期待のまなざしを向けてくる。


「……やるんだろ?」

「「「もちろん♡♡♡」」」


 割り箸の束がテーブルに置かれる。

 赤マーク入り一本を仕込んだその音が、放課後の空気を切り替える合図。


 杏奈がニヤリと笑いながら言った。

「れー君、今回はね……“とびっきりお色気コメディ”で行くから、覚悟してね♡」


 ふわりは背中越しに、柔らかい声を添える。

「笑いながら、甘やかすやつだよ~♡」


 鈴音は姿勢を正して、きっぱり宣言。

「“全年齢ギリギリ”の安全策は、私が責任を持って管理します」


 心臓が跳ねる。

 18回目のゲームが、こうして幕を開けた。


「……抽選、結果発表」

 割り箸の束から赤印を引き当てたのは、桜岡鈴音だった。

 小さな体でぴょんと立ち上がり、真面目に手帳をぱたんと閉じる。


「本日の“正室奉仕”、鈴音が担当します!」

 ピシッと敬礼するその姿に、杏奈とふわりが同時に「おお~」と拍手。


 ……いや、もうこの時点で胸の鼓動が速い。

 だって鈴音のターンって、だいたい“真面目に見せかけて大胆”だからな。


「レージ君」

 ぐいっと俺の正面に膝立ちになった鈴音は、上目づかいで見上げてきた。

 小柄だから目線がちょうど胸のあたりで止まるんだけど、それが逆に威力強すぎる。


「任務内容は……“王様を膝の上に守る”です」

「ひ、膝の上……?」

「はい。“お膝取り合戦”の初手を、鈴音が確保します」


 言い切ると、俺の腕をぐいっと引っ張り、自分の太ももの上へ座らせる。

 ……軽く押されたのに、ぜんぜん抗えなかった。


「どうですか? 鈴音のお膝の感触は」

「……あったかい」

「ふふっ♡ 記録、“王様あったかいって言いました”」


 顔がもう限界に近づく。

 この小さな膝から伝わる熱が、思った以上にダイレクトすぎる。

 しかも背中からは、杏奈とふわりの視線が「おお、鈴音やるね~♡」って感じで突き刺さってくる。


「さらに……」

 鈴音が両手で俺の腰をしっかりホールドしてきた。

「“王様安全保持”。これで、もう誰にも奪われません」


「ちょ、ちょっと待て、鈴音。息、近い……」

「近距離護衛です」

 きっぱり言うくせに、頬がほんのり赤い。

 真面目なのか照れてるのか、判別不能。

 でも……心臓が、こっちまで持っていかれる。


「れー君、これズル~♡」

 杏奈がにやにやしながら、ソファに乗り出してくる。

「ふわりも、行こ行こ~♡」

「うん~、鈴音ちゃんだけ独占はずるいよねぇ~♡」


 あ、やばい。

 鈴音の“お膝奉仕”を皮切りに、三人同時乱入モードの空気が高まっていく――!


「れー君♡ 正室奉仕は“一人占め”じゃなくって、“取り合い”でしょ~♡」

 杏奈がぐいっと正面に割り込んでくる。黒髪ハーフテールが勢いよく揺れる。


「そうそう~♡ 鈴音ちゃんが独占したら、わたし達が黙ってられないよぉ~♡」

 ふわりまで巨体をふわっと傾けて、ソファがぐらぐら。


「ま、待ってくださいっ。これは任務で……!」

 鈴音が必死に俺の腰を抱えて膝から離すまいと力む。

 けど――相手が悪い。杏奈の腕力と、ふわりの重さの前では完全に押される。


「よいしょっと♡ “れー君、杏奈膝”の方が安定度ばつぐんでしょ?」

 杏奈が強引に俺を自分の太ももへ移動させる。

 その瞬間、鈴音の頬がぷくーっと膨らんだ。

「レージ君……裏切り、ですか?」

「いやいやいや! 俺は何もしてないって!」


「じゃ、わたしも~♡」

 ふわりが“でっかい195センチ”を生かして、俺ごとひょいっと抱え上げて、自分の膝の上にストン。

「ふふふ~♡ “ふわり膝”はクッション性が世界一なんだよぉ~♡」

 確かに、安心感がやばい。……いや、冷静になれ俺!


「れー君はっ、やっぱり杏奈膝が一番♡」

「ちがいます。鈴音膝こそ“コンパクトに守れる仕様”です!」

「ん~♡ やっぱり“ふわり膝”の包みこみが正解だよぉ~♡」


 三人が三方向から、ぐいぐい俺を奪い合う。

 ソファの上で俺は完全に“膝チェアの争奪戦”に巻き込まれて、前後左右に揺さぶられる。


「ちょ、マジでやめろ! 腰、腰っ!」

「譲れません♡」

「独占禁止法違反は鈴音が許しませんっ!」

「れーじくん、どの膝がいちばん~♡?」


 質問の角度がえぐい。答えた瞬間、残り二人からの圧が確定するやつだ。




「じゃ、決めよっか。“お膝王選手権”!」

 杏奈がなぜか乗り気で宣言。

「れー君、採点して♡ 座り心地・安定感・安心感、三部門!」

「いやいやいやいや!」


「はぁい♡ まずは杏奈膝からどうぞ~♪」

「次は、ふわり膝だよ~♡」

「ラストは、鈴音膝をお願いしますっ!」


 完全にプレゼン大会。

 俺はというと、三人に代わる代わる膝へ座らされて――

 そのたびに「♡♡♡」と甘い反応と視線で攻撃されるわけで。


 ……心臓が三回死にかけた。


「判定は――」

 俺が口を開こうとした瞬間、三人が同時に「「「やっぱり、同点♡」」」と結論を出した。


「……俺の出番、必要あった?」

「あるよ♡ だって“奪い合って照れるれー君”を見るのがご褒美なんだもん♡」

「そうそう~。お膝は手段、目的はれーじくんの反応なんだよ~♡」

「記録。“お膝合戦、勝者:全員”。任務完了です!」


 勝手にまとめられた。

 でも三人が笑ってるから、俺も苦笑するしかない。

 結局、最後は俺がソファの真ん中に座り、三人の膝を全部寄せて“王様スリー膝スローン”が完成した。


「れー君専用玉座、できたね♡」

「王様、ご満悦?」

「レージ君、笑顔、保存しました」


 ああ、もう。……幸せすぎて、反論なんてできるわけない。












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