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17回目 その3

「……では、次は鈴音の番ですね」

 ふわりがそっと身を離すと、入れ替わるように鈴音が俺の前へ出てきた。茶色のポニテが、緊張でほんの少し揺れている。


「レージ君……あの、今のふわわんみたいに上手にはできないかもしれません。でも、鈴音なりに“正室奉仕”をいたします」


 両手を胸の前で組んで、ぐっと背筋を伸ばす姿がいかにも真面目で――でも、頬はほんのり赤く染まっている。

 そのギャップに、俺の胸がまたドクンと鳴る。


「無理しなくていい。鈴音のやり方で」

「……はい。では、失礼いたします」


 そう言うと、彼女は俺の正面に膝をつき、両手で俺の肩をそっと押さえた。

 距離が近い。思わず息を呑む。


「まずは、肩をほぐします。お疲れのはずですから」

 親指でぐっと押し込む。強すぎない、けど芯まで届く圧。

「んっ……効くな、これ」

「よかった……。“レージ君の力になれている”と、鈴音は嬉しいです」


 言葉と同時に、押す手の力が少しだけ強まる。

 その律儀さが、いかにも鈴音らしくて、思わず笑ってしまう。


「笑いましたね?」

「いや、安心してさ」

「……でしたら、もっと笑ってください」

 鈴音は小さく息を吸い、意を決したように――俺の額に、軽く唇を落とした。


「ちゅ♡」


 顔を上げた瞬間、彼女の耳まで真っ赤になっていた。

「……い、今のは“安眠祈願”です! べ、別に深い意味は――」

「ありがとな、鈴音」

 俺がそう言うと、彼女の肩がわずかに震えた。


「レージ君……そうやってすぐ受け止めてくださると……嬉しくて、胸がいっぱいになります」


 声が小刻みに震えてる。普段の落ち着いた鈴音からは考えられないくらい――でも、その必死さが胸に刺さる。


「鈴音」

「は、はいっ」

「俺も胸いっぱいだよ。ありがと」

「……っ」


 次の瞬間、鈴音は堪えきれないみたいに、俺の胸へ飛び込んできた。

 小柄な体がぎゅっと押し当てられて、体温が直に伝わる。


「レージ君……大好きです♡」

 震える声で、それでもはっきりと。

 その言葉が、俺の心臓をさらに熱くした。


「……っ、すみません。勢いで……でも、離れたくなくて」

 鈴音の小さな声が、胸元に直接震えて伝わってくる。

 ぎゅっと抱きついたまま、顔は俺の制服の中に埋まっていて見えないけど、耳まで真っ赤なのがよく分かる。


「鈴音、無理しなくていいんだぞ」

「いえ……無理では、ありません。むしろ、こうしていられるのは……とても、幸せです♡」


 俺のシャツを握る指先が、ちょっと震えてる。けど、力は強くて――絶対に離したくない、って気持ちがそのまま伝わる。


「それに……」

 鈴音は顔を少しだけ上げて、視線を絡めてくる。茶色の瞳が、潤んで揺れていた。

「今までずっと、幼馴染みの“ちっちゃい子”って思われてるのが、悔しかったんです。だから……今日は“鈴音もちゃんとお姉さんになれる”って、証明したいんです」


「……お姉さん?」

「はい。……レージ君を、甘やかしたいです♡」


 そう言って、彼女は俺の腕を取って、自分の胸元へそっと引き寄せた。

 控えめだけど柔らかい感触が伝わってきて、俺の頭が真っ白になる。


「鈴音……」

「しばらく……このままで、いいですか?」

「……ああ」


 背中に小さな手が回って、さらに強く抱きしめられる。

 普段は冷静で敬語な彼女が、今は必死にしがみついてくる。そのギャップがあまりにも可愛くて、胸が熱くなる。


「レージ君……安心してください。鈴音は……ずっと傍にいます。どんなときも」

 耳元で囁かれる声が甘すぎて、心臓が跳ねる。


 続けざまに、頬へ、唇へ――軽く触れるようなキスが落とされる。


「ちゅ♡ ……すみません。止まらなくなりそうです」

「止めなくていいよ」

「……っ」


 その一言で、彼女の瞳がぱっと潤んで、次の瞬間――ぎゅうっと抱きついたまま、今度は少し長めに口づけをしてきた。

 小柄な体から伝わる熱が、真っすぐで、震えるくらい愛しい。


「レージ君……鈴音、やっぱり大好きです♡」

 言葉と同時に、さらに抱き寄せられる。小さな体で、全力の想いを込めて。



 ◇◇◇



「王様れーじ君♡♡♡」

 合図の声が重なった瞬間、もう胸が跳ねる。心臓は慣れないんだよな、これ。


 正室くじを引いたのは――杏奈。

 勝ち誇った顔で俺の前に座り、ポンと自分の膝を叩く。


「れー君、ここ♡ 正室の膝枕、今夜はサービスだよ~♪」


「いや待て、もう膝“座る用”って決めつけてない?」

「王様は黙って座るの♡ それが王国のルールでしょ?」


 にやにや笑う杏奈の膝……正直、座ったら絶対落ち着くやつだ。

 でも――。


「れーじくん、ずる~い♡」

 背後からふわりがすっと大きな脚を差し出す。ラグの上いっぱいに伸びた195センチのふわわん脚。

「わたしの膝は広いよ~。れーじくん、すっぽり安心できる~♡」


「いやいやいやっ、広すぎて逆に沈みそうだろ」

「いいの~。沈んだ分だけ、ぎゅ~って支えるから♡」


 落ち着きそう……どころか二度と立ち上がれなくなりそうだ。


「異議ありです!」

 今度は鈴音が両手を腰に当てて宣言。

「レージ君は鈴音の膝に! 小さいですけど……“ぴったりサイズ”です!」

「いや、サイズ感で言えばふわりと真逆だな」

「でもっ……でも……鈴音の膝は、あったかいです!」

 真っ赤な顔で言うあたり、本気なのが伝わってくる。


 ――三方向からの「膝アピール」。

 逃げ道ゼロ。


「はいれー君、座布団三枚っ♡」

 杏奈が言った瞬間、ふわりと鈴音も一斉に「はい♡」「承知しました!」と声を揃える。


「ちょ、ちょっと待て! 俺は座布団じゃなくて人間だからな!?」


 けど三人は引かない。

 杏奈は「王様は私のもの♡」、ふわりは「安心空間は任せて~♡」、鈴音は「任務です!」と譲らない。

 結果――。


「三人同時に座らせればいいんだよね♡」

 杏奈のひと言で、空気が固まった。


「えっ」

「えへへ~♡」

「了解しました」


 次の瞬間、俺は杏奈の膝に上半身を預け、ふわりの太ももに足を乗せ、鈴音が腰をしっかりホールドするという――奇跡の“三人掛け膝サンド”状態に。


「おいこれ……!」

「れー君、動いちゃダメ♡」

「れーじくん、すっぽりだねぇ~♡」

「レージ君、固定完了です」


 心臓が爆音。顔は真っ赤。

 三人は楽しそうに笑って、俺の頬や髪を順番に撫でてくる。


「ほら♡ 王様って、こういうものでしょ?」

 杏奈の声がやけに甘くて、抵抗なんて吹き飛んだ。


 ――これ、もう降参だろ。


 ◇◇◇


 夜の校庭。大きな丸に囲まれて、炎が空を赤く染めていた。

 パチパチと薪が弾ける音。光と影の境界に揺れる顔。泣いて笑って歌って――文化祭の最後を飾る、恒例のキャンプファイヤー。


 俺はその輪の中で、三人の幼馴染みと肩を並べて座っていた。

 杏奈は頬杖をつきながら、じっと火を見つめてる。普段の元気さが嘘みたいに静かだ。

 ふわりは長い脚を折り畳んで膝を抱えて、少し寂しそうに笑ってる。

 鈴音はポニテを結び直しながら、視線を下に落としたまま、声を小さくした。


「……終わっちゃうんだね」


 誰ともなく呟いたその言葉に、俺の胸もキュッと締め付けられる。

 そうだ。高校生活最後の文化祭。これ以上はない。

 だから、余計に――この火の明かりが、消えてほしくないと願ってしまう。


「れー君」

 杏奈が振り返る。瞳が少し赤い。

「最後の最後って、やっぱり寂しいよ。部活も終わって、文化祭も終わって……もう、何を頑張ったらいいんだろうって」


「わたしも~。準備も本番も、楽しかったからぁ……急に終わっちゃうと、ぽっかりしちゃうねぇ~」

 ふわりの声は相変わらずゆっくりで、それでもどこか心細げに揺れていた。


「……レージ君」

 鈴音は拳を握りしめて、それを炎の明かりにかざす。

「楽しいことが一つずつ終わるのって……鈴音、正直、怖いです」


 三人が見せる弱さは、俺にしか見せない顔なんだろうなって思う。

 俺は、火を見つめたまま口を開いた。



「なあ、三人とも」

「?」

「確かに、高校生活の文化祭はこれで終わりだ。でも――まだ全部終わったわけじゃない」


 目を合わせる。杏奈が唇を噛み、ふわりが瞬きをして、鈴音は真剣に聞いている。


「俺たち、同じ大学に行くんだろ? だったらさ、これからも一緒にいられるじゃん。文化祭みたいなイベントは終わっても、新しい思い出はまだまだ作れる」


 口にしてみれば単純なことだ。でも、それでいい。

 俺が信じてることを、ただ言えばいい。


「だから大丈夫だよ。終わりじゃなくて――次のスタートだ」


 沈黙のあと、杏奈がふっと笑った。

「……そっか。れー君が言うと、本当にそんな気がするね♡」

 火の明かりで濡れた瞳が、やっと安心に変わる。


「うん~。じゃあ、次の思い出、どんどん作ろうねぇ~♡」

 ふわりが俺の肩に頭をコトンと乗せる。重たいのに、不思議と軽い気持ちになる。


「レージ君。鈴音も、信じます。同じ大学で……新しい王宮を作っていきましょう」

 鈴音が真面目な声で言って、そして、ほんの少しだけ笑った。


 炎は高く。夜空には星が滲む。

 この輪の真ん中に、俺たち四人の“次の物語”が燃えていた。



~ゲーム17回目 終了~






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