表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/130

17回目 その2

 クラスの廊下を歩いていると、ふわりが待っていたみたいに手を振ってきた。

「れーじくん、こっち~♡」

 背の高い影が逆光の中でゆらり。文化祭の喧騒の中でも、あの声だけは妙に柔らかく耳に届く。


「どこ行くんだ?」

「“ふわり正室コース”にご案内~♡」

 なんだよその名前。けど、腕を取られてゆるゆる歩かされてると、不思議と抵抗する気がなくなる。


 たどり着いたのは家庭科室の裏手。いつの間にか、机の上にクッションやらブランケットやらが積んである。

「ふわりが準備してたの?」

「うん~。れーじくん、文化祭は楽しいけど、人多いでしょ? だから“休憩ブース”作ったの~」


 半分強引に座らされ、ブランケットを肩にかけられる。


「……なんか俺、完全に介護されてない?」

「ちがうよ~。“正室専用おひざ枕”サービス、始まります♡」

 どさっと座って、俺の頭を自然に膝へ誘導するふわり。あったかい布地越しに、ゆったりした体温が広がってきた。


「どう? 硬くない?」

「……いや。むしろ、柔らかすぎて逆に落ち着かない」

「えへへ~♡ れーじくん、可愛い」

 指先がそっと前髪をすくい、額に触れる。撫でられるたび、眠気と安心感が溶け合っていく。


「ふわり、こういうの得意だな」

「うん。……れーじくんにだけは、いっぱい甘やかしたいの」

 耳元に落ちてきた声が、やわらかいのに妙に心臓を揺らす。


 ふと見上げると、ふわりがにこっと微笑んだ。


「ねぇ、れーじくん。高校最後の文化祭だよ? 今日のこと、ちゃんと記録しておこうねぇ~」

「記録?」

「そう、“王宮アルバム”。ほら~」

 ふわりの鞄から出てきたのは、いつもの色画用紙に手書きのロゴ。《王宮アルバム・文化祭号》と書かれている。


「さっき杏奈ちゃんと抜け出したのも、ここに書いていい?」

「やめろっ」

「ふふ~♡ じゃあ、ふわりとの“おひざ枕休憩”は、記録確定だね」

 シャーペンでさらさらと描き込む姿が、妙に楽しそうで――負けた気しかしない。


「れーじくん、次は“ご褒美メニュー”ねぇ~」

「まだあるのか……」

 ふわりはそっとポケットから小さな包みを取り出す。中には、手作りの飴玉。

「わたし、頑張って作ったの。甘すぎないハチミツ味~。舐めながら歩くと、元気になるよぉ」

「……ありがとう」

 受け取って口に入れると、ほんのりした甘さが舌に広がる。

「美味い」

「えへへ~♡ やっぱり、“れーじくんの『美味い』は最強”だね」


 ふわりは満足そうにうなずき、また俺の髪をなぞる。

「……れーじくん、今日も真ん中にいてくれてありがとう」

「俺の台詞だろ、それ」

「そうかなぁ~? ……でもね、ふわりは、こうして寄りかかってもらえるのがいちばん嬉しいの」


 その言葉が、妙に心に残る。文化祭の喧騒がどれだけ遠くても、この瞬間だけは“真ん中”にいる感覚が確かにあった。



「れーじくん、もう少し近く、おいで~」

 ふわりの膝に頭を乗せてるはずなのに、さらに抱き寄せられる。俺の額がふわりの胸元に触れて、ほんのり柔らかい感触が広がった。


「お、おい……近すぎるって」

「えへへ~。でも、れーじくん、安心してる顔してるよ?」

 そう言って、ふわりは俺の後ろ髪をやさしく梳く。撫でる指がゆったりすぎて、体の力がどんどん抜けていく。


「……確かに、落ち着く」

「でしょ~? わたしね、れーじくんの“安心所”でいたいの」

 その声が胸越しに響いて、心臓に近い場所をじんわり掴まれる感じがする。


 ふわりの大きな影が、少し傾いて俺を覆った。

「ねぇ、れーじくん。……ちょっとだけ、こっち向いて?」

 見上げると、すぐそこに彼女の顔。まつ毛が長くて、目の奥がやわらかく笑っている。


「ん……」

 ふわりがそっと唇を重ねてきた。驚くほど軽いタッチなのに、温度だけは鮮明で。甘くて、ちょっと息苦しいくらい。

 彼女は一度だけ離れて、またふわりと戻ってくる。

「れーじくん、好き~♡」

 声と一緒に、もう一度。今度はほんの少しだけ長めに。


 大きな手が俺の背を支えてくれる。抱きしめられる強さは、甘やかすためだけに調整されてるみたいで、逃げ場なんてない。けど――逃げたいなんて思わない。


「ふわり……俺も」

「うん~♡ 聞けて、嬉しい」

 そう言うと、ふわりは俺の頬を包んで軽くつつき、「もう一回~」とおねだり。結局、三度、四度と触れるたびに、心臓の鼓動がやたら鮮明になっていった。


「れーじくん、文化祭、いっぱい楽しもうね。……でも、その前に、ちょっとだけ“充電”してもいい?」

「充電?」

「うん。……こうして、胸のとこに、れーじくんの重さを感じてると、すごく元気になるの」

 ふわりが胸元を軽く押し当てながら笑う。俺の耳に、彼女の鼓動がゆっくりと伝わってくる。


「おい……それ、逆じゃないか?」

「えへへ~。お互いに“充電”ってことで」

 そんなふわりの理屈に、思わず笑ってしまった。



「れーじくん、もっと……こっちに寄ってきていいよ~♡」

 ふわりの声は、相変わらずゆったりしてるのに、吸い込まれるみたいに強い。気づけば、俺はもう彼女の胸にすっぽり包まれていた。


 柔らかさと温かさが、耳も頬もぜんぶ埋めてしまう。心臓の音が、ふわりの鼓動と少しずつ重なって、混ざっていくのがわかる。


「お、おい……さすがに近すぎ――」

「だめ~♡ 今日は“ふわふわ充電の日”だから。れーじくん、がんばりすぎてるんだもん~」

 彼女の胸に頬を押し当てられて、髪をなでられる。ゆっくり、ゆっくり。子守歌みたいなリズムで。


 抵抗する気持ちは……ゼロだ。むしろ、心のどこかでずっと求めてた場所に帰ってきたみたいに落ち着く。


「ねぇ、れーじくん♡ ここ、安心するでしょ~?」

「……する。正直、めちゃくちゃ」

「えへへ~♡ やっぱり。……もっと甘えていいんだよ?」

 その声が胸越しに震えて伝わってくる。耳の奥にまで甘さがしみ込んで、言葉が上手く返せない。


 ふわりが顔を少し傾けて、俺の頭を支えながら囁く。

「……れーじくん、ちゅって、してもいい?」

「えっ……」

 返事を待たず、ふわりの唇が俺のこめかみを優しく撫でる。軽く、けれど確実に。

「ちゅ♡ ……ふふ、れーじくん、赤くなってる~」


 今度は頬。

「ちゅ♡ こっちも~」

 そして、ためらいなく口元へ。

「ん……ちゅ~~♡」

 柔らかさと温かさに包まれて、思考が全部、ふわふわに溶けていく。


「れーじくん……大好き♡ ぜんぶ包み込んであげたいの~」

 ふわりの大きな腕が俺をすっぽり抱き込む。

 胸の奥まで届く甘い圧力。声も呼吸も、彼女の中で響いているみたいだ。


「……ずるいな、ふわり」

「ずるくてもいいよ~♡ れーじくん、幸せそうな顔してるから。それが全部、わたしのご褒美だもん~」


 もう、俺は完全に降参だ。

 彼女の胸に顔を埋めたまま、目を閉じる。甘い匂いと、甘い温度と、甘い声。どこからどこまでが“俺”で、どこからが“ふわり”なのか、境目なんてなくなっていく。


「れーじくん♡ これからも、ずっと甘やかしてあげるね~♡」

 その言葉が、頭のてっぺんから足の先まで、ゆっくり染み込んでいった。


「れーじくん、まだ動かないでね~♡」

 ふわりの胸にすっぽり埋もれたまま、俺は完全に身動きが封じられていた。けど、その封じられ方が――嫌どころか、もうこの上なく心地いい。


 耳元で、彼女の鼓動が“とん、とん”と一定のリズムを刻んでいる。それがだんだん俺の鼓動と重なっていって、まるでふたりでひとつの拍動を作ってるみたいに感じる。


「……落ち着く?」

「……めちゃくちゃ」

「えへへ~♡ よかったぁ。れーじくんは、甘え上手なんだから」


 大きな手が、俺の後頭部をゆっくり撫でる。髪の流れに沿って指が滑るたび、首筋がじんわり熱を持って、肩の力が抜けていく。


「ほら、力抜いて~♡ 全部わたしに預けちゃっていいの」

「……ほんとに、なんでも?」

「うん~♡ ぜんぶ~♡」


 ふわりの声は囁きみたいに低いのに、甘さが濃くて、耳奥に直接とろけて落ちていく。

 その言葉に誘われるように、俺の身体はさらに深く、ふわりの胸へ沈み込んでいった。


「れーじくん、ちょっと顔あげてみて~♡」

 促されて顔を上げると、ふわりの微笑みが至近距離。195センチの影にすっぽり覆われて、俺の世界は彼女で満ちている。


 そして、彼女はためらいもなく唇を寄せてきた。

「ちゅ……♡ ん……ちゅ~♡」


 長い。ゆっくりで、余韻が長すぎる。

 唇同士が重なるたびに、胸に溜めていた息が勝手に抜けて、体温が混ざり合う。


「れーじくん、唇、やわらか~い♡」

「お前のほうが、だろ……」

「ふふ~♡ じゃあ引き分けにしよ~♡」


 勝ち負けとかどうでもよくなるくらい、ただ甘い。



 ふわりが俺の頬を両手で包んで、もう一度胸元へ引き寄せる。

「ねぇ、れーじくん♡ ここ、安心するでしょ?」

「……正直、もう動きたくない」

「でしょでしょ~♡ 今日はずーっと、ここで甘やかしてあげるからね」


 言葉どおり、彼女の胸の奥から響く声が、子守歌みたいに眠気を誘う。

 髪を撫でられる。背中をなでられる。頬に軽くキスが落ちる。――その繰り返し。


 意識がふわっと軽くなる瞬間ごとに、胸の奥から「れーじくん、大好き♡」って声が聞こえる。

 ……夢じゃない。全部現実。



「れーじくん、手……」

 ふわりが俺の手を取って、自分の胸の上にそっと置かせる。

「ほら、あったかいでしょ~♡」

「……ああ」

「ぜんぶ、れーじくんの安心にしてね♡」


 その瞬間、胸の奥まで一気に熱が流れ込んで、言葉が出なくなった。

 ふわりはただ、やさしく微笑んで――俺の額に、唇を落とす。


「ちゅ♡ ……だいすき」


 囁きに近いその声は、湯気の中で静かに溶けていった。

 まるで大きな毛布にくるまれたみたいに、俺の体も心も、すっぽり包まれてしまう。


 彼女の体温と甘い吐息が、鼓動のリズムと混ざって、もう何も考えられない。ただ「守られてる」って感覚が全身を満たしていく。


 目を閉じると、そっと背を撫でるふわりの手の感触。髪を優しくすくう指先。……全部が安心で、全部がやわらかい。


「……ありがとな」

 やっとの思いで言葉を搾り出すと、ふわりは「えへへ~♡」と幸せそうに笑った。


 ――その笑みが、俺の視界の最後に残った。


 静かな余韻が流れて、部屋の空気までも甘く染まる。

 気が付けば、心臓の早鐘も落ち着いていて……まるで夢の終わりに引き込まれていくようだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ