16回目 その1
今日でゲームの16回目になる。今日も今日とて女の子達の姦しい声で俺の部屋は満たされていた。
「「「王様れーじ君♡♡♡」」」
割り箸を引いた瞬間、杏奈がぱっと顔を上げた。
「はいっ♡ 今日の正室は私ですっ!」
黒髪のハーフテールが勢いよく揺れる。勝ち誇った笑みってやつだ。
「正室・杏奈ちゃんが、本日のゲームを発表します!」
鈴音がきりっと司会モードに入る。メモ帳を取り出して「宣言どうぞ」と差し出す仕草まで本格的。
「テーマは――王宮ファッションショー♡ れー君を“私達の好きな格好”に着せ替えちゃいま~す♪」
杏奈の声が部屋に響いた瞬間、俺の心臓は跳ねた。
「ちょ、着せ替えって……俺がコスプレするってことか!?」
「うんうん♡ 安心して、危ないのはなし。全部かわいいとかカッコいいとか、そういうのだけ♪」
いや、そう言われてもだな……。でも三人の目が完全に「決定事項です」って顔してる。逃げ道ゼロ。
「まずは私から~♡」
杏奈がクローゼットを勝手に開けて、ジャケットとシャツを取り出す。
「れー君って、普段はラフな格好多いじゃん? 今日は“学園の王子様”スタイルいきまーす♡」
シャツを俺に押し付け、ボタンを一個だけわざと外す杏奈。
「ちょっ……開けすぎだろ!」
「いいの♡ これが“本気の正室アレンジ”だから」
胸元に風が入ってひやりとする。杏奈の指先が襟に残る感じで、心臓が勝手に早くなるのをどうにか隠そうとしたけど――
「……赤くなった♡ れー君、やっぱ素直だね♪」
完全に読まれてる。
「ポーズもお願い♡ ほら、“腕まくって片手ポケット”」
俺がぎこちなく構えると、杏奈はスマホを構えて「王様、最高♡」とシャッターを切った。
あー……絶対あとでネタにされるな。
「つぎ、わたしねぇ~♡」
195センチのふわりが、ふわふわのパーカーとルームパンツを持ってくる。
「れーじくんには、やっぱ“安心セット”が似合うと思うんだぁ~」
袖を通した瞬間、パーカーから柔らかい匂いがして、体が一気にゆるむ。
「ほら~。リラックスモードのれーじくん、完成♡」
ふわりがフードを軽く被せ、肩に手を置いて覗き込む。見下ろされる圧がすごい。
「ちょ、近い近い……!」
「えへへ~♡ 落ち着くでしょ?」
ほんとに落ち着くから困る。フード越しにぽんぽんされて、気づけば俺の呼吸も彼女に合わせてゆっくりになっていた。
「最後は、鈴音の番です!」
茶色のポニテが揺れて、鈴音がジャージを差し出す。
「王様には“機能性”が必要です。これは速乾素材、ストレッチも抜群です」
「いや、なんか一人だけ実用寄りじゃない?」
「いえ。実用性こそが最強の魅力です」
ジャージを着せられた俺は、完全に部活帰りモード。
「似合ってます!」
鈴音が力強く親指を立てる。……その目が真剣だから逆に照れる。
「はい、では腕立て一回お願いします」
「おい!? なんでだよ!」
「“動きやすさチェック”です」
渋々腕立てしたら、杏奈とふわりの笑い声が同時に響いた。
「じゃ、まとめてファッションショーいくよ♡」
杏奈がラグをランウェイ代わりにして、音楽アプリでBGMを流す。
「れー君、ウォーキング開始!」
ジャケット姿で歩かされ、次はパーカー、最後はジャージ。
「かっこいい♡」
「かわいい~♡」
「実用的です!」
三者三様の声援が飛んでくる。俺はただ歩いてるだけなのに、心拍数は完全に体育祭100m走レベルだった。
「審査員の投票タイムでーす♡」
三人が一斉に手を挙げる。
「全部満点!」
「オール合格~♡」
「異議なし!」
結局、全スタイル採用。俺は「着せ替えマネキン」から「王宮モデル」に昇格させられてしまった。
でも三人の笑顔があまりにも眩しくて、俺は何も言い返せなかった。
◇◇◇
「次の正室は……わたしで~す」
割り箸を掲げたのは、ふわり。桃色のゆるワンピがふわっと揺れて、195センチの存在感が一気に広がった。
「テーマはねぇ~、“王様の健康診断”だよ~♡」
「健康診断?」
俺が首を傾げると、ふわりは両手を組んでにっこり。
「王様が毎日元気じゃなきゃ、王宮は困っちゃうでしょ? だから三人で、全身チェックするの~」
こ、これはつまり……お、お医者さんごっこというヤツかっ……嫌な予感しかしない、良い意味で……。
「じゃ、まずは“身長測定”からね~」
ふわりが壁際に立たせる。自分の195センチを基準にするから、俺が164センチなのはあまりに明白。
「うん、やっぱりれーじくんは“コンパクト王様”だねぇ~♡」
「コンパクトって言うな!」
頭にふわりの手が軽く乗せられる。包まれるみたいな重さに、否定の声も力が抜けていく。
「姿勢は合格。ちゃんと真ん中に立ってるよ」
大きな手で背中をなぞられると、緊張よりも安心が勝ってしまう。
「次は杏奈ちゃんの担当~♡」
「おっけー! “心拍数チェック”ね!」
杏奈は聴診器 のおもちゃを首にかけて、俺の胸にぴたり。
なんでこんなものまで用意してるんだ……。
「どれどれ~♡ ……わぁ、ドキドキしてる! れー君、私の顔見て赤くなった?」
「違う! これは……その、緊張だから!」
「はいはい♡ 診断結果、“正室を前にすると心拍数爆上がり”」
ニヤニヤしながらノートに書き込む杏奈。
完全に遊ばれてるのに、胸に残るぬくもりが誤魔化しきれない。
「深呼吸もしてみよっか。せーのっ!」
杏奈に合わせて吸って吐いて、三人の視線が一点に集まる。俺は実験動物か。
「ふふっ♡ やっぱり可愛い」
杏奈の笑い声で、心拍はさらに跳ね上がった。
「では、鈴音が最終確認します」
鈴音は小型のハンマー(おもちゃ)を取り出して、膝をトントン。
「反射良好。運動神経は衰えていません」
「そりゃまだ二日酔いのオッサンじゃないからな!」
「次、腕を出してください」
言われるがまま力こぶを作ると、鈴音が真顔で触ってきた。
「筋肉の張り、問題なし。王様はまだまだ“現役”です」
杏奈とふわりが同時に「キャー♡」と茶化す。
「ちょ、やめろって!」
でも鈴音は淡々と「診断中です」と答える。……余計に恥ずかしい。
「結果発表~♡」
三人が並んで手を挙げる。
「身長:可愛い合格!」
「心拍:ドキドキ合格!」
「筋肉:頼れる合格!」
「総合評価は――“王様、完璧ですっ♡”」
三人が同時に抱きついてきて、俺はバランスを崩してラグに倒れ込む。
「うわっ……!」
「診断後の“ケア”も大事だよ~♡」
「転倒防止、確保しました」
「れー君、今日も満点♡」
息が詰まるくらい甘い「健康診断」だった。




