表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/129

15回目 その3

 夕方のグラウンドって、昼間の熱気が砂の中に少し残ってて、でも風はちゃんと秋なんだ。あの感じ、好きだな。太陽は角度を落として、白線の影も長くなる。で、全体種目のアナウンスが流れて――はい、フォークダンス。来ましたよ、手を順番に替えるやつ。


 正直さ、これ毎年ちょっとだけ緊張するんだよ。相手を見て一礼して、くるくる回って、また手を取って――って流れ、頭では分かってるのに、音楽が鳴ると足が半拍速くなる。で、その半拍を、俺の左右と背後の“三色”がいつもきれいに整えてくれる。ありがたい。いや、ほんとに。


 曲が始まって、一人目、二人目――と手を替えるたびに、視界の端で水色・桃色・黄色がぴたりと止まってるのが見えるの、ほんとずるい安心感だよ。向こうから見てる三人の目線がね、「はい、その調子」って無言で言ってる。たぶん口でも言ってる。杏奈なら普通に言う。



「れー君、はい、“右足から~”♡」

 ほら言った。マイク通してないのに響くやつ。

「レージ君、ステップ幅、二割小さく」

 鈴音の声は医師の処方箋みたいに的確。二割って具体。

「れーじくん、だいじょうぶ~。上手~」

 ふわりの“ふわっふわ”な肯定が、最後の角を甘くしてくれる。

 こういうの、ほんと助かる。俺、たぶん三人がいないと毎拍どっかでつまずいてる。


 回転、回転、また回転。手を取って、離して、進んで、戻る。俺の向こうにいる誰かの笑顔をちゃんと見て、礼して、次へ。で、最後のターンが近づいたあたりで、列の密度がスッと変わるのが分かった。あ、これ三人がやってる。整理整頓の達人。


 案の定、最後の入れ替わりで俺の左右が杏奈と鈴音、背後ぴったりにふわり。はい、いつもの配置。落ち着く。踊りなのに、急に“帰ってきた”感じがするの、なんだろうね。


 曲がふっと溶けて、全員で一礼。俺が顔を上げると、三人が同時に“王宮敬礼”――額に指をちょこん、だ。これ、反則級に可愛い。しかも俺だけに向けてくるから、余計に心臓が忙しい。

「れー君、よくできました♡」

「レージ君、ステップ、合格です」

「れーじくん、満点~」

 はい、表彰ありがとうございます。まだ表彰式前だけど、心は表彰台に乗りました。


 フォークダンスが終わると、全体の空気がちょっとゆるむ。表彰までの労い時間ってやつに入って、各クラスで「おつかれ~」が飛び交う。で、うちのクラスはというと――三人が無言で俺の周囲に等間隔で立って、はい、始まりました“王宮ストレッチ”。


 まず杏奈が肩の付け根に指を置いて、「ここ、息吸って――すー。吐いて――はー」。

 タイミングの合図が上手い。呼吸が返事を覚えてる。

 次にふわりが背中へ二拍ぽんぽん。このリズム、いつも同じなんだよな。二拍で安心、三拍で眠気、四拍で落ちる。今日は二拍の“起こし”バージョン。

 鈴音は肩甲骨の下を軽く押さえて、「レージ君、力を抜いてください」。この一句の信頼感、すごい。言われた瞬間、溶ける。筋肉が「分かった」って言う。気がする。


 そこに保健委員が通りかかって、「えっと、そのケア、公式アフターケアとして採用……」って言いかけるんだけど、三人が満面の笑みで同時に振り向く。

「王様専用です♡」

 はい、終了。保健委員さん、笑って去っていった。俺は心の半分くらいで「この過保護、ずっと続いてほしい」って堂々と思う。だって、気持ちよすぎだもんよ。


「れー君、ふうってして?」

「ふう」

「はい合格~♡」

 この“合格”、今日何回目だろ。数えるのやめた。全部、取っておく。


 で、ここで空が一回だけいたずらしてくる。にわか雨。秋の雨って、音は柔らかいのに動線は一気に慌ただしくなる。


「緊急アナウンス入ります~」

 案の定、放送室のマイクを握ったのは杏奈。声がまっすぐで、必要なことだけをきっちり言う。こういう時の杏奈、ほんと頼れる。“水色の旗”が高く上がる感じ。


「レージ君、第一出口が混雑します。第二ルートへ誘導します」


 鈴音は人の流れを黄色い誘導灯みたいに整える。指示が簡潔、動きが速い。渋滞、発生せず。


「れーじくん、マット運ぶ~。すべり止めは下にしてね~」


 ふわりは力持ちをふんわりやる。195センチの安心感は伊達じゃない。マットが羽みたいに軽く見える。

 体育館へ切り替わるまで、ほぼ混乱ゼロ。三人が本気出すと、学校一棟まるっと“王宮”になる。


 で、体育館の天井は思ったより高いんだけど、俺はなぜかマイク係に捕まって、「以上、王様でした」って言い間違えた。ええ、やりましたとも。教員席がざわつく。

 でも三人がステージ脇でケラケラ笑ってんの。つられて笑うよ、そりゃ。

「“天井に届かない大黒柱”さん、今日も立派です」

 鈴音の言い方が優しい称号コールで、胸にじんわりくる。届かないって言われるほど、届かせたくなるもんだな。天井、高いけど。まあ、今日の俺の天井は、三人の笑顔で充分だ。


 雨が上がるころ、表彰がまとまって、会場が拍手で温まる。空気が「よくがんばったね」で満ちる時間、いいよね。で、終わり際に三人が小声で「ちょっと来て」と俺の袖を引く。

 体育館の脇――人の流れが途切れた影で、三人が水色・桃色・黄色の紙テープをシュパパッと取り出す。早い早い。なにその早業。


「れー君、即位式します♡」

「冠を、急造します」

「サイズはあとで調整~」


 紙テープを三色交互にねじって輪っかにするんだけど、まあ当然まだ乾いてないから、俺の頭に載せた瞬間にずりっと落ちるわけ。


「おっと」

 落ちる前に、背後からふわりの大きな手がそっと支える。桃色の支柱。安心の手。

 杏奈が前髪の角度をちょこっと直して、「れー君、即位おめでとう♡」って笑う。

 鈴音は胸の高さで手を合わせて、小さな拍手。「本日の王冠は、非公開展示です」

 写真係が近づきかけるけど、三人が自然な動きで視線を遮ってくれる。うん、これでいい。四人だけの記念は、心の展示室に飾るのがいちばん強い。


「れー君、サイズ直しは任せて」

「レージ君、来年は耐水仕様に」

「れーじくん、ラメ足してもかわいい~」

 わいわい言いながら、紙の王冠を鞄にしまって、俺はなんだか頭の上まであったかい気がした。王冠、乗ってなくても乗ってる感じ。分かるかな、これ。



 解散のアナウンスが流れる。グラウンドも体育館も、空気が一気に帰り支度に変わる時間。みんなの声が少し小さくなって、足音がちょっと速くなる。

 その端っこ――観覧席の影で、四人だけの小さな円陣。これは毎度の儀式だ。俺たちの**“おしまいの、つづき”**。


「せーの、は要らないよな」って顔を見合わせるだけで分かるやつ。

 息を合わせて、**声に出さない口形くちがた**で――

「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 ね、音なんてなくても、ちゃんと届く。胸の真ん中で、同じリズムで鳴る。

 俺も同じように口パクで“ありがとう”。

 三人が口パクで“だいすき”。

 秋の風だけが、その合図を知ってる。たぶん白線も。さっきまで俺たちの足を受け止めてた砂も。


 帰り道、空は夕焼けを半分こぼして、色が抜けはじめてる。街灯が順に点いて、水色→桃色→黄色の順に、なんて都合よく並びはしないけど、俺の視界にはちゃんと並んで見える。だって、隣にいるから。


「れー君、今日は“見ててね♡”成功だった?」

「成功。というか、ずっと見守られてた」

「れーじくん、じゃあ“明日もとなり”成功だね~」

「レージ君、護衛任務、継続します」

 はい、頼もしすぎ。俺は笑ってうなずく。胸の中で、深呼吸がひとつ、自然に入る。


 俺は今日、真ん中に立ってた。立たせてもらってた。それをたぶん、一生忘れない。忘れちゃいけない。


 だから、バスケットのときみたいに、もう一回だけ深呼吸する。

 いち・に・さんで吸って、いち・に・さんで吐く。


 秋の夜が近づいてきて、空気が少しだけ甘くなる。三人の笑い声が、その甘さをちゃんと形にしてくれる。


 ――よし。今日の“ありがとう”、ちゃんと置けた。


 明日も、置く。明後日も、置く。俺の真ん中は、四人で作る“王宮”の床だ。何度でも踏み直せる、丈夫な床。


 そう思ったら、歩幅が半歩分、軽くなった。帰り道、いつもの角が、いつもよりちょっとだけ好きになった。


~ゲーム15回目 終了~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ