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14回目 その3

「れー君、次いくよ♡」

 杏奈が俺の両手をそっと裏返す。爪先がひと瞬き分だけ、掌をひっかくように掠めたあと、舌の代わりのようにしっとりとした指の腹がなぞる。薄い皮膚をすべる度に、内側から熱が滲み出すみたいで、呼吸が乱れる。


「“手のひらジェスチャークイズ”! 私達が指で描く絵を、当ててね♪」

 耳元で囁かれる声が甘くほどけて、胸の奥にじん、と響く。


「れーじくん、最初はわたしから~♡」


 ふわりの指先が、右手の真ん中にそっと沈む。冷たい感触が最初に走り、すぐにとろける体温が追いかけてくる。指が丸を描くたび、掌の中心に甘い痺れが残り、骨の奥まで染み込む。最後に爪先で「ちょん」と突かれると、全身が跳ねた。



 すーっと丸、もう一回丸、長い楕円……最後にちょこん。指が離れると、手のひらの上に形の余韻が残る。


「……イチゴ?」

「正解~♡」


 ふわりがふわっと笑い、親指で“よくできました”と軽く押す。その一押しが、掌から胸に花火のように広がり、身体の奥がゆっくり温まっていく。


「レージ君、二問目です」

 鈴音は左手にさらさらと、真剣な顔で線を描く。指が滑る感覚が涼やかで、なのに芯に熱を帯びている。


「……トラック、かな」

「正解です。さすがです」


 答えを言った瞬間、小さくぎゅっと手を握られる。指先の力は控えめなのに、まるで心臓を直接押されたみたいに、じんわり熱が滲む。


「最後は私~♡」

 杏奈はわざと速くしたり遅くしたり、星、星、星。そして仕上げに“王冠”。指先が星を描くたび、くすぐるような熱と甘い痛みが交互に走る。


「星座と王冠、だろ」

「大正解♡ れー君はやっぱり、私達の“王様”だね」


 杏奈がにやっと笑う。瞳がとろりと光って、胸の奥が跳ねる。


 鈴音がメモに丸を三つ。


「王宮記録:正答率100%。ご褒美、“三人同時ほっぺタッチ”を申請します」

「採用~♡」


 右から杏奈、左から鈴音、背中からふわり――三方向から頬に柔らかなキスが落ちる。頬が熱に包まれて、くすぐったいのに、芯から安心する感覚が流れ込む。


「次は“ささやきループ”!」

 杏奈が俺の耳に近づいて、吐息ごと囁く。

「れー君の好きなとこ、100こ言える♡」

 その響きだけで、心臓が跳ね上がる。耳の奥が痺れるように熱い。


「れーじくん、バトン~♡」

 ふわりの囁きは風のように柔らかくて、少し甘い匂いが混じる。

「いちばん落ち着く匂い、れーじくん」

 息の粒が首筋に触れるたび、呼吸まで甘くなる。


「レージ君……続けます」

 鈴音の囁きは丁寧で、ひとことひとことが滑らかに耳の奥を撫でる。

「鈴音の毎日を、明るくしてくれます」

 耳の奥が熱くなって、目まで潤む。三人の声が重なって、全身が溶けそうな感覚に包まれる。


 三方向からの囁きに、俺も自然に返す。

「ありがとう。ほんとに」

「今日の笑顔、忘れない」

「これからも、真ん中にいる」


 杏奈が目を細めて言う。

「うん、合格♡ “王様・安心ゲージ”満タン」

 俺は笑って、心から頷く。胸の奥で何かが静かに震えた。


「れーじくん、工作タイム~」

 ふわりがビーズと糸を取り出す。水色(杏奈)、桃色ふわり、黄色(鈴音)、そして俺は透明+金。光に透けるビーズが、指の隙間でころころ転がり、肌に冷たく触れるたび小さな戦慄が走る。

「“四人おそろいチャーム”作るの~♡」


 鈴音が器用に留め具を付け、杏奈が配色を決める。

 俺は不器用な指で透明ビーズを通す。

「れー君、ここは水色と金を交互にして♡」

「了解」

「レージ君、仕上げの結び目は、鈴音がやります」

「助かる」


 完成した小さなチャームは、信号機みたいに可愛くて、それでいて指先に残る体温がまだ消えない。

「四人の“しるし”だな」

「“王宮の印章”として、毎日つけましょう」

 鈴音の真顔が愛しくて、思わず笑ってしまう。


「実戦訓練!」

 杏奈がクッションを掲げる。

「“王様をふんわり護れ”ミニゲーム! 王様は目を閉じて~」


 目を閉じると、視界が消えて感覚だけが研ぎ澄まされる。背中にふわり、左右に杏奈と鈴音。髪の毛の先や吐息が肌に触れ、微細な熱が散っていく。

「落とすよ~、いち、に、さん!」

 ふわりが包み、左右から支える――

 ぽす。衝撃ゼロ。心臓だけが強く脈を打つ。


「成功です!」

 鈴音の声まで弾む。

「れーじくん、もう一回~」

「次は二個連続~♡」

 三人が笑いながら守ってくれる、その距離感と温もりが嬉しくて、胸の奥が溶けていく。


 最後は、三人揃って俺の左右と背中に座る。言葉はいらない。呼吸だけが同じリズムになり、空気が甘く満ちていく。

 耳に残る囁き、手のひらの余韻、チャームの重み。全部が静かに積み重なり、身体の中心でとろけていく。


 杏奈が小さな声で。

「れー君、今の命令……いちばん好き」

 ふわりが背中で「うんうん」って二回。

 鈴音は耳元で、吐息を混ぜて丁寧に。

「レージ君。鈴音も、です」


 俺は三人の手を探して、ぎゅっと握る。

「ありがとな。……もう少し、このままでいよう」


 呼吸が揃う音の中で、三人の温度をそのまま抱きしめる。

 ――これ以上ないくらい甘く、溶けるような夜だった。


 ~ゲーム14回目 終了~


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