13回目 その2
ふわりの“王宮スパ”で全身がほどけかけた頃、杏奈がぱちん、と指を鳴らした。
「じゃ、続きいこっか♡ “王宮メモリー”! れー君がどれくらい私達のこと覚えてるかチェックしまーす!」
「チェックて……採点あるの?」
「あるよ♡ 満点は“王様ぎゅー30秒”のご褒美。減点のたびに“追試キス(ほっぺ)”してもらいます!」
制度設計が甘すぎて最高。俺は背もたれに体を預け、深呼吸してうなずいた。
「第一問! 杏奈がれー君に初めてお弁当を作った日、メインおかずはなーんだ?」
「……ミートボール。爪楊枝が青い星型だった」
「正解っ♡ しかもその星、青色だったって覚えてるの完璧!」
杏奈が嬉しそうに身を乗り出し、右肩へコツン。心臓が一段、軽く跳ねる。
青は杏奈の好きな色だ。この頃はトレードマークのように身につけているもの何かしらに青を選んでいる。
「第二問~。ふわりが最初にれーじくんへ“あーん”したスイーツは?」
「いちごの……ショートケーキ。上のいちごを最後まで取っておいた」
「ふふ~♡ 覚えてるの、嬉しいなぁ~」
背中からふわりがぎゅっと寄り、長い腕で“布団みたいな抱擁”。体温がとろりと融けて、声が半音下がりそうになる。
ふわりがあまみさんと一緒に作った最初のお菓子がそれだ。
彼女の中で「初めて」とはどれが該当するのか悩ましい所だが、正解を引いたようでホッとする。
「第三問です! 鈴音が陸上を辞めるとき、レージ君が言った言葉は?」
息をのみ、俺は目を合わせた。
「“終わりじゃなくて、鈴音の始まりだ”」
ポニーテールがふるりと揺れ、鈴音が唇を小さく噛んでから、まっすぐ頭を下げる。
「はい……大正解です。ありがとうございます」
その礼が妙にかしこまりすぎていて、俺は思わず笑ってしまい、そっと頭に手を置いた。
鈴音はずっと夢中になっていた陸上を引退直前で怪我によるトラブルで続けられなくなってしまった。
その時の悲しい顔は今でも忘れられない。ちょうど俺も全国優勝を逃して落ち込んでいた時期でもあったので、彼女の気丈な明るさには心を救われたものだ。
「礼はいい。俺が言いたかっただけだから」
むしろ礼を言いたいのは俺の方なのだ。鈴音の明るさ、前向きさ。
それが俺を限り無く日常の明るさへと引き戻してくれたのは間違いない。
杏奈が両手で丸を作り、得点板(手書き)に◎を三つ。
「パーフェクト! じゃあ“王様ぎゅー30秒”、発動~♡」
右側から杏奈、左から鈴音、背後からふわりが、三方向ぎゅーの包囲。
「ひゃ、ひゃくにじゅうきゅー……」
「カウント早いです杏奈ちゃん!」
鈴音の真面目ツッコミ、助かる。俺は笑いながら、三人の髪の香りと鼓動の重なりを、胸の真ん中で静かに聴いた。
◇◇◇
杏奈が引き出しからタオルを取り出す。
「“目隠しハンド当て”っ! れー君の手、繋いだだけで誰か当てられるかな~?」
「いける、多分」
タオル越しに視界が暗くなる。頼りは指先の温度と、掌の厚み、触れ方の癖。
以前に似たような事をやったのだ。いや、もっと過激な事もやったのだ。手の感触くらいお茶の子さいさいよ。
ちなみに今日の目隠しは普通にタオルだった。
ちょっと残念とかは思ってない。ないからな。
「では、一人目。どうぞ」
そっと絡んでくる指、包み込む圧、ふわりの体温は大河みたいにゆっくりあったかくて――
「ふわり」
「正解~♡」
指を離すと、背後で“やったぁ~”と小さなガッツポーズの気配。
「二人目。どうぞ」
迷いのない握り、指先で脈を確かめるみたいな細やかさ。
「鈴音」
「正解です……!」
手のひらがほんのり震えて、すぐに整う。その几帳面さが、鈴音らしくて愛しい。
「三人目」
からかうみたいに圧をかけてきて、わざと指を絡めさせ、手の甲へ親指で小さく円を描く――
「杏奈」
「やーっぱバレちゃうかぁ♡」
目隠しを外す。三人の笑顔が、霞みたいな灯りになってにじむ。
「王様、大正解。ご褒美――それぞれの“指先キス”」
杏奈が俺の指先に、ちゅ、と音を立て、ふわりは優しく包んでから息を吹きかけ、鈴音はぎこちなく触れて、すぐ離れ――顔を真っ赤にする。
視界の彩度が、少し上がった。
ただそこで終わらないのが3人クオリティ…。
その後やった事を具体的に描写すると色々とマズそうなのでひと言だけ…。
指、ベトベトになった…。
◇◇◇
「つぎ~、“王家の紋章”づくり!」
鈴音が色インクと画用紙をテーブルへ並べ、真顔で軍手を配る。
「レージ君、汚れ防止です。……えい」
「おお、ガチ運用」
杏奈が水色、ふわりがピンク、鈴音が黄色、そして俺が透明インク(あとで金粉を振る仕様)。
「じゃ、せーの!」
四人で手形を並べる。青・桃・黄の三色に、最後金粉がふわりと舞って、光をまとう。
「見て、れー君。信号機♡」
杏奈が青の手形を指差し、ふわりが桃色でハートを描き足し、鈴音が黄色で王冠の縁取りをしてくれた。
「これ、王様の家の“紋章”です」
鈴音の声が少し誇らしく響く。
俺は素直に、胸の奥がじんと温かくなるのを感じた。
「いいな。……額に入れて飾る」
「やったぁ♡」
三人の声が、画用紙の白地にやわらかく吸い込まれた。




