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12回目 その1

 その日の放課後。

 俺はいつものように自室に集まった三人の幼馴染みと向かい合っていた。


 しかし、雰囲気はいつもより妙に張りつめている。

 俺のせいで。いや正確には、俺が「モテすぎる」せいで。(言ってて恥ずかしいが……)


「――れー君さぁ」


 口火を切ったのは杏奈だ。腕を組み、黒髪のハーフテールを揺らしながら、俺をまっすぐ睨む。


 その奥にはじっとりとした湿り気のある炎が熱量を溜め込んでいるように見える。


「今日もまた女子から声かけられてたでしょっ? “零士君って本当に格好いい♡”とか“全国準優勝のエース様だ♡”とか!」


「え、あれは……いや、別に俺が声かけさせたわけじゃ……」


 笑顔が怖い。まるで浮気を問い詰められているような気分になってしまうのは自意識過剰だろうか。


「だーめっ!」と、杏奈が人差し指を突きつける。唇に当たった指先はほんのりと冷たく、だけど柔らかくて良い匂いがする。


「あれだけモテモテなのに、私達に対してはちょっと愛が足りないんじゃないの? れー君は私達のお妃様候補にもっと尽くすべきなんだよっ!」


 お妃様候補、というワードに胸がドキンと跳ねる。

 しかしそれを隠す間もなく、ふわりがゆるやかな声で畳みかけてきた。


「うんうん~。昼休みに“ファンクラブの子達”がれーじくんを囲んでたの、わたしも見ちゃったよ~。……わたし達は正室候補なのに~?」


「ふ、ふわりまで!? あれはただの……えっと」


「ただの、じゃないです!」と、鈴音が珍しく語気を強める。

 茶色のポニーテールを揺らし、真剣な眼差しで俺を見つめる鈴音。


「レージ君、鈴音達は“お妃様”なのですよ? なのに学園中の女子からモテモテで……ずるいです!」


 三人の熱量に圧倒され、俺は思わず両手を上げて降参のジェスチャーをとった。


「ま、待て待て! 俺だって、みんなのこと一番大事に思ってるって!」


 即答した俺に、杏奈がニヤリと笑う。いや、ニヘラ~と嬉しそうな顔で笑った。

「なら証明してよ、れー君」


「そーだよ~、れーじくん♡」と、ふわりが頬を緩める。


「今日は正室奉仕の本気を見せてもらうんだからね~♪」


「レージ君、鈴音だって負けません!」


 三人の瞳が一斉にキラリと輝く。

 そして、杏奈が机の上に割り箸をばらまいた。


「さぁ――12回目! 王様ゲーム、開幕だよっ!」


 つまりいつも通りである。


◇◇◇


「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 割り箸を引き当てた瞬間、杏奈の顔がパァッと輝いた。

「やったぁ♡ 正室、杏奈の勝ち~♡」


 その勝ち誇った笑みは、まるで金メダルを取った選手のような自信に満ちあふれていて、俺の胸はドクンと高鳴る。


 杏奈はベッドからひょいっと立ち上がり、俺の目の前へ。

 そして、わざとらしく腰に手を当て、挑発的な上目づかいを向けてきた。


 そういえばこの頃、杏奈は時折自分のことを「杏奈」と言っている事が多くなってきた。


 それは彼女が甘えたい気持ちが前に出てきた証拠ではないだろうかと思う。


「れー君、覚悟はできてる?♡ 正室の本気、見せてあげるね♪」


 その声が、耳朶に甘く残る。俺は反射的にごくりと唾を飲み込んでいた。

 杏奈は小さく息を吸い、制服のシャツの裾に指をかける。


 ――まさか。

 そう思ったときには、もう遅かった。


 ぺろっ、と布が持ち上がる。

 現れたのは、しなやかに締まった腰つきと、滑らかに続く柔らかな肌の曲線。

 そして、小さく愛らしく、でも確かな存在感を放つおへそ。


 俺の視界は、完全にその一点にロックオンされてしまう。


「どぉ? れー君♡ ドキッとしたでしょ~♡」


 杏奈がにっこり笑う。

 それは“分かっていて言っている”顔だ。

 自分の仕草が俺にどれだけの衝撃を与えているか、全部承知の上で、あえて挑発してくる顔。


 ――心臓が、痛いくらいに跳ねる。

 見ちゃいけないと思うのに、どうしても目が離せない。

 杏奈が軽く腰をひねるたびに、お腹のラインが変化し、その度に俺の理性は危うく揺さぶられる。


 くびれの柔らかい起伏。

 その下へと続く布地の影。

 頭の中で警報が鳴る。ヤバい、直視しすぎてる。

 けど――それでも見ずにはいられなかった。


「……したに決まってるだろ!!」


 気づけば、口が勝手に答えていた。

 間を置くこともなく即答。しかも声が裏返る。


 杏奈の瞳がきらりと光り、唇が弧を描く。

「ふふっ♡ やっぱりね。れー君ったら、ほんと素直♡ でも……そこが好きなんだよ♡」


 笑いながら、杏奈はお腹をほんの少し前に突き出す。

 自然と俺との距離が縮まって、目の前いっぱいに彼女のラインが迫る。

 甘い匂いが強まり、俺は思わず背中をのけぞらせた。


 ――これ以上は近すぎる。

 でも逃げられない。

 俺の膝の上に杏奈の髪がさらりと落ちてきて、余計に意識が一点に集中してしまう。


 杏奈は俺の反応を楽しむように、小さく首をかしげて囁いた。

「ねぇ♡ れー君。ちゃんと、わたしだけを見てくれてる?♡」


 その言葉に、喉が詰まった。

 答えを返す代わりに、顔が熱で真っ赤になる。

 杏奈の笑みが、さらに深くなる。


「そっか♡ じゃあ、もっと見せてあげる♡」


 彼女はほんの数秒、裾をさらに持ち上げかけた。

 俺は慌てて声をあげる。

「ま、待て待て待てっ! それ以上はダメだって!」


「えへへ♡ れー君、反応が可愛い♡ だいすき♡」


 杏奈の言葉が、心臓を直接叩いた。

 もう、ギリギリ限界。

 それでも――どこか甘美で、心地よい限界だった。




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