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9回目 その3

 円陣を組むように座った瞬間――三人はにこにこと顔を見合わせ、せーので声を重ねた。


「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 鼓膜をくすぐる甘いハーモニー。

 胸の奥が勝手に跳ね上がる。……いや、もう慣れろよ俺。とは思うんだけど。


「今回は俺に命令させろっ」


「「「はーい♡♡♡」」」


 いい加減振り回されるのもよくないからこっちで主導権を握るしかない。


 だがそんなの見透かしたように3人はニコニコ笑顔だ。


「じゃあ、れー君。命令は?」

「なんでも言っていいんだよぉ、れーじくん」

「レージ君の望みなら、鈴音……どんなことでもします!」


 杏奈が俺の腕をつつき、ふわりがほわんと微笑み、鈴音はまっすぐ俺を見つめる。


 そんな風に言われて、冷静でいられる男子がいるわけない。

 しかもこの三人とは、もう――唇を重ねた仲だ。

 ふとした仕草や笑顔に、そのときの柔らかさや温度を思い出してしまい、心臓が休まる暇がない。


 俺は無難に済ませようとしていた命令を喉の奥に引っ込め、代わりの命令を口にする。


「えっと……じゃあ、その……今日は俺を、もっと甘やかしてほしい」

 俺の言葉に、三人は目を輝かせた。


「よーっし、任せてっ!」


 杏奈が勢いよく立ち上がる。


「んふふ……わたし、れーじくんをトロトロにしちゃうよぉ」


「鈴音、一番にやりますっ!」


「まずは杏奈のターン! はい、れー君、あーん♡」


 スナック菓子をつまみ、俺の口に差し出す杏奈。

 俺が食べようと口を開けた瞬間――


「ん、れー君、ほら♡」

 ぱくっと自分の口に入れ、そのまま……近づいてきた。


「ちょ、ちょっと杏奈!?」

「口移し~♡」


 にやにや笑いながら、俺の唇に柔らかい感触を押し当てる。

 塩気の残るポテトチップスの味と、杏奈の甘い吐息。

 反射的に後ずさろうとするが、腕を掴まれて逃げられない。


「ふふっ、れー君、真っ赤ぁ♡」


 杏奈は勝ち誇った顔で離れていく。


「ん……っ。ふふっ、ディープじゃなかったからセーフだよね?」

 青い目元に似合う小悪魔の笑み。

 俺の心臓はもうセーフどころじゃなく、アウトの鐘が鳴り響いていた。


「じゃ、次はわたしの番かなぁ」


 ふわりがのんびりとペットボトルを持ち上げた。

 ストローなんて使わず、直飲みで一口含む。

 そして――にへら、ととろけるように笑う。


「れーじひゅん、ふぁい……」


 頬をほんのり染めたまま、ゆっくりと顔を近づけてきた。

 次の瞬間、ひんやり冷たい液体が俺の口に流れ込む。


「~~っ!」


 甘ったるいジュースの味に、ふわりの温もりが混じって。

 目を閉じたら、そのまま溺れてしまいそうな感覚だった。


「んふふ……れーじくん、喉乾いてたでしょ?」


 わざとらしく首を傾げながら、ふわりはいたずらっぽく微笑んだ。


 確かにお風呂では(色んな意味で)汗を掻いたから水分不足でカラカラだった。


「次は鈴音の番です!」


 鈴音が真っ赤な顔で立ち上がる。

 お菓子もジュースも取られて出番がない……と思いきや、彼女は両手で俺の頬を包み込んだ。


「レージ君……っ」


 躊躇いがちに目を伏せ、それでも勇気を振り絞るように、唇を重ねてきた。

 ふわっと香る甘い匂いと、震える吐息。


「~~~~っ!」


 短いけれど、まっすぐすぎる想いが込められていて、心臓が痛いほど鳴り響く。


 離れたあと、鈴音は耳まで真っ赤にして――


「う、うへへへ……! やっちゃった……」


 顔を覆って笑っている。まさかのムッツリ反応。


 お菓子の口移し、ジュースの口移し、そして真正面からのキス。

 甘やかすどころか、完全に俺を翻弄して楽しんでいる。


「はぁ、はぁ……お前ら……これは甘やかしじゃなくて……拷問だろ……」

「えー? 杏奈たちの愛のサービスだよ?」

 杏奈は楽しそうにウインク。

「れーじくん、もっともっと、飲ませてあげよっか?」

 ふわりが口を押さえて笑う。

「レージ君……次は、ほっぺにも……」

 鈴音は恥ずかしそうに視線を逸らす。


 ――三者三様の反応で誘惑が止まらない。俺の理性がもつのは、あとどれくらいなんだろうか。


 ◇◇◇


「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 三人の声がそろってリビングに響きわたる。

 お風呂上がりで少し赤くなった頬、髪はまだ半分濡れていて、パジャマ代わりのゆるい部屋着。

 なのに目の前に並んでいるのは、信号機みたいに色分けされた――


 水色イメージで、伸びやかに柔らかな曲線を強調する杏奈。


 ピンクのフード付きワンピを着て、巨乳を隠しきれないふわり。


 黄色のショートパンツ姿で、元気に笑う鈴音。


 ……やっぱり、どう見ても、眩しすぎる幼馴染三人娘だ。


「れー君、れー君、今回は正室命令でしょ?」


 杏奈が腰に手をあて、女王様みたいに指を突きつけてくる。


「ふふっ、でも“奉仕”って決まってるからね。れーじくんは、わたしたちに洗われたり食べさせられたり、される側なんだから?」


 ふわりはにこにこ笑いながら俺の横に座る。その瞬間、ソファが沈んで、巨乳がぐにゅっと腕に当たる。あ、これ柔らかすぎてアウト。


「レージ君……今日は鈴音ががんばるの!」


 鈴音は顔を赤くしながらも、両手にジュース缶を持って得意げに立っている。

 笑い方が妙にいやらしいのに、視線が泳いでいて、本人は恥ずかしさで爆発寸前だ。


 こうして始まった第9回の王様ゲームの続きは、今まで以上にドタバタで、密着度が高すぎる展開になることは、もう火を見るより明らかだった。


「ちょ、ちょっとふわりちゃん! れー君は杏奈が正室だって言ったでしょ!」


 杏奈が前から膝の上に座り込む。


「レージ君……鈴音だって、もっと……!」


 鈴音も横から腕を絡めてくる。


 ――結果。

 俺は、前後左右を完全に囲まれる。

 背中にはふわりの爆乳、前には杏奈の華奢なのに主張の強い胸、右腕には鈴音の小柄で弾力ある体。


「れー君、どこ見てるの?」

「れーじくん、顔赤いよ〜」

「レージ君、嬉しい? 嬉しいんでしょ? ……うへへへっ」


 三人の笑顔が近い。息づかいが耳元にまとわりつく。

 俺は――完全に翻弄され続けるしかなかった。


 それからも、チョコやグミ、キャンディを口移しされたり、

 ストローを交代で共有したり、

 ジュースを「ふーっ」と口移しで飲まされたり。


 そのたびに俺は心臓が爆発しそうになり、

 三人は「キャー♡」「やったー♡」「うへへ♡」と大喜び。


 何度も言うが、これは「王様ゲーム」だ。

 つまり、命令に逆らえない俺は、ただひたすら翻弄されるしかない。


 結局――

 俺は、杏奈の青、ふわりのピンク、鈴音の黄色に囲まれて、

 信号機みたいに鮮やかな三方向の誘惑を受け続けた。


 誰が一番とか、勝敗なんてつけられない。

 三人とも、正室も側室も関係なく、俺を本気で奪いに来ている。


「「「ねえ、れーじ君。次も楽しみだね♡」」」


 その笑顔に押し切られ、

 第9回王様ゲームは、またしても俺の理性を削りながら幕を閉じた――。


 最初に掲げた王様に奉仕する絶対俺だけ王様ゲームは、完全に意味合いとルールが逆転していた。

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