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幕間

 これは7回目のゲームが終わった後の話である。


 杏奈、ふわり、鈴音の3人に対して、なかば愛の告白のような宣言をした。


 彼女達の理性は彼方へと吹き飛び、野獣の如く襲い掛かってくるテンションに、危うく貞操の危機を迎える事になったのである。



 幼馴染みママン達の乱入によってなんとかうやむやにすることができたものの、あれから彼女達の積極的なアプローチに日常がタジタジになってしまったのである。



 例えば学校での話。


 ガラッと教室の扉を開けると、既に何人かのクラスメイトが席に着いていた。

 俺が入った瞬間、視線が一斉に俺に突き刺さる。


「お、おはよ……」


 とりあえず無難に挨拶してみたが、返ってきたのは沈黙。

 いや正確には沈黙じゃない。空気がビリビリ震えている。


 その理由はすぐに分かった。


「れー君っ、おっはよーっ!」


 満面の笑顔で杏奈が駆け寄り、俺の腕に飛びついてきた。

 柔らかい感触が脇腹に当たり、同時に教室の空気が炸裂する。


「うひょおおおおおおおっ!」

「な、なんで土峰の腕に杏奈ちゃんがぁぁぁぁっ!?」

「許せねぇえええ!」


 男子どもが一斉に叫び声を上げた。


 追い打ちをかけるように――


「れーじくん、おっはよ~。ふわりも、ぎゅ~っ」

 ふわりが俺の反対側の腕にふわりと抱きつく。

 195cmの超高身長美少女が、のんびりと俺にしなだれかかってきて、

 その圧倒的な包容感が背中を支配する。


「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ふわりちゃんまで!?」

「なにそのハーレム主人公的ポジション!」


 男子勢は既に阿鼻叫喚。


 さらに追い討ち。


「レージ君っ……お、おはようございますっ!」

 リンちゃんは緊張でガチガチになりながら、俺の机の前に立った。


「ふ、ふ、ふひひ、ふひひひ、レージ君もてもてですねぇ。鈴音もできればその輪っかに入れて頂けると幸いですけどねぇ」

「リンちゃん一緒にハグハグしよーよー」




「きゃあああああああ!」

「なんなのこのハーレムシチュ!」

「リアルでやっていいもんじゃないでしょ!」


 女子達は黄色い歓声で机をバンバン叩く。

 一方男子達はというと――


「うわあああああああああ!」

「土峰! なんでお前だけ!」

「爆発しろおおおおお!」


 怨嗟と絶望の声が、教室に響き渡った。


◇◇◇


 昼休みのチャイムが鳴った瞬間、俺の机は地響きとともに揺れた。いや、正確には杏奈が勢いよく自分の机を俺のにドン!とくっつけたせいだ。


「れー君っ! お昼一緒に食べよー!」


 杏奈はにっこにこで、すでに弁当箱を広げる体勢に入っている。相変わらず元気爆発というか、迷いがないというか……。


「お、おい杏奈、机の位置! 廊下側にはみ出してるぞ!」


「だいじょーぶだいじょーぶ! どうせ食べたらまた動かすんだし!」


 そう言いながら、彼女は俺の机に肘を乗せてにやりと笑う。やばい、なんか妙に距離が近い。


 と、そこへのんびりした声が飛んできた。


「れーじくん……ふわりも一緒に食べたいなぁ~」


 ふわりだ。おっとりと歩いてきて、ぽわんとした笑みを浮かべながら俺の反対側に机を寄せてくる。その動きはスローモーションみたいにゆったりしてるのに、気づいたら完璧に俺を挟む形になっていた。


「ふわりまで!?」


「ふふ……今日はね、ふわりがぁ、お弁当作ってきたんだよぉ」


 ぱかっと弁当箱を開けると、中には色とりどりのおかず。卵焼きにハンバーグに、野菜のグリルまで……うまそうすぎる。


「す、すげぇ……!」


「れーじくん、いっぱい食べてねぇ。ふわりがぁ、がんばって作ったからぁ」


 そのとろけるような笑顔。俺の心臓が危険信号を鳴らす。


 が、その隙をついて澄んだ声が割り込んできた。


「……レージ君。私もご一緒してよろしいでしょうか?」


 鈴音だ。背筋を伸ばして真面目そうに現れるが、手にはしっかり包みを抱えている。


「リンちゃんまで!?」


「はい。私、デザートを用意してまいりました」


 すっと差し出されたのは、小さな手作りプリン。ちょっと緊張したように微笑む鈴音の姿に、教室中がどよめいた。


 鈴音のヤツ……料理苦手なはずなのに、頑張って作ってくれたのか。


 ちょっと胸がときめくじゃないか。




「きゃーーーー!!」


 女子たちの黄色い歓声が爆発。


「ちょ、ちょっと見た!? 土峰(俺の名字)、両手に花どころか三輪車じゃん! 花びら大回転じゃん!」

「うらやましい通り越してムカつく!」

「零士くん、どんだけモテてんの!?」


 男子は男子で机を叩いて叫んでる。


「ふざけんなぁぁぁ! 土峰! 爆発しろ!」

「てめぇ一人で何人独占してんだよ!」

「ラブコメ主人公か! いや主人公だろ!」


 俺は頭を抱えた。頼む、静かに食わせてくれ……!



 更に俺の天国地獄は続く。


 というのも、ここまで露骨じゃないにしてもだ。この3人が俺と弁当を食べるシチュは何度かあった。


 だから今までの俺達と明らかに関係性が変わったことが即座にバレてしまったのだ。



 そしてここからが本当の地獄の始まりであったのだ。



「れー君、はい、あーん!」


「お、おい杏奈! 教室でやるなって!」


「いーじゃん、別にー! はいっ、卵焼きっ!」


 俺の抗議もむなしく、杏奈は俺の口元に卵焼きを突き出す。クラス中が「おおおお!」と騒ぎ出す。


「ちょ、ちょっと杏奈ちゃんずるいよぉ~。れーじくん、はい、ふわりのハンバーグもぉ~」


「お、お前まで!?」


 ふわりがのんびりとハンバーグを差し出してきた。甘い匂いがふわっと漂って、余計に断れない。


「レージ君。私のプリンも……あーん、です」


「鈴音まで……」


 三方向から同時に迫る「あーん」。俺の視界は完全にカオス。


 クラスはすでに爆笑と悲鳴と黄色い歓声の嵐だ。


「零士ぇぇ! 選べぇぇ!」

「なんで全部受け止めてんだよ!」

「でも羨ましいぃぃ!」


「れー君、食べて食べて!」

「れーじくん、ふわりのもねぇ~」

「レージ君、こちらもどうぞ」


 ……俺の口はひとつしかねぇんだって。



「よしっ、じゃあ公平にジャンケンで順番決めよ!」


 杏奈が突如提案。


「ジャンケン!? いや、ここで!?」


「うん! 勝った人かられー君に食べさせられるの!」


「それって俺に拒否権ある!?」


「ないよー♪」


 クラス「うおおおおお!!」


 クラス中が盛り上がっておられる……。完全に見世物だ。


 結果、杏奈が勝ち抜き、俺は強制的に卵焼きを食わされる。ふわりは「ふふ、じゃあ次はふわりねぇ~」とハンバーグを突っ込み、鈴音は「最後にデザートです」と優雅にプリンを差し出す。


 俺は完全にフルコースを食わされた。いや、美味いんだけどさ……!


 そのあとも騒動は止まらなかった。


「れー君、ジュース飲む? ストロー差してあげる!」

「れーじくん、口にごはんついてるよぉ。ふわりがとってあげるねぇ~」

「レージ君、ハンカチをどうぞ」


「お前ら完全に俺を赤ちゃん扱いしてるだろ!?」


「わー! 赤ちゃんプレイ!」

「違うからぁぁ!」


 男子は机を叩いて「爆発しろ!」コール。女子は「きゃー! 尊い!」と盛り上がる。


 完全に俺の昼休みはハーレムショータイムと化していた。


「……あの、れーじくん」


 ふわりが小声で耳元に囁く。


「また今度ねぇ……お弁当、ふわりがぁ全部作ってあげるからぁ」


「なっ……!?」


「ふふ……楽しみにしててねぇ~」


 その破壊力抜群のおっとり笑顔に、俺は危うく白飯を吹きそうになった。


「れー君っ! だったら私も飲み物担当する!」

「レージ君……では私はデザートを」


「お前ら完全にフルコース狙ってるだろ!?」


 クラス「うおおおおお!!!」


 ……昼休み終了のチャイムが鳴るまで、教室はずっとお祭り騒ぎだった。


 ◇◇◇


 昼休みの騒ぎが終わっても、クラスの視線は一日中俺に突き刺さっていた。

 廊下を歩けば「おい、土峰が通るぞ!」とざわつき、階段を上がれば「イチャイチャ三銃士(仮)が来たぞ!」と囁かれる。


 ……いや、誰だよ命名したやつ!


 そんな一日を終えて、放課後。

 チャイムが鳴るや否や、杏奈が元気よく俺の肩を叩いた。


「れー君っ! 帰ろっ!」


「おい、杏奈。お前元気だな……まだ昼の騒ぎの熱冷めてねぇのか?」


「むしろボルテージ上がってるよ! ね、ふわりちゃん!」


「うん~。ふわりもぉ……まだドキドキしてるよぉ」


 ふわりは相変わらずゆったり微笑んで、俺の反対側にぴとっと寄ってくる。ほんのり甘いシャンプーの香りが鼻をくすぐる。


「レージ君。私も……ご一緒してよろしいでしょうか?」


 鈴音は律儀に俺の後ろに立ち、控えめに袖をつまむ。

 うん。完全に三方向包囲網である。


「お、お前らなぁ……放課後くらい自由にしても」


「だーめっ! 放課後こそ勝負どころ!」

「そうだよぉ~。ふわりたちと一緒に帰るの、イヤじゃないよねぇ?」

「もちろん、レージ君に断られるとは思っておりません」


「いやお前ら強気だな!?」


 廊下で見ていた他の生徒たちが「ひゅーっ!」と冷やかす声を上げる。俺は顔を覆った。


 校門を出ると、夕焼けが街をオレンジ色に染めていた。

 並んで歩く俺と三人娘。いや、俺を真ん中に、がっちり両サイド固められてる。


 杏奈は元気にスキップ気味で歩きながら、俺の腕をがっしり掴んでくる。


「れー君、今日はどこ寄って帰る? カラオケ? それともファミレス?」


「いきなり寄り道提案かよ!? 昨日の王様ゲームデートで散々遊んだじゃないか」


「だって帰り道で楽しいことしたいもん!」


 するとふわりが反対側から俺の腕にふにゃっと絡んでくる。柔らかい感触が直撃して、俺の心拍数が加速。


「ふわりはねぇ~……れーじくんと一緒に、のんびりお散歩したいなぁ」


「え、ちょ、ふわりさん!? お前距離近いですぞ!」


「近いほうがぁ……あったかいでしょぉ?」


「ぐはっ……!」


 今度は鈴音が背後からぴたりと寄り添い、囁くように言った。


「レージ君。鈴音は……皆さんのお荷物を持ちますので、どうぞ腕は自由に」


「鈴音……気遣いはありがたいけど、逆に俺の身動きが封じられてるんだが!?」


「リンちゃん交代しよー」

「ありがとうございますふわわん。し、失礼しますおば」


 緊張しすぎて口調が変になっているぞ。




 クラスメイト数名(特に男子)が遠巻きに俺を見て、両手を天に突き上げて叫んでいた。


「土峰ぇぇぇ!!」

「なにその羨ま死刑!!」

「俺の青春返せぇぇぇ!!」


 ……知らんわ!


 ◇◇◇


 歩きながら杏奈が突然言った。


「れー君、あのね。私、今日めっちゃ幸せなんだ」


「え?」


「だってさー! 昼休みも、帰り道も、こうして一緒にいられるんだもん!」


 照れ隠しのない直球に、俺の胸が熱くなる。


 すかさずふわりも微笑む。


「ふふ……ふわりもねぇ……れーじくんと歩くと、時間がゆっくり流れるみたいで……しあわせぇ」


 そのとろけるような声に、俺の頭は軽くショートしかけた。


 鈴音も小さく、でもはっきり言葉を重ねる。


「……私もです。レージ君。皆さんと一緒に歩く帰り道……まるで夢のようです」


 ……ああ。

 この三人、やっぱり俺を殺す気か?


 夕焼けが暗くなり始め、帰宅ラッシュの人々がちらちら俺たちを見ていく。

 そのたびに「なにあのハーレム状態……!」とざわめきが起きる。


 俺は頭を抱えながら、でも心の奥では――とんでもなく幸せを感じていた。




 そんな変わり果てた日常を経験しながら、ゲームは8回目を迎える事になる。


本日はここまで。明日からも投稿していきます。お楽しみください。

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