幕間
「杏奈ちゃんこれ似合う~」
「えへへ~、どうだ~。ふわりちゃんにもこのデザイン似合うと思うから、今度これ基準で作ってみようか」
「うん、いいね」
「うー、鈴音も似合うプロポーションが欲しいですぅ」
「リンちゃんはこっちの方が似合うと思うよ-」
「おーっ、これは可愛いっ。ありがとうございます杏奈ちゃん」
女の買い物は長い。それはいつの時代も不変の真実である。
だが俺はそれを苦痛だと思ったことは一度も無い。
なにしろ幼い頃からずっと慣されてきた事だしな。
3人の買い物に付き合うのはこれが初めてではないし、意見を求められる事にも慣れている。
「れー君、これとこれ、どっちが似合うと思う~?」
杏奈は二つのワンピース手に持って究極の問いかけをしてくる。
これは既に杏奈の中ではどっちにするか決まっているが、俺に正解を引き当てろという女子特有の無茶振りをしているわけではない。
俺はその正解を知っている。
「うーむ、俺はあんなに青を着て欲しいな」
「こっちかぁ、えへへ、さすがれー君わかってるぅ」
杏奈は青が好きだ。だから俺に青を引き当てて欲しいと思っている……そう推理した。
でも、俺はもう一段階発展させた答えで杏奈を喜ばせてやりたい。
「でもな、そっちの白も捨てがたいぞ。青と組み合わせて丁度良い」
「青と組み合わせ……? あっ」
俺の回答の意味に気がついた杏奈が顔を赤くしていた。
小声で『エッチ……』といっている表情がとても可愛らしい。
そう、今の杏奈は青の下着を身につけている。だから上が青で下着も青というのは取り合わせが悪いと思ったからだ。
「えへへ~、じゃあ両方買う~。お小遣いなくなっちゃうなぁ♪」
嬉しそうだ。どうやら正解を引き当てたらしい。
「れーじくーん♪ 今度はこっち~」
「おう、直ぐいく。杏奈、半分出すぞ」
「え~、いいよいいよ。私が選んだんだもん」
「そうは言ってもな」
「それだとふわりちゃんとリンちゃんにも同じ事しないといけなくなるよ~」
「いいんだよ。杏奈は青を選ぶつもりだっただろ? 白は俺の我が儘だ」
「ッ……♡ れー君、あとでチューしてあげる」
「お、おう……ありがと」
どうやらご機嫌ウキウキになってくれたようだ。
「ちゅ♡」
「おっ」
「前菜だよ。メインデッシュは帰ったあとね♡」
「お、おうっ……。じゃあふわりんところ行ってくるな」
「うん、じゃあお会計してくるね」
ほっぺにチューをされて顔が熱くなるのが分かる。さっき唇にキスもしたのにな。こんな事で心が弾むように嬉しくなってしまう俺の心は随分お得にできているらしい。
杏奈に1着分のお金を渡してふわりの所へ向かい、続くふわりと鈴音にも同じ問答をすることになった。
杏奈の予言通り三人分の服を買うことになり、今月のバイトを増やすことが確定したのであった。
◇◇◇
「よーし、次のお店いこう~」
買い物が終わった杏奈に袋を渡される。これもいつものことだ。
「よし、次の店はなんだ?」
だから俺は積極的に荷物を受け取る。荷物持ちは昔からだ。
一時は都合の良い手下扱いされているのでは、と思った事もあったが……。
「いつもありがと♡」
「私も持つよ~」
「いや、この程度なら問題ない」
「れーじくん優し~」
軽い口調のお礼にも、それとは全く違う重みのある感情が含まれていることが分かる。
そう、何故か……分かる……。俺ってテレパシーでも使えるようになったのだろうか。
まあいいか。それで3人と仲良くできるなら望むところだ。有り難く享受しよう。
「それじゃ次は~」
そう、これが想定外だった。今までは意識的にかどうか分からないが、こういう店に連れて行かれるような事はなかった。
それは彼女達が良い意味でも、そうではない意味でも遠慮していたからなのだろう。
今日までの王様ゲームでその意識の遠慮がなくなった今、この選択肢が入った事を喜ぶべきか、嘆くべきか。
「こ、ここは……」
「それじゃあ王様には王妃達の着る下着を選んでもらいましょう~」
杏奈の言葉が突き刺さる。そう、その店とは……。
「し、下着売り場……だと」
男の子が連れて来られるにはハードルの高すぎる店なのである。
針のむしろとはこのことだ。
「あ、このお店、ママがオーナーだからVIPルームあるよー」
ふわりが手招きをすると、当たり前のように店舗の奥へと案内された。
どうやらここはいつもふわりの下着をオーダーメイドしているお店らしく、店員は皆顔見知りのようである。
「私はサイズがないからオーダーメイドになるけど~、杏奈ちゃんと鈴音ちゃんは選び放題だよー」
「わーい」
「うう、鈴音のサイズは逆にないのでは?」
「ちゃんとあるよー」
「それじゃあれー君には私達に似合う下着を選んでもらいましょー♪」
「お、おい正気かお前ら」
そんな地獄のような天国で俺はどんな顔をすればいいのだろうか。
結局杏奈は俺をからかっただけで、女子三人のわちゃわちゃタイムを更衣室の外で聞き続ける事になったのだった。




