25回目 その3
境内の一角、出店の並びから少し外れた広場。
「王様れーじ君を三人で一気に攻めよ~♡」
杏奈の声が弾んだ瞬間、ふわりと鈴音が自然に加わり、俺は三方向から抱き込まれる格好になった。
「ちょっ、待て……ここ神社だからな⁉ 人が……」
俺の抗議は空気に溶ける。
「「「王様、捕まえた♡」」」
右から杏奈の腕が絡み、背後からふわりの長身の影が覆いかぶさり、正面では鈴音が真正面から額をこつんと合わせてくる。
甘い囁きと息遣いに、心臓が境内の太鼓みたいに乱打する。
すると――。
「やだ、若い子たち、初詣からラブラブねぇ」
「おい見ろよ、なんか三人で一人にくっついてないか!?」
「ぎゃはは、零士じゃん! おいマジか!」
屋台で団子を食べていたおばちゃん達、参拝を終えた子供連れ、そして偶然居合わせた同級生たちが一斉にこちらに注目。
「すごーい、王様だってー!」と子供がはしゃぎ、
「零士先輩、年始からやべーな」と後輩が爆笑している。
俺は顔が真っ赤になりながら、必死に耐えた。
「おまえら……頼むから、見られてるって……!」
「見せつけちゃえばいいんだよ♡」
杏奈は耳に唇を寄せ、甘い音を残す。
「れーじくん、公開“王宮”~♡」
ふわりは後ろから顎を肩に乗せ、わざと大きめの声。
「レージ君……鈴音は、この距離を譲りません」
真っ赤な顔のまま、鈴音は俺の手をぎゅっと握った。
ギャラリーから笑い声と拍手がわっと広がる。
「頑張れよー!」
「三人同時とかドラマでも見ねぇぞ!」
「やっべ、インストに上げたい……!」
俺は観念して、小さく息を吐いた。
「分かった……好きにしてくれ」
次の瞬間、三方向から同時に頬へ軽いキス。
「「「王様、大好き♡」」」
境内のざわめきが、初詣の太鼓よりも派手に響き渡った。
俺の頬に三方向から同時キスが降ってきた瞬間、境内はどよめきの渦に包まれた。
「きゃーっ♡」「青春だねぇ!」
おばちゃん連中は手を叩いて笑い、子供たちは「王様ゲームだー!」と意味も分からず叫んで跳ねている。
同級生の男子はスマホを構えて「おい零士、年始から修羅場すぎるって!」と爆笑。
女子たちは「やだ~! 三人とも可愛いじゃん!」と黄色い声を飛ばす。
俺は完全に公開処刑モード。顔が熱い。
「おまえら……まじで見られてるってば……!」
だけど三人は気にするどころか、逆に調子を上げていく。
「ふふん♡ れー君は私のなんだからね!」杏奈は腰に手を当てて高らかに宣言。
「えへへ~♡ でも~、わたしも~♡ れーじくんは“桃色王妃”のもんだよ~♡」ふわりは背後から抱きついて、わざとらしく俺の肩に頬をすり寄せる。
「違います。……レージ君は鈴音の“王様”です」鈴音は真っ赤になりながらも正面からきっぱり。
観衆が「おおーっ」とどよめいた。
「三人同時に“彼女宣言”って、これ漫画かよ!」
「やば、尊い……」
「零士先輩、もげろー!」
杏奈がにやっと笑って、さらに大きな声で叫ぶ。
「ねー、みんな聞いて! れー君ってね、勉強もスポーツもすっごいの♡ しかも優しいんだよ!」
「そうそう~♡ お弁当の時、“おいしい”って言ってくれるんだよぉ~♡ それが、最高なの~♡」ふわりが頬を赤らめて身を揺らす。
「レージ君は……誰よりも覚えてくれる人です。鈴音がうっかりしたことも、必ず気づいてフォローしてくれます」
三人が一斉に「大自慢大会」を始めた。
「え、なに? 逆に俺の宣伝会?」
俺が半笑いで言うと、杏奈がにやっと耳打ちしてきた。
「うん♡ みんなに“れー君すごい”って分からせて、さらに私達が自慢しちゃうんだよ♡」
観衆のボルテージは上がりっぱなし。
「マジで羨ましいんだけど!」
「三人に取り合われるとか一生分の運使っただろ!」
「はい拍手~~~!」
パチパチと境内中から手拍子まで起きてしまった。
お参りのはずが、なぜか「零士公開ラブフェスティバル」になっている。
俺は頭を抱えながらも――心臓の奥は、不思議とあったかかった。
「……ほんと、恥ずかしいけどさ。おまえら……ありがとな」
小さくこぼした言葉は、三人にだけ届いたらしく、杏奈は「聞いた♡」、ふわりは「えへへ♡」、鈴音は「……宝物です」と返してきた。
夜の冷え込みより、三人の笑顔と声の方がずっと強かった。
わいわいと盛り上がるギャラリーを背に、俺たちはやっとの思いで賽銭箱の前までたどり着いた。
夜空には冬らしい星の群れ。冷たい空気の中、鈴の音が澄んで響く。
「よし、ここからは“王宮モード”に戻ろうか」
俺が言うと、三人は顔を見合わせてうなずいた。境内のざわめきも、ここではすこし遠くなる。
杏奈は胸の前で両手を合わせて、瞳を閉じた。
「……れー君と一緒に、これからも笑って過ごせますように」
小さな声だけど、確かに届いた。水色のマフラーが揺れて、吐息が白く広がる。
ふわりはほんのり赤い頬で、ぽやっとした笑みのまま手を合わせる。
「れーじくんと、桃色の日常が、ずっと続きますように~♡」
声が甘すぎて、隣の俺まで気恥ずかしくなる。けど、心臓の奥がやわらかくなるのも事実だ。
鈴音は一歩前に出て、きりっと背筋を伸ばした。
「レージ君と、未来に向けて歩き続けられますように」
その言葉は、祈りというより誓いだった。黄色の着物が月明かりに照らされて、凛として見える。
三人が口々に願った言葉は、俺に向けられていた。
――胸の奥が、熱い。
俺も手を合わせる。
「……俺の願いはひとつだ。三人と一緒に、これからも歩いていけますように」
柏手を打つ音が、夜に吸い込まれていった。
横に並んだ三人は、それぞれ俺を見上げて微笑んでいる。
「ありがと♡」
「えへへ~♡」
「……宝物です」
その瞬間、鐘が鳴った。
境内に集まった人々が一斉に「明けましておめでとう!」と声を上げる。
俺も、三人に向き直って言った。
「明けましておめでとう。今年も、よろしくな」
三人も声をそろえて笑顔で返す。
「「「明けましておめでとう♡」」」
賑やかな人混みの中、四人で交わしたその言葉だけは、不思議なくらい静かに胸に残った。
――こうして25回目のゲームは、新しい年の幕開けと共に締めくくられた。
~ゲーム25回目 終了~




