24回目 その3
商店街のシャッターが一斉に下りていく時間。鉄のきしむ音が、冬の空気に低く響いていた。
そのなかで鈴音が俺の左腕にそっと組みつき、真剣な顔で口を開く。
「王様、歩幅を基準にしてください。三人で揃えます」
その声色はあくまで淡々としているのに、指先は小さく震えていて、密かに楽しんでいるのが伝わってくる。
右から杏奈が俺の手袋を探るみたいに握り込み、指の隙間から絡めてくる。
「れー君と同じ歩幅で歩くって、なんか“夫婦感”あるよね♡」
そんな囁きを耳に受けた瞬間、心臓が歩幅より先に速くなる。
背後からはふわりが大きな手で俺のフードを直してくれる。
「れーじくん、風よけ~。……これで、あったか度三割アップだよぉ~♡」
背中越しの影が、まるごと冬の寒さを遮ってくれるようで、本当に三割どころか倍くらい上がってる気がした。
三人の胸元には色違いのペンダントが揺れていて、歩調に合わせて小さな灯りみたいに揺れる。
青、桃、黄――まるで信号機が俺の真ん中で点滅しているみたいだな、とぼんやり思った瞬間。
カツン、と靴先が三人のうち誰かに触れて、俺の足もつられてよろける。
「わっ」
倒れかけた俺を、左右と背中から同時に支える三つの手。
支えたはずが、三人とも同じタイミングでつんのめってきて、結果的に全員で小さな団子状態に。
「ちょ、近っ……!」
「れー君、バランス崩したらダメだよ~♡」
「むしろ、王様が中心で“倒れにくい”のでは?」
ああだこうだ言いながら、結局みんなで笑い出してしまう。
冬の空気は冷たいはずなのに、俺たちの笑い声で妙に軽くなって、白い息まで楽しげに見えた。
歩幅を合わせるだけで、ここまで心臓に響くなんて。
――やっぱり、四人で歩く道は、特別なんだ。
笑いながら歩幅を整え直した俺たちは、そのまま駅前の大通りを抜けていった。
吐く息が白くなって、頬にあたる風も強くなってきたあたりで、杏奈が鼻先をすんすん鳴らす。
「れー君、あったかい匂いがする……♡」
視線の先には、まだ営業中の移動販売ワゴン。
白い蒸気がカップから立ちのぼり、ココアやチャイの甘い香りが漂ってくる。
「これは寄り道決定だな」
俺が言うと、三人同時に「賛成♡」「いく~♡」「同意します」と即答。
完全にお決まりの流れだ。
◇◇◇
並んで注文したあと、ベンチに腰かける。
杏奈は水色のカップを両手で抱えながら、わざとフーフーと大げさに息を吹きかけてから俺に差し出す。
「ほら、“正室補正”つきココア♡ れー君、一口どうぞ」
あまりに得意げな顔に逆らえなくて、素直に受け取って飲む。甘さが強いのに、不思議と心地よい。
ふわりは自分のマグを持ちながら、後ろから覗き込むように微笑む。
「れーじくん、わたしのはシナモンチャイだよ~。はい、“安心あーん”ね♡」
カップを軽く傾けてくるので、今度は俺が飲ませてもらう形になる。
スパイスの香りとふわりの匂いが一緒に鼻を抜けて、頭までポカポカする。
鈴音は黄色いカップをそっと手渡してきた。
「こちらはレモネードです。ビタミン補給を推奨します」
淡々と差し出してくるのに、目だけはきらきら輝いていて。飲んで「うまい」と言った瞬間、耳までほんのり赤くなるのが可愛すぎる。
三人が「どれが一番?」と同時に詰め寄ってくるけど、選べるわけがない。
「全部だ。三人分、全部でひとつ」
そう答えたら、案の定、三人同時に「……ずるい♡」「えへへ~♡」「正解です」と笑ってくる。
湯気に包まれた小さなベンチ。
街の灯りは少しずつ減っているのに、俺たちの真ん中だけは、まだ明るく温かいままだった。
ホットドリンクで体を温めたあと、少し歩いた先にある神社の鳥居が、冬の空気の中に静かに浮かび上がっていた。
赤い柱に街灯の光が反射して、周囲の空気まで澄んだ感じがする。
「れー君、寄ってこ? せっかくだし♡」
杏奈が俺の袖を軽く引っ張る。目はもう「決定」って顔してた。
「れーじくん、お賽銭投げたい~♡」
ふわりは財布を取り出しかけて、こぼれそうになる小銭を慌ててキャッチ。なんでそうドジるのに愛嬌で許されるんだ。
「レージ君、縁起を担ぐのは良いことです。試験や大会でも、こういう気持ちが効いてきますから」
鈴音の言葉はいつもの理屈っぽさなのに、耳までほんのり赤い。寒さだけじゃないだろ。
◇◇◇
石段を登って境内へ。
手水舎の水は冬の空気を切るように冷たいのに、三人と並んで手を清めると、不思議と心がすっと落ち着いた。
お賽銭箱の前で横一列に並ぶ。
杏奈が先にパンッと手を合わせる。
「れー君との大学生活、全力で楽しめますように♡」
欲望がストレートすぎる。
ふわりはゆっくり両手を合わせて、少し目を閉じた。
「れーじくんの毎日が……あま~く、安心で満たされますように~♡」
神様にお願いする内容が甘すぎて、逆に真剣みたいに聞こえる。
鈴音は最後に深々とお辞儀して。
「レージ君と、ずっと隣で歩めますように。……この願いは“更新不要”です」
神様も思わず「承認」って言うレベルの真剣さだった。
俺は小銭を投げ入れて、三人の横顔を見ながら願った。
「三人が笑っていられる日常が、ずっと続きますように」
そう心で呟いた瞬間、視線が三方向から重なった。
――言わずとも通じてる、ってやつだ。
◇◇◇
帰り際、石段を降りながら杏奈が笑う。
「れー君、今のお願い……聞こえちゃったかも♡」
ふわりは両手で頬を覆いながら「えへへ~♡」とゆるみきってる。
鈴音は眼鏡を直しつつ「……最高の“記録”です」と呟いた。
冬の神社の静けさの中で、胸の奥までじんわり温まる寄り道になった。
神社を後にして、街灯に照らされた道をゆっくり歩く。
イルミネーションの余韻が遠ざかるにつれて、空気は静けさを増し、吐く息だけが白く浮かんだ。
俺の右に杏奈、左に鈴音、背後にふわり。いつものフォーメーションなんだけど、今夜は妙に“しっとり”していた。
寄り道を重ねて笑い尽くしたあとに訪れる静けさって、胸の奥に落ち着きを置いてくれるんだな。
「れー君、今日の“寄り道ラリー”……満点だったね♡」
杏奈がわざと肩をぶつけてきて、照れ隠しみたいに笑う。
「れーじくん、ぜんぶ楽しかった~♡ でもね、一番は……やっぱり“一緒に歩いてた時間”だよぉ~」
ふわりの声はゆるいのに、言葉の芯は真っ直ぐだ。
「レージ君。結論として、“今日という一日”自体が最優秀賞です」
鈴音は真面目な声色なのに、目尻がやわらかくて。冷たい夜気の中で、彼女の吐息さえ温かく感じた。
俺は三人の顔を順に見て、小さく頷いた。
「――そうだな。全部まとめて“今日”が最高だ」
言った瞬間、三人の手が自然に俺の手を探してきて、左右と背中でしっかり繋がる。
その一体感のまま、街の灯りが遠くなる道を歩き続けた。
笑い声も、囁きも、全部が“今日の締め”にふさわしくて、彼女達のことがもっともっと好きになるのだった。。
~ゲーム24回目 終了~




