24回目 その2
杏奈が提案したルールは「冬休みの抱負を言いながら王様を甘やかす奉仕」。
しかも順番ではなく、三人同時スタイル。
ふわりは俺の肩をもふっと包み込みながら「冬休みはねぇ~、いっぱいお料理練習するの~♡ れーじくんのお腹、しあわせにしたいから」
杏奈は机に手をついて顔を近づけ、「私は冬休み、毎日れー君に“かわいい”って言わせる! ほら、今から♡」
鈴音は手帳を広げ、「冬休みは“王宮新聞・冬期特別号”を毎日発行します。れー君の記録を完全保存版に」
三方向から寄せられる声と熱量に、正直息が詰まりそうになる。
でも、それが心地よい。
放課後、寄り道ルートに追加されたのは――プリクラ機。
駅前のゲームセンターの一角、やたら白い光を放つブースが「どうぞお入りください」とでも言いたげに鎮座している。
「れー君、今日の記録はここで撮るの♡」
杏奈が当然のように腕を引く。いや、もう引かなくても入るつもりだったけど。
「れーじくん、これって、四人で撮れるのかなぁ~?」
ふわりは背後から覗き込む。195センチの巨体がプリクラの白壁に反射して、もう既に画面効果いらないレベルで映えてる。
「人数制限は書かれていません。理論上、四人入れます」
鈴音が冷静に言うけど、目はちょっとキラキラしてる。こういうイベント、密かに好きなんだろうな。
というわけで――ぎゅうぎゅう詰めのプリクラ機に、俺たちは押し込まれた。
狭い。いや、ほんとに狭い。
杏奈は当然の顔で俺の右腕に絡みつく。
鈴音は左隣に控えめに座るけど、その手はしっかり俺の手の甲を押さえていて。
ふわりは背後から「ソファ代わり~♡」とでも言うみたいに俺の肩にあごを乗せてくる。
(いや近い近い。呼吸どころか、心臓のリズムまで共有されてるぞこれ)
機械の無機質な音声ガイドが響いた。
《ピース!》
三人同時に「はいっ♡」と動く。俺は遅れてピースを上げる。シャッター、パシャ。
《変顔!》
「ふふっ、れー君、全力で!」
「ほら、こうやって~」
「……記録に残りますけど」
三人の圧に負けて、仕方なく顔を歪める。パシャ。……これ後で見返すの絶対罰ゲームだろ。
《ぎゅー!》
はい来た。最大の難関。
杏奈が正面から抱きつく。
鈴音は遠慮がちに、でも腕をそっと回してきて。
ふわりは背後から「ぎゅー♡」と完全に包み込む。
結果、俺は三方向から同時に押しつぶされる羽目に。
(……てか三人同時ぎゅーって、どんなレア演出だよ。これプリクラ機に登録されるのか?)
光がまたパシャリと弾けて、フラッシュに目を細める。
たぶん今の瞬間、俺は最高に幸せそうな顔をしてたと思う。
数分後、機械からシールが排出される。
背景は偶然にも青・桃・黄のストライプ。
「ほらっ、“王宮仕様”だ!」杏奈が即座に声を上げる。
「信号機~♡」ふわりが笑う。
「統計的に、この色配置は偶然ではありません」鈴音は真面目顔。
俺はシールを見て、つい笑ってしまった。
「いや、もう世界が完全にお前らに合わせてるだろ」
三人の笑顔が重なって、狭いブースの中がやけに明るくなった。
たった数枚のシールなのに――これもまた、俺にとっては宝物になっていくんだろうな。
◇◇◇
クリスマスの夜の名残がまだ街灯に残る帰り道。
俺たちはつい気まぐれでコンビニに寄った。
ガラス戸を押して入ると、暖かい空気と甘い匂いが一気に包み込んでくる。
並んだスイーツ棚の前で、三人は同時に足を止めた。
「れー君の“最初の一口”、ぜったい私が選ぶんだから♡」
杏奈は得意げに、チョコクロワッサンを片手に掲げる。水色マフラーがふわっと揺れて、まるで本物の司会者みたいに。
「わたしは“甘いの担当”~。れーじくんには、このプリン! すっごくなめらかなんだよぉ~♡」
ふわりはマグネットのように吸い寄せられて、桃色のパッケージを両手で差し出す。顔はすでに“あーん”する準備完了。
「王様には、冷静な判断が必要です。ここは“おにぎり”が最適解。梅・鮭・昆布、どれでも選択可能です」
鈴音はおにぎりを三つ手にして、まるで軍略の布陣を並べるように見せてくる。参謀モード全開だ。
三人三様の“最初の一口”。
俺は、冷蔵ケースの前で完全に板挟みになった。
「いや、同時にやられても選べるかっ!」
反射的にツッコんだ俺の声に、レジ横の学生カップルがクスクス笑って振り返る。
やばい、俺たち、傍から見たら完全にコントだ。
結局、三人の猛プッシュに押し切られ、会計を済ませた俺たちはコンビニ前のベンチに並んだ。
夜の冷気に吐く息が白く混ざる。街灯の下、袋をがさっと開けた瞬間、三方向から攻撃が始まった。
「れー君、はい、クロワッサン♡」
「れーじくん、プリンだよ~♡ あーん♡」
「レージ君、梅おにぎりです。早く口を開けてください」
三つの手が同時に迫ってくる。
俺はたまらず両手を広げて叫んだ。
「だから、一遍にできるかっての!」
通りすがりのサラリーマンまで笑ってる。
けど三人は気にする様子ゼロで、同じタイミングで声を揃えた。
「「「はい、王様♡」」」
ベンチの上で、笑い声と食べ物の甘い匂いが混ざり合う。
ただのコンビニ寄り道が、いつのまにか“王宮イベント”に変わっていく。
俺は肩をすくめつつ、でも確かに、胸の真ん中はじんわりと温かくなっていた。




