幕間
カーテンの隙間から、冬の朝日がうっすら差し込んでいた。
まだ部屋の空気は冷たいのに、布団の中だけはやたらとぬくもりが濃い。俺の右と左、背中側、全部が柔らかい。――いや正確には、三人に挟まれてる。
杏奈は右腕にぴったり絡みついて寝ていて、頬がくすぐったいくらい近い。寝顔まで「勝ち誇ってる正室」みたいなのはズルい。
ふわりは背中に体重をかけて、呼吸のリズムがゆっくり伝わってくる。時々「すぅ~」って間延びした寝息を立てて、こっちまで眠くなる。
鈴音は左手をしっかり握ったまま寝ていて、眉間にちょっとシワ寄せてるのに、口元だけはゆるんでた。夢の中でも几帳面なんだろうな。
案の定というか、三人にがっつり密着されてて身動きが取れない。
まるで三方向から布団ごと包囲されてる感じだ。
……っていうか、三人とも布団の位置ほぼゼロ距離。これ、どうやって朝起きるんだ?
少し身じろぎした瞬間、杏奈がむにゃっと目を開けた。
「……れー君、おはよ♡ ……へへ、やっぱ夢じゃなかった」
そのまま腕にぎゅーっと力をこめてきて、俺は身動きできなくなる。
今度は鈴音が目を開ける。
「……おはようございます、レージ君。……えっと、その……手を握ったまま寝てしまいました」
「いや、むしろ安心して寝れたから良かった」って言ったら、耳まで赤くなった。
最後にふわりが、背中越しに「おはよぉ~♡」って声を伸ばす。
「れーじくん、あったかい~。もうちょっと、このまま……いい?」
背中の圧がさらに増して、完全にサンドイッチ状態。
……なんだこれ。朝から胸の真ん中が甘すぎる。
窓の外では冬らしく冷たい空気が流れてるのに、この部屋の布団の中だけ別世界みたいだ。
俺は三人の顔を順に見て、小さく笑った。
「おはよう。今日も“王宮”は万全だな」
杏奈がくすっと笑って、ふわりが背中に頷きを二回。鈴音は小声で「はい」と答える。
その返事が三重奏みたいに重なって、冬の朝をやわらかく満たしていった。
寝ぼけ頭で「幸せだなぁ」なんて思ってたら――ふいに杏奈がむくりと顔を上げる。
「……あれ? スンスン……れー君、なんか匂うよ?」
すん、と鼻を鳴らして、俺の胸元あたりを覗き込んでくる。
ふわりも後ろからぴとっと顔を寄せてきて、長い髪が頬に触れる。
「んん~……くんくん、ほんとだぁ~♡ なんか、あま~い匂いする~」
鈴音も控えめに布団をめくる。ふわっと空気が入れ替わって、香りが一気に濃くなった。
「す~、むむ、……! これは……なるほど、そういうことですか」
頬を赤くしつつ、でも逃さない視線でこちらを見る。
なんだ? なにをそんなに……と、そこまで思考して自分の異変に気がつき、一瞬で完全に目が覚めた。
状況を理解して、心臓が爆発しそうになる。
【悲報】俺の青春活火山、噴火
「ちょ、待て待て! 違うんだこれは! いや、違わないんだけどっ」
三人の表情が一斉ににやっと変わった。
「ふふっ♡ れー君ってば、言ってくれればいいのに~。私達、“サンタさんの追加サービス”くらいできたんだからさ♪」
にじり寄って、耳元で囁く杏奈。声が甘すぎて背筋がゾワゾワする。
追加ボルケーノをかましてしまいそうになる。
「えへへ~♡ わたし達に任せてくれたら、“安心ゲージ”も、“甘やかしゲージ”もフルチャージだったのにねぇ~」
背中をぽん、と撫でながら、あくまでのんびりした口調で刺してくるふわり。
「……レージ君。もし困ったら、“お願い”すればよかったんです。鈴音達は、常に待機していましたから」
そして鈴音はといえば真面目に言うから余計に恥ずかしい。
耳まで真っ赤になってるのに、俺を見上げる瞳はずるいくらいまっすぐ。
俺が必死に言い訳しようとしても、三人は楽しそうに笑って、次々に言葉を重ねる。
「でもね、れー君。昨夜プレゼント交換したでしょ? 今朝のこれは――れー君から私達への“隠しプレゼント”ってことにしといてあげる♡」
杏奈が勝手にまとめに入る。
「うんうん~。“特別版クリスマス”ってことで、アルバムに追加しちゃお~」
ふわりが無邪気に笑う。やめろ。確実に黒歴史だ。
「記録……は、さすがに控えますが。心にはちゃんと、保存しておきます」
鈴音がぽつりと付け加える。だからそれは黒歴史だって。
三人の目は優しくて、でもちゃっかりからかっていて。俺は顔から火が出そうになりながら、ただ小さく呟くしかなかった。
「……勘弁してくれ」
◇◇◇
俺は深呼吸してから、机の引き出しに忍ばせておいた小さな箱を三つ取り出した。
夜の空気に、ほんの少しだけ緊張が混じる。
ちなみにちゃんと着替えた後だからな。
「……実は、俺からも渡したいものがある」
三人が同時にこちらを振り向いた。驚きの色が入り混じる表情。
その顔を見た瞬間、胸が熱くなった。
三つ並べた小箱を、俺は両手で差し出した。
「今はガラス玉だけど、ちゃんと宝石にして渡せるように頑張る。その時までの約束として、受け取ってほしい」
杏奈・ふわり・鈴音――三人の手が同時に伸びて、それぞれ自分の箱を握る。
「せーのっ♡」
杏奈の掛け声に合わせ、三人のリボンが一斉にほどかれた。蓋が開く音が重なり……そして。
「――――っ♡♡♡」
三方向から、空気を震わせるような歓声。
杏奈は、水色のガラス玉を胸の前に掲げ、瞳を限界まで輝かせていた。
「れー君……っ♡ 水色……私の色……! こんなの、もう、ずるい……っ♡♡ 嬉しすぎて、どうすればいいの!?」
涙が一粒こぼれた瞬間、彼女はもう俺の胸に飛び込んできていた。
ふわりは、桃色の光を両手でそっと包み込んで、そのまま頬にすり寄せる。
「わぁぁ……♡ れーじくん……これ、わたしの色だよぉ……っ♡ 胸がぽかぽかして……あったかすぎて、もう溶けちゃう……♡♡」
声が震えたかと思えば、次の瞬間、大きな腕で俺をふわっと包み込む。体ごと、優しく、でも確かに捕まえられる感覚。
鈴音は、黄色のペンダントを見つめながら、両手をぎゅっと握りしめた。
「……レージ君……っ♡ これを……鈴音に……ありがとうございます……っ♡♡ 嬉しすぎて……胸が苦しいくらいです……!」
耳まで真っ赤にして、それでも小さな手を強く俺の指に絡めてくる。
三人の胸元でそれぞれの色が同時に灯る。水色、桃色、黄色――夜のイルミネーションと呼応するみたいに輝き、まるで世界全体がその瞬間を祝福しているみたいだった。
同時に抱きつかれ、前後左右から甘さに埋もれる。
視界いっぱいに、三人の涙と笑顔と光が混ざり合って、胸の奥が一気に熱くなる。
「ありがと……♡ ありがと、ありがと……♡」杏奈が何度も繰り返し、俺の胸に顔を埋める。
「一生の宝物だよぉ……♡ ずっと首にかけてたい……♡」ふわりが俺の背中を何度もぽんぽんと撫でてくる。
「鈴音も……絶対に失くしません……一生、大事にします……♡♡」鈴音は俺の指を離さず、小さく震えながらも、強い目でそう言った。
三つのペンダントが触れ合って、ちりん……と小さな音を立てる。
涙と笑顔と「大好き」が一斉に重なり合う瞬間――胸の真ん中が、今までで一番甘く満ちた。
――あの瞬間、俺は確信した。
三人にとっての“最高のプレゼント”は、この関係そのものなんだ。
そして俺にとっても、間違いなくそうだ。




