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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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手料理と教師

 そわそわ、そわーり。

 試験会場のすぐ外で、ユリが落ち着かない様子で身体を揺らしていた。

 試験は、それなりに上手くいった。

 結果はわからないが、トラブルは無かったし、勉強した内容が飛ぶようなことも無かった。

 後は、ヴェルディーゼが来るのを待つだけである。


「……うぅ。主様、早くぅ……寂しいですよ〜……」


 随分とがらんとした試験会場の外で、ユリがぽつりと呟いた。

 ちらほらと人影はあるが、大半は既に帰ってしまったのだろう。

 終わった、みたいな顔で空を仰いだまま動かない人とか、へ、へへっ……と、引き攣った笑い声を上げている人とか、試験が散々で絶望しているっぽい人くらいしかここにはいなかった。

 そんなわけでユリが居心地悪そうにそわそわしていると、足音が近付いてきた。

 ぱっとユリが顔を上げると、そこには少し申し訳無さそうな顔をしたヴェルディーゼがいる。


「ごめんね、ユリ。遅くなった」

「ぁ……主様っ! もう、本当ですよ! みーんな帰っちゃって、すっごく居心地悪かったんですからね! さ、帰りますよ! それから殴ります! いいですね!」

「殴られるのはあんまり良くないけど、とりあえず帰ろうか。随分寂しがらせちゃったみたいだしね」

「……そ、そんな優しい目で見ないでください。恥ずかしくなってきちゃったじゃないですか。ほ、ほら、帰りますよ! ちゃんとついてきてくださいね!」


 ユリがそう言って歩き出すので、ヴェルディーゼがそっとユリの手を取った。

 そのまま無理矢理手を繋がれて、ユリが頬を染めたまま目を逸らす。

 ユリは一ヶ月間ヴェルディーゼと一度も会っていなかったので、恥ずかしくて普段通りの態度ができなくなっていた。

 照れながらユリがヴェルディーゼに手を引かれて歩いていると、屋敷に到着した。


「……ふぅ、戻ってきた。疲れたー……」

「お、お疲れ様です? ……主様って、結局何するために失踪してたんですか……ちゃんと納得できるような理由を提示してくれないと、私、怒りますからねっ」

「まぁまぁ。先ずは、屋敷に入ろう? それから説明するから。……あと、ご飯作れる? 食べたい。ユリの手作り。食べたい」

「に、二回も言わなくても、別にそれくらいは全然やりますけど……簡単なものでもいいですか? 一人だったので、料理を凝る気にもなれなくて、大した食材が無くて……」

「いいよ、全然いいよ。なんでもいいからとにかく手料理が食べたい。簡単に、卵焼きとかでもなんでもいいから。サラダでもいいよ。……あ、でも、市販のドレッシングを使われると……ダメ、ユリの手料理が食べたい。その場合ドレッシング作ってもらわないとこの欲求が解消できない」


 一ヶ月後も離れていただけあって、ヴェルディーゼの方も色々と恋しかったらしい。

 鬼気迫る様子でユリに手料理をねだっていた。

 そして、すぐに了承がもらえたので、簡単なものでいいからとにかく手料理をと引き続きせがむ。

 手を握られたままで、至近距離で手料理をお願いされているユリは顔を真っ赤にしてコクコクと頷いた。


「わ、わか、わかりましたから! 入学までは期間もありますし、その間はいくらでも作ってあげられますから、先ずは落ち着いてください! ……また失踪する気だからそんなに手料理食べたがってるとか無いですよね!?」

「ああ、ユリが入学するまではここにいるよ。うん、そうだよね、いくらでも食べられる……よし、落ち着いたよ。じゃあ、説明しないとね。うん……僕は教師として潜入するから、それでちょっと学園の方で色々やってた。研修みたいな感じかな。授業風景の見学とか」

「……ぇ……教、師? ……先生?」

「うん」


 なんだか呆然としているユリに、ヴェルディーゼが内心で首を傾げながらも軽い感じで頷いた。

 そもそも、ヴェルディーゼの肉体は成人男性のものである。

 別に魔法で外見年齢程度どうとでも弄れるが、やはり楽なのは普段の姿。

 それが可能なのであれば、そのままが望ましい。

 ユリとの学生生活に、心惹かれないと言えば嘘にもなるが。


「……まぁ、生徒と教え子って関係も、それはそれで。ところでユリ? そんな顔して、どうしたの?」

「教師って、……教師って……!」

「んん……?」

「顔が良いだけの一般生徒よりっ、攻略対象感が増すじゃないですかぁ! ……私乙女ゲームなんてやったことないけど!」

「あ、そうなんだ」

「しかも若い! いやイケオジ先生も個人的にはアリなんですけど、主様見た目若いじゃないですか! 恋愛も全然可能な感じじゃないですかぁ! 嫌だぁっ、主人公に主様が取られちゃう〜〜〜〜!! 主様は私の主様なのにぃ〜!」


 ユリがそう叫んでヴェルディーゼに飛びついた。

 むぎゅむぎゅと締め付ける勢いで抱きつき、ユリが涙目でヴェルディーゼを見上げる。

 ヴェルディーゼはちらっと寝室の方を見てから目を逸らした。


「なんですかなんですか何で目を逸らすんですか! ……ま、まま、まさか、研修中に主人公に出会っちゃって、もう心を奪われたとか……? ……そ、そんな……」

「断じてそんなことはないから勝手に絶望しないで。僕が愛してるのはユリ一人だから早く手料理を……っと、そうじゃない。……けど、ユリまで錯乱し始めたし……一旦食事にして落ち着いてから再開した方がいいか……」

「うわぁああああん主様ぁあああっ、捨てないでぇ……」

「う、うわっ、本気で泣いてる……!? 大丈夫、大丈夫だから! 僕はユリの手料理が早く食べたいなぁ!」

「ぐすん……作りまず……ずびっ」


 ユリが鼻をすすりながら、緩慢とした動きで料理の準備を始めた。

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