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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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失踪と再会

 それから、五ヶ月後。

 入学試験一ヶ月前のこと。


「あ、主……様? ……なんでぇ……?」


 見慣れた屋敷の中で、ユリが手紙を握り締めてわなわなと震えながら呟いた。

 ただの紙切れのような、ほとんどの場所が白いままのその手紙にはこう書かれている。


『しばらく会えないけど、入学手続きやらは済ませてあるから後はよろしく。 ヴェルディーゼ』


 前日までは何とも無かったし、怒らせたわけでもなんでもない。

 手紙も、怒らせたにしてはあまりにも軽い内容。

 怒らせたわけではないのなら、仕事の関係だろうがあまりにも唐突過ぎる。

 そんなわけで理解の追いつかないユリは、その場で硬直したまま数分の時を過ごした。

 やがて正気を取り戻し、なんとなく理解はしたユリが息を吐く。


「た、たぶん……私が言った、疎外感の……解消の、ため? ……なんです、かね。うぅ、わからない……けど、そんな気がするぅ……?」


 疎外感の解消のために、ユリが自分で試験勉強、及び試験を頑張る。

 そのためにヴェルディーゼは消えた……の、かも? と、ユリがいまいち納得していない顔で首を傾げた。

 仕事のために必要とは聞いているので、ヴェルディーゼがいようがいまいがちゃんとやろうとは思うが、本気でこれで疎外感を解消しようとしたのか、何か他の意図があるのかよくわからない。


「……いや、いやいや……流石にこれで疎外感の解消は……主様にいなくなられると、逆効果でしかないですし。一人で何らかの成果を上げろってことならともかく、学園に入学することは定められたルートでしかないですし。……うん、ないな。流石にそれはありえません。……え、じゃあなんで……?」


 割と真面目に、誰もいない部屋の中でユリが呟いた。

 そのまま数分ほどヴェルディーゼが何を考えているのか推測を続けたユリだが、ただからかわれているだけの可能性もあることに気付いて推測を放棄する。

 とりあえず勉強である。

 それさえやっておけば、恐らく再会できるはずだ。

 ヴェルディーゼだって勉強はしていたので、学園はユリに任せて……ということでもないはずなので。


「もう、しばらくとか曖昧な表現をされなければ、こんなに不安になることもなかったのに。……とにかくやらないと。話は、それから……ですよね? これでいいんですよね、主様……?」


 不安そうな表情で呟いたユリは、すぐにそんな不安を振り払うように勢いよく首を横に振り、いつも使っている机で勉強を始めた。

 いつもの机、いつも通りの時間、いつもはヴェルディーゼが座っている、無人の椅子。

 いつも通りの中に差し込まれた、些細で、ユリにとっては大きな違和感は、酷くその心をざわつかせた。



 そして一ヶ月後、試験会場にて。


「えー、あー……試験官のヴェルディーゼだよ。新任だから至らないところもあると思うけど、まぁ、よろしく。試験頑張ってー」


 何故か試験官としてヴェルディーゼがそこに立っており、ユリは一人頭を抱えた。

 そして、雰囲気こそ変わらないものの普段とも違うきっちりとした服を纏うヴェルディーゼにときめきつつ、呟く。


「……なんでやねん」


 その声が届いたわけではないだろうが、そんな呟きとともにヴェルディーゼの視線がユリに向いた。

 ヴェルディーゼはユリの姿を捉えると、ゆっくりと微笑んでウインクを一つ。

 ユリの心を撃ち抜いてから、すれ違いざまに低く囁く。


「いい子だね」


 わざととしか思えない色気のある声と言葉にユリが気合で頬が赤く染まるのを抑えつつ、キッとヴェルディーゼを睨んだ。

 魔法を掛けているのか、ユリにもヴェルディーゼにも、視線は注がれない。

 しかし、先程わざわざバレないように囁いてきたばかりなので、声は聞こえてしまうのだろうとユリが判断する。


「……っ、……っ!」


 なんでわざわざ姿を消したんだとか、何の意図があったんだとか。

 色々と聞きたいことがあるのに直接聞くことはできないもどかしさに、ユリが声にもならない声のようなものを小さく漏らした。

 ヴェルディーゼはそれを楽しげに眺めつつ、またすれ違った際に囁く。


「もしダメでも、僕が裏から工作してあげるから。落ち着いてやって。……声は、少しなら隣にも聞こえないよう遮断してあげられるからね。答えも教えてあげる」

「……後で殴ります。だから、帰ってきてくださいね」

「うん、今日から帰るよ。……試験が終わったら、すぐそこで待ってて」


 その言葉にユリは安堵した様子を見せて、試験に集中し始めた。

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