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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
乙女ゲームの世界

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早速始まる試験勉強

「異世界〜、とうた〜っつ! いえーい!」

「……いえーい」

「!?」


 中世のような街並みと雰囲気に上がっていくテンション任せにユリが叫ぶと、やる気のない声でヴェルディーゼがノッてきた。

 それに驚いて固まるユリをヴェルディーゼが抱き上げつつ、じとりとユリを睨んだ。

 そんな反応をされるとは思っておらず、別にふざけることもあるのにと不満に思っているらしい。

 ヴェルディーゼがそんな風に珍しいほど拗ねるので、ユリが一生懸命その頭に手を伸ばして宥める。


「ご、ごめんなさい、珍しかっただけなんです! だから、機嫌を直してください……」

「……ん。目的は達したから、いいよ」


 ヴェルディーゼがそう言いながら、後ろ手で扉に鍵をかけた。

 ユリが固まり、きょろきょろと周囲を見る。

 先程までは、街の中にいたはずである。

 決して建物の中にはいなかったし、宿を取ったような素振りも無かった。

 なら、この建物は一体、とユリが部屋の中を眺める。

 何の変哲もない、過ごしやすそうな部屋である。

 城にあるユリの部屋よりは狭いが、それでもかなりの広さがあることが一目でわかる。


「……な、なんです、ここ。何か家具も高級そうですし……な、なに、不法侵入……?」

「違うよ、創世神の家」

「……はい?」

「今回の創世神は協力的でね。しばらく行けないからって、世界を実際に歩いて確認する時に家として使ってる屋敷を貸してくれたんだ。もちろん、荒らさないように何度も釘を刺されたけど。しつこいくらい」

「……良かっ、た、ですね……? ……いやなんで閉じ込められたんです!? いやまぁ内側から鍵は開けられますけど、そこにいられると出られないんですけど!? ……隙を突けたとして……だ、駄目だ、鍵を開けてる間の一秒とかで捕まる……」


 ユリが震える声で呟くと、ヴェルディーゼが苦笑いした。

 そして、扉の前から移動してユリの肩を押して机の前に座らせる。

 そのままヴェルディーゼはユリが逃げないようにその肩を掴みながら、机の上に何冊かの本を出した。


「……な、なんです、これ」

「本。……一緒に勉強、しようか」

「な、なな、……何故、です……?」

「いや、だってね。世界が安定してきて、今は丁度、まぁなんというか……原作通りに話が進んでるみたいなんだけど。……舞台が、学園で。入学するには勉強しないと」

「地獄の受験勉強の再来……!?」

「ああ、ユリの頭ならそう難しくはないはずだよ。地球ほど発展してないからね、色々。学問についても」

「……はえー」


 ユリがそんな間の抜けた声を漏らしながら適当に本を開いた。

 そこには、魔法の起源や過去の伝説が書かれており、ユリがバンッと本を閉じる。


「嫌なものが見えました! まさか暗記しなきゃいけないんですか!?」

「……あー。いや、記憶力はいいでしょ?」

「できるけど嫌いです。どうせすぐに忘れるものをどうしてわざわざ覚えないといけないんですかぁ! 歴史を知って何になるんだぁ!」

「……教養?」

「ふぐぐ……。……やらないとだめですか? 主様ぁ」

「猫被ってもダメ、バレないように魔法で記憶力は上げてあげるから、大人しくやって」


 ヴェルディーゼにそう言われ、ユリがしょんぼりと肩を落として机に突っ伏した。

 そして、チラリと背後の鍵を掛けられた扉を見る。

 ヴェルディーゼがにっこりと微笑み、圧を掛けてきた。


「……はいはぁい、やりますとも。はーぁ……いつまでにやれば?」

「ええと……丁度半年後だね」

「今やる必要あります?」

「毎日三十分でいいよ。近付いてきたら本格的にやらせるけどね」

「怖い……ぁい、やります……」


 ユリがそう言い、ヴェルディーゼの指示通りに本に向き合い始めた。



 それから一時間後、勉強から解放されて三十分が経過したユリは、ソファーに凭れてとても緩んだ顔を晒していた。

 何やらぽわぽわしているユリをヴェルディーゼは微笑ましく眺めつつ、手元の本をいじくる。

 ユリは頑張った、とても頑張った。

 弱音一つも吐かずについにやり切ったのである。


「やり切りました……私はやり切ったんです……ふ、ふへ、ふへへ……」

「……うん。三十分間の勉強を、ね」

「ひぃ、言わないでぇ……今は現実逃避タイムなのにぃ……主様の意地悪……」


 何か偉大なことを成し遂げたみたいな顔をしているユリに、ヴェルディーゼが微笑ましそうな表情のままちくりと棘を刺した。

 頑張ったことを否定はしないが、そんな満足げな顔をされてもじゃあこれからの勉強を減らそうとか、そんなことにはならないので。

 何せ、ユリはそれを狙ってこんな風になっているのである。

 集中していたので、気が緩んだことによる疲労やらはあるだろうが、それでもユリは意図してこうしている。

 というわけで、ヴェルディーゼがぽんとユリの肩を叩いて笑いかけた。


「そんな態度取っても何も起きないから、僕を上手く誑かして勉強を減らしてやろうとか考えるくらいなら大人しく休んで自由時間を楽しんだ方がいいよ。たかが三十分でしょ」

「たかが三十分、されど三十分っ……! ああ、あの三十分があればなぁ……って、思う日が来るかもしれないですよ!」

「ふぅん。……僕が傍にいる時点で、ユリがそう思うことは無い気がするけど」

「そんなことは……、……あながち否定できませんね……少なからず、主様が見てるから頑張ろうとは思っていたわけで……勉強は嫌いですけど、主様との時間は大歓迎ですし……終わったら褒めてくれますし……あれ、意外と悪いこと無いな……」

「そっか、良かったね」

「はい」


 ユリが頷き、だらりとまた休息を始めた。

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