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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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お別れ

 クロイレの執務室にて、ユリが少し困ったような顔をして部屋の主と向き合っていた。

 クロイレは少し寂しそうな顔をしており、ユリが更に眉尻を下げて微笑む。


「ごめんなさい。もう少しここにいたいのは山々なんですけど……」

「あ……ごめんね、こんな顔したら行きづらいよね。大丈夫だよ、引き止めるつもりはないし……私はしばらくここから動けないから、引き止めたところで遊んだりはできないし。……ただ、たまには顔を見せに来てくれると嬉しいな。しっかり二人が来たら通すように通達はしておくから」

「それは、はい。私も主様に抗議はしたんですけど……二日しか伸ばしてくれませんでした。むぅ、もっとクーレちゃんと話したかったのに」

「……何度も言ってるけど、長居したくないんだよ。クーレは嫌いじゃないし、ユリの願いは叶えてあげたいけど……そろそろ帰りたい」

「……わかってます。譲歩して二日伸ばしてくれたんですよね、ちゃんとわかってます……わかってるんですけど……」


 しょんぼりとした顔でユリがクロイレを見た。

 譲歩はしてくれたと理解はしていても、別れを惜しむ気持ちは変わらない。

 もう少しくらい、という不満もあるが、我儘を言っていることもちゃんとわかっている。

 ヴェルディーゼが早く帰りたがっているのは、仕事のこともあるし、ここでは心配で気が気でなくなってしまうからだ。

 だからユリはこれ以上何か言うのはよそうと決めて、再度クロイレを見る。


「……では、改めまして。クーレちゃん、お世話になりました。お体には気を付けて。仕事のし過ぎは駄目ですからね。あと、あと……」

「ふふ。ユリも、体調には気を付けてね。怪我もしないように」

「……はい。また会いましょう、クーレちゃん。お元気で」

「うん、元気で。ヴェルディーゼも」

「……ん。まぁ、大丈夫だとは思うけど……国王だし、暗殺とか色々気を付けるようにね。じゃあ、また」


 三人がそれぞれ別れの挨拶を告げ、ユリとヴェルディーゼは部屋を去った。

 その後ろ姿を眺めて、クロイレは執務机へと沈む。


「……そっか、私……お別れなんて、久々だから……屋敷でのお別れは慌ただしくて、感傷に浸る暇も無かったしね。……寂しいなぁ」


 呟きとともにクロイレが一度目を閉じて、意識を切り替える。

 寂しいが、いつまでもこうしてはいられない。

 だって自分は国王なのだから、もっとしっかりしなければ、と。


「……よし。頑張ろう」


 クロイレが気合を入れ、書類を手に取った。



 その日の夜。

 クロイレはクレリスに呼び出され、城の片隅に立っていた。

 少し待つと、ゆっくりとクレリスが歩いてくる。


「……あ、クレリス。待ってたよ。こんな夜に呼び出すなんて、どうしたの」

「国王陛下」

「……ん、何? いつもは名前で呼ぶのに……」


 不安そうにクロイレが尋ねれば、クレリスがゆっくりと息を吸った。

 そして、胸に手を当てて深く頭を下げる。

 唐突な行動にクロイレが目を見開いて、慌てて頭を上げさせようとする。

 しかしクレリスは頑なに頭を上げず、そのままの体勢で言った。


「申し訳ございません。……クロイレ様、どうか……どうか、私の不義理をお許しください」

「……クレリ、ス? 何を言って……わ、わからないよ、どうしてそんな唐突に……」


 クロイレは何か嫌な予感を感じて、震える声でそう言いながら弱々しく首を横に振った。

 しかし、クレリスは微動だにせず、その顔を見せることもせずに言葉を続ける。


「ここで、お別れです。私と陛下は、もう顔を合わせることもありません。……さようなら」


 一方的に告げて、クレリスは走り出した。

 クロイレが息を呑んで、早鐘を打つ鼓動をそのままに焦った表情でクレリスを追いかける。


「待っ、て……待ってよ! なんで、クレリス!? お願い、何かしたなら言って! もし、もしもクレリスが何か悪いことでもしちゃったのなら……酷いことはしないから! お願い、話して……! 止まってよ!! 待って、行かないで!」


 クレリスが曲がり角へと進み、その姿が壁に遮られて消えた。

 クロイレはそれを追いかけ、曲がり角へと飛び出す。


「クレリス……!!」


 そこには、誰もいない。


「……え?」


 曲がり角で一時的に姿が見えなくなっただけで、そこに分かれ道などない。

 部屋だって無い。

 だと、いうのに。


「クレリス……? ……なん、で……どこに……?」


 どこにもいない。

 奥へ進もうが、道中の扉を開けようが、そこにクレリスはいない。


「……なんで……離れるなら、せめて……理由くらい……」


 涙に濡れた声が静かな廊下に響く。

 そこには、弱々しく涙を流す少女が一人いるだけで、他には誰もいなかった。

 まるで最初から、その場には彼女しかいなかったかのように。



 月明かりに照らされる城の屋根の上で、ヴェルディーゼが足を組んで眼下を眺めていた。

 魔法で城の中を見れば、少女が一人崩れ落ちるようにして涙を流している。


「……ごめんね、クーレ。だけど、傷を抑えるにはこうするしかなかった」


 言いながら、ヴェルディーゼが背後へと視線を移す。

 そこには、ぴくりとも動かないクレリスがいた。

 ――否、〝あった〟と表現するべきだろう。

 何しろ、それは。


「死体を利用したことだけは、謝罪しよう。もっとも、謝ったところで届きはしないけど」


 クレリスの死体。

 それに、ヴェルディーゼは呟くような声で言って、くつくつと低く笑った。

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