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破れたシーツ

 その後、ユリが完全に疲労してしまったので、2人は城に帰ってきた。

 そのまま各々で寛ぎ、夕刻。

 ヴェルディーゼがユリの部屋に入ってきた。


「ユリ、ちょっといいかな」

「……なんですか?」

「仕事が入ったから、留守番をよろしくね。……あと、顔も見られたかもしれないから気を付けて。ローブには認識阻害付けてたんだけど……一回認識されちゃうとね」

「……すみません……」

「ああいや、ただの事故だから仕方無いよ。……たぶん、大丈夫だと思うんだけど……もしかしたら、万が一……襲撃があるかもしれない。……離れたところから守るのには慣れてないから、守れるかどうかもわからない。怖い思いをさせるかもしれない……」


 真剣な雰囲気のヴェルディーゼにユリが身体を起こして姿勢を正した。

 そして、真っ直ぐにヴェルディーゼを見上げる。


「……僕はユリを守らなきゃいけない立場、なんだけど……絶対守り切れるとは言えない。状況によっては、すぐに助けにも行けない。もし何か変だと感じたら……そうだね。……クローゼットにしよう。クローゼットに隠れて。本来は、直接隠蔽の魔法も掛けられるんだけど……ユリへの影響を考えると、少し難しいんだ。だから、クローゼットに隠れて。入口だけ隠蔽すればなんとかなるはずだから、影響も抑えられる」

「……影響、って……?」

「僕の力は、本来人の身には余る代物だからね。危険物、劇薬と言っても過言じゃないくらい。眷属化を通して馴染ませてるけど、一ヶ月じゃ少し足りない……馴染ませてる間、外部からの強すぎる刺激は無い方がいいんだよ。というか、基本あっちゃいけない。だから、直接魔法は掛けられないし結界も仕掛けておけない。じゃないと、最悪の場合変質して自我すら失っちゃうからね」

「……本当に、なんてことを勝手にしてくれたんですか」

「申し訳ないとは思うけど、そんなこと説明したらやりたくなくなるでしょ。僕は君が欲しいんだ」


 ユリが疑わしげにヴェルディーゼを見たが、何も言わずに目を逸らした。

 そして、ぽすっとベッドの上に倒れながら言う。


「わかりました。気をつけてみます」

「ごめんね……ありがとう。何かあったら、絶対に助けに行くから。見捨てたりしないよ、だから……絶対に助かるから、待っててね」

「……守れなくても……絶対に助けには、来てくれるんですよね」

「絶対に。それは、それだけは約束する。今はただ、色んな状況が重なってるだけだからね。助けることは必ずできる」

「……それなら……大丈夫です。助けが必要な状況にならないことが最善ではありますけど……何かあっても助けてくれるなら。……仕方のないことなんですよね」

「ユリが自我を失う可能性さえなければ結界でもなんでも張るんだけどね。結界は、魔力が籠りやすいから……」

「もうわかりましたから。私は気を付けながら寝ます」

「うん。……行ってくるね」

「はい」


 少し素っ気なく返事をしてヴェルディーゼを見送り、ユリが宣言通りに眠り始めた。



 月が空高くに昇った頃。

 すやすやと眠るユリに、危険が忍び寄っていた。

 魔法により侵入した細い男が、ユリを抱き抱える。


「……う……うんんっ……? ……っ、え、あっ……!?」


 しかし、違和感に気が付いたのかユリが目を覚ましてしまった。

 焦った男は力を込めてユリを抱えてそのまま去ろうとする。


「い、嫌……! 嫌っ……あ、主様! 主様……! ううぅ、いやっ、やだっ、やだぁっ」


 ユリは必死になってそう叫び、ベッドに腕を伸ばした。

 何とかシーツを掴むことに成功し、ユリが力を込めて抵抗する。

 しかしそれも一瞬しか持たず、男がユリを引き寄せるとシーツは元々破れていた場所からビリリと破れてしがみつくことができなくなってしまった。

 シーツがユリの手から離れ、ユリが強張った顔で振り向くとそこには魔法陣が浮いていた。


「……え……?」


 小さく声を漏らしたあと、ユリが目を閉じて崩れ落ちた。

 それを一瞥した男は息を吐き、足早にヴェルディーゼの城から立ち去るのだった。

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