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最高位邪神と転生眷属のわちゃわちゃはちゃめちゃ救世記  作者: 木に生る猫
クローフィ・ルリジオン

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謁見

 いつの間にか眠っていたユリを起こし、二人が馬車から降りた。

 軽く上を見れば、巨大な城が鎮座している。


「ひゃぁ〜……大きい」

「……城には見慣れてるはずだけどね」

「いやぁ、少し久々でしたから。このお城は近くで見るの初ですし。……うぅ、入れるかな……不安になってきた」

「……」


 少し顔色を悪くするユリを軽く抱き寄せ、ヴェルディーゼが息を吐いた。

 そして、目を細めながら、誰に向けたものでもない独り言を零す。


「……状況が状況だ。最悪は、強行突破か。なにはともあれ……」


 そして、呟きとともにユリを見る。

 ユリは緊張を和らげようと必死になっていて、聞かれた様子はない。

 ヴェルディーゼが一度目を閉じ、緩く笑みを浮かべるとユリの頭を撫でた。


「ほら、行くよ。そんなに緊張しなくても大丈夫」

「は、はい……」


 緊張で全身を強張らせながらユリが頷き、ヴェルディーゼとともに足を進めた。

 ヴェルディーゼが城の門の前に立っている兵士のもとへと向かい、声を掛ける。


「アークルズ・クラリアの遣いだ。国王、陛下に謁見したい」


 少し低い声でヴェルディーゼが言うと、その背後に控える形で佇んでいたユリが僅かに身動ぎをして悶えた。

 口調の違いにテンションが上がっているらしく、ほんの僅かにユリの頬に朱が差す。

 怪しまれないよう口調を変えたはいいが、国王陛下という国王を敬うような言葉だけはさらりと言えないヴェルディーゼのことにも気付いているのだろう、それとともに微笑ましげな視線も添えられていた。

 しかし今はそんなことを気にしている場合ではないので、ヴェルディーゼはジッと兵士の様子を見る。


「……知っている顔ではないようですが。証明できるものはありますか?」


 ヴェルディーゼが無言でアークルズから受け取ったナイフを見せた。

 丁寧にそれを受け取った兵士はそれを慎重に確認し、頷きながらそれをヴェルディーゼに返す。

 そして、門を開けるよう指示を出して頭を下げた。


「先ずは客室に案内します。こちらへ」


 無事に遣いであることを認められ、ヴェルディーゼがほんの僅かに笑みを浮かべた。



 それから客室に移動し、ユリはヴェルディーゼと隣り合ってソファーに腰掛けていた。

 ユリがそわそわと落ち着かない様子で身体を揺らし、恐る恐るヴェルディーゼを見上げる。


「……あの。即日謁見とか、できるものなんですかね……?」

「普通はできないと思うけど……ナイフの種類とかで急を要するものだとかがわかるのかもね。あの兵士、ナイフを見てから少し焦ってたから」

「そうなんですか? 全然わかりませんでした……うぅ。国王様、怖い人じゃないといいんですけど」

「……どうだろうね。まぁ、とにかく待とう。そんなに時間は掛からないと思うよ」


 何の根拠があるのかは不明だが、ヴェルディーゼがそう言うのでユリが頷いて国王が来るのを待った。

 それから約三十分後、扉がノックされる。


「国王陛下が参られました」

「うぇっ!?」


 ユリの悲鳴のような声とともに扉が開き、豪奢な格好をした少女が入ってきた。

 バクバクと緊張でうるさいほどに鼓動を早める心臓を必死に落ち着かせようとしながら、ユリが少女――国王を見る。

 どこかで見たことのあるような気がする少女だ。

 そしてそれはヴェルディーゼも同様で、僅かに目を眇める。

 二人の対面に腰掛けた国王は、二人を眺め、優しく微笑む。

 ユリが軽く頬を染めた。


「はじめまして、あなた方がアークルズの遣いですね。ご存知でしょうが……私はクロイレ・ルリジオン。この国を治めています。早速ですが本題に入りましょう、アークルズは何と?」


 国王、クロイレが少し急ぐようにしてそう尋ねる。

 するとヴェルディーゼは無言のまま、しかし恭しく手紙をクロイレに差し出した。

 クロイレはそれを受け取ると、中から便箋を取り出して手紙の内容を確認する。

 中には、クラシロエスの襲撃により街が危機を迎えたため、復興のための支援を送ってほしいという旨が書かれている。

 しっかりとそれに目を通したクロイレは、そっと手紙を机の上に置くと息を吐いた。


「……用件は承知いたしました。すぐに手配しましょう。しかし――」

「一つ、聞いてもいいかな」


 クロイレの言葉を遮る形で、無言を保っていたヴェルディーゼが不敬な物言いで尋ねた。

 ユリが国王相手にそんな口調をしたヴェルディーゼにギョッとし、慌てて頭を下げる。

 クロイレはそんなユリに優しく微笑みかけて大丈夫だとでも言うように首を横に振り、ヴェルディーゼを見た。


「構いませんよ。なんでしょう」

「どうして、ただの領主の遣いである僕達に、そんな口調で接する?」

「……お客様に丁寧に接しては、いけませんか?」


 ぴり、と。

 クロイレの言葉とともに、空気がひりつくのをユリは感じた。

 緊張感が膨らみ、どちらからともなく放たれた圧が空気を圧迫し、ユリが浅く息を吐く。

 どうしよう、と白くなりかける頭でユリが思考し、そして――ふとノックも無しに扉が開け放たれ、人影が一つ、部屋の中へと入ってきた。


「そこまでだよ、()()()()。お客様を威圧するなんて、それこそやっちゃいけないでしょ?」


 入ってきた人影に、そして声に釣られるようにユリがそちらを見て、ユリが目を丸くした。

 そして、何が何だかといった表情で、呟く。


「クー、レ、ちゃん……?」


 目を丸くし、呆然とした表情を見せるユリに、クーレは楽しそうに微笑みを返すのだった。

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