リュール救出
しばらく走り、ヴェルディーゼとユリはクラシロエスの拠点に到着した。
しかし、入口にはクラシロエスに所属しているらしき白ローブが立っており、二人を阻んでいる。
どうやら簡単に行かせるつもりはないらしい。
「ど、どうしますか、主様……?」
「……そう、だね……ユリ、深淵の展開はできる? ほら、深淵で結界を作ったやつ……」
「でき、ます……けど……?」
「……じゃあ、ユリがリュールを助けて。交戦はしなくて大丈夫だよ。僕が障害は全部潰すから」
「え……っと、それってどういう……」
「リュールの居場所は感覚でわかるようにしておくね。ユリは、とにかく駆け抜けて」
わざと無視しているらしいヴェルディーゼをユリが睨み、しかしすぐに頬を引き攣らせた。
ヴェルディーゼが白ローブに接近し、長剣を振って道を開けさせる。
そして、入口へとユリを投げた。
「ちょ……っ」
「リュールが生贄にされる前に、早く走って!」
「え、え、えええっ……!? ……あーもうっ、わかりました……っ!」
あまりにも唐突でユリは混乱してしまったものの、立ち止まって追及したところで無駄に時間が過ぎていくだけなので今は何も言わずに言われた通りに走り出した。
ヴェルディーゼの言う通り、感覚でリュールの居場所はなんとなくわかるのでユリがとにかくそちらに向かって走る。
もちろん中にクラシロエスの者がいないはずもなく、ユリは襲われるがそのほとんどはヴェルディーゼに殴られたり剣を投げられたりして撃退され、ごく一部のヴェルディーゼの攻撃を運良く抜けられた者はユリが深淵による結界で対処していた。
その影響でちょっと腕が深淵に取り込まれたりはしてしまったが、ユリはそれを直視しないことで何とか精神的ダメージを受けることは避けて駆け抜ける。
「次は、こっち……! ……っと……?」
巨大な瓦礫に阻まれ、ユリが足を止めた。
床から天井までを埋める瓦礫、その奥に、確かにリュールがいる。
しかしどうしたものかとユリが悩み、ちらりと背後を見る。
僅かながら、クラシロエスの白ローブが迫ってきていた。
ユリが唇を噛み、覚悟を決めて鎌を取り出す。
そして、思い切りそれを振って瓦礫を粉砕した。
ユリがバッと粉々になった瓦礫の中へと飛び込み、リュールの傍に駆け寄る。
「リュールちゃん!」
「……おね、え、ちゃ……」
「あ……リュールちゃん! リュールちゃん!? 大丈夫ですか!?」
「……ごめん、なさ……わたし……」
「……大丈夫です。いいんですよ。だから早くお家に帰りましょう」
ユリがそう言ってリュールを抱き締め、しっかりと抱え上げた。
そのまま運ぼうとするが、それを白ローブが阻んできた。
ユリがヴェルディーゼの気配を探り、その状況を確認する。
どうやら白ローブに囲まれているらしかった。
しかし、ヴェルディーゼならばそのくらい吹き飛ばせそうなものなのでわざとな気がしないでもないが。
「……お、おねえちゃん……あ、あの、人達っ……、……わ、私のこと、置いてっていいから……に、にげ……」
「大丈夫ですから、震えてまでそんなことを言わなくていいんですよ」
神に攫われ、そしてヴェルディーゼに助けられた時のことを思い出しながら、ユリが優しい声で言う。
そして、しっかりと鎌を握り、白ローブを睨んだ。
「……通してくれます? 私としても、無闇に人を傷付けたくはないんですけど?」
「……」
「無言ですか。んじゃ、まぁ」
ユリが鎌を白ローブに向かって投げた。
そして、白ローブの意識が鎌に向いたと同時に駆け出し、すれ違いざまに白ローブを殴り飛ばしつつ逃走する。
応戦できればそれはそれで良かったのだが、やはりユリには無理。
下手に向かっても身体が動かなくなるだけなので、それならと鎌を攻撃ではなく逃げるために使ったのだろう。
大きな凶器を投げられては、無視するわけにもいかなくなってしまうだろうから。
「主様ぁ〜! 私はここでーす! リュールちゃん確保しました! 迎えに来てくださいー! 道がわかりませんー!」
走り、次々と鎌を投げながらユリが叫ぶ。
何せ超が付くほどの方向音痴である、先程まではリュールを一直線に目指していたのでなんとかなったが、入口がどこかなんて全く覚えていない。
そもそも、リュールを確保するまでの道も最適解なんて選べてはいなかった。
最終的に到達できればそれで良かったのでなんとかなっただけで、ユリにはどう行けば出られるかなんて全くわからないのである。
情けない話ではあるが、ヴェルディーゼに迎えに来てもらうのが一番だ。
下手に動けばヴェルディーゼからも入口からも遠ざかることになる。
今は白ローブに追われているので動かないわけにもいかないのだが。
「……あ、いた。ちょっと待ってね、ユリ」
ヴェルディーゼがそう言って魔法でさっさと白ローブを吹き飛ばした。
そして、リュールごとユリを回収し声を掛ける。
「ユリもリュールも、怪我はない?」
「私はないですけど、リュールちゃんは……?」
「ない、です。……お姉ちゃん、本当に、ケガはない……?」
「無いですよ〜。大丈夫ですから……主様、帰りましょう」
「……そうだね」
ヴェルディーゼが肩を竦め、ジッとユリを見つめながら二人を屋敷へと案内し始めた。




