対抗心
ユリが枕を抱き締め、じとーっとした目をヴェルディーゼに向けながらシュエルにもたれかかる。
リュールがヴェルディーゼに夢中なので、ユリは主にシュエルと話をしていたのだが、かれこれ一時間は経っている。
お陰でシュエルとはかなり打ち解けられたものの、リュールは一切ヴェルディーゼの傍から動かないので流石にユリは子ども相手とはいえどもかなり拗ねてしまっていた。
「……妹がごめんなさい、ユリさん」
「シュエルちゃんが謝る必要はないですよ。リュールちゃんも子どもですから……時間を忘れてしまっているだけだっていうのも、わかっています。……けど、けどぉ〜……私の恋人なのに……」
「……やっぱりそういう関係なんですね。やっぱり私がリュールを叱って……」
「うぎゅぅ……でも、楽しく話してただけで怒られるって、リュールちゃんからしたら理不尽じゃないですか……? 恋人同士って関係を理解できるか怪しい年齢ですし……」
「してると思いますよ。一生懸命ボディータッチしてるので」
「!?」
ユリがギョッとしてヴェルディーゼではなくリュールの方へと視線を向ける。
すると、リュールはシュエルの言葉通り、一生懸命にヴェルディーゼと手を繋いだり、ぎゅっと抱きついたりとボディータッチをしていた。
もちろん子ども相手なのでヴェルディーゼは微笑ましそうに目を細めるばかりだが。
ボディータッチと言うには可愛らしさしかないのだが。
「……可愛い〜……」
「ふふ、あの子はまだ幼いですからね。おおよそ、構ってもらおうと父上と母上の寝室にでも行った時にイチャつく二人でも目撃したのでしょう」
「あー……仲良し夫婦なんですね。それにしても可愛い……。……!?」
ふとリュールがユリへと視線を移し、見せつけるようにヴェルディーゼへと抱きついた。
ユリがピシリと固まり、わなわなと震える。
しかし相手は子どもである、ここで怒るのは流石に心が狭すぎるというものだ。
いやでも、自分はあの人の恋人で……と、ユリが震えながら葛藤する。
そして、ユリはパッと立ち上がり、ヴェルディーゼの傍へと駆け寄った。
そして、対抗するようにひしっと抱きついてヴェルディーゼを見上げる。
「……ん? どうしたの?」
「一時間もお話できないのは寂しいです」
「……子ども相手に嫉妬?」
「ニヤニヤ笑ってないで構ってくださいよほら。可愛い可愛い主様の恋人が甘えてますよ〜」
「ふふ、ごめんね。ユリのことは見てたけど、楽しそうにしてたから」
「寂しい気持ちをシュエルちゃんと話すことで紛らわせてただけです〜。……主様」
「はいはい、わかってるよ」
ヴェルディーゼが笑いながらユリの頭に手を伸ばすと、ふにゃふにゃとユリが崩れてヴェルディーゼにもたれかかった。
リュールはそれに動揺した顔を見せ、対抗しようとする。
と、そこでシュエルが動き、さっとリュールを回収した。
「あっ! お、お姉さま……!」
「駄目ですよ、リュール。二人は父上と母上のような関係なんです。邪魔をしてはいけないでしょう?」
「うぅ……でもぉ……」
「でも、じゃありません。お姉様がちゃんとリュールに構ってあげますから。それとも、それでは駄目ですか?」
「……ううん、だめじゃないよ……でも、でもね……私! お父さまじゃなくて、お兄さんと結婚っ」
「駄目です」
容赦なくぶった斬られ、リュールが固まった。
それを聞き、ユリが頬を染めてヴェルディーゼの頬を手のひらで包みながら言う。
「あ、あ、あ、主様……私とは遊びだったんですねッ!?」
「……ふざけられる程度には復活したみたいで何より。顔赤くして言う台詞じゃ……いや、怒りで顔を真っ赤にしてるなら……でもユリは僕に怒らないからなぁ、あんまり」
「主様が酷いことをするせいで怒ることはありますけど。クーレちゃんのことを隠してたこととか」
「ふふ……」
「笑って誤魔化さないでください、もう! ……あの、主様。私も子どもは好きですし、我慢しますけど……ずぅっと一緒にいたのに、子どもがいるからって長時間ほったらかしにされるのは嫌ですからね? たまにでもいいから声くらいは掛けてくださいね? 駄目なら目を合わせるだけでもいいですから! ね!」
必死にすら見える形相でユリが言うと、ヴェルディーゼがぎゅうっとユリを抱きしめて頷いた。
そして、からかうように笑いつつ口にする。
「そうだねぇ。ユリは情緒不安定だから、放置してたら子ども相手でも捨てられるんじゃないかとか思いかねないし。……それはそれで……可愛いけど……」
「私の泣き顔でも見たいんですか?」
「うん」
「……え。あ、はい……そうですか……」
ヴェルディーゼはユリの泣き顔を見たいらしい。
若干引きつつ、とはいえ自分もヴェルディーゼの泣き顔は見てみたいかもしれないとユリが内心首を傾げる。
ユリもヴェルディーゼと同類である。
「……んん。あの、リュールちゃんとは、どれくらい仲良く……?」
「あー……まぁ、うん。……懐かれたね……」
「その程度を聞いているんですけど」
「……視線がたまに唇に来る」
「ひぇ!? は、破廉恥……!? わ、わた、私ですら、自分からは……あうぅぅ……」
「とりあえず、そんな感じで……うん。……気を付けるね……」
「本当ですよ!! 主様は! 私の恋人なんですからね!!」
ユリがそう宣言し、照れたように笑うとひしっとヴェルディーゼに抱きついた。




